【後半戦でチームをけん引】

「収穫の大きなシーズン」と言っていいだろう。いや、「充実の後半戦」と言い換えたほうが適切だろうか。

 NBAで5年目を迎えた2023‐24シーズンの八村塁は、ロサンゼルス・レイカーズの一員として68試合に出場し、1試合平均13.6得点(FG成功率53.7%、3P同42.2%)、4.3リバウンド、1.2アシストをマーク。

数字だけを見れば、過去4年の成績と似ており、例年どおりの働きだったようにも見える。

八村塁がレイカーズで主力へと成長した理由「やっと自分らしくで...の画像はこちら >>
 ただ、今季のレイカーズを見守ってきたファン、関係者には、そのたくましい成長ぶりがよく理解できたはずだ。

「今は勢いよくやっています。そのアグレッシブさが(いい方向に)出ているんじゃないかと思うので、続けていきたいと思います」

 2月下旬、八村に自身の好調の理由を尋ねると、自信に満ちた表情でそう述べた。実際に、2月中旬のオールスターブレイク以降は26試合で平均31.0分をプレーし、同16.2得点(FG成功率56.4%、3P同45.1%)、5.3 リバウンド。その間、レイカーズは17勝9敗と好成績だったが、背番号28の力強いプレーが不可欠だったことは間違いない。

 ブレイクした背景として、スタメンに固定されたことが大きかっただろう。今季の前半戦は起用法が安定しなかったが、2月3日以降(現地時間。以下同)はレブロン・ジェームズ、アンソニー・デイビスらのスーパースターたちとともに先発入り。ほかの主力メンバーとの間にケミストリーも芽生えた。

 その過程で、いわゆる"3-D(3Pとディフェンスに特化した選手)"的な役割に甘んじず、持ち前の身体能力を生かした果敢な切り込み、豪快なダンク、強靭なポストプレーに挑む機会も増えた。同時に、精神的な落ち着きが感じられるようになっていった。

「NBAの生活に慣れてきていると思います。今季は70試合近くプレーできていますが(最終的に自己最多の68試合に出場)、それは5年目でやっとできてきたこと。どれだけ大変かは、見ている人にはあまりわからないかもしれないですけど、ロードゲーム、ケガ、シーズンの長さ、メンタルもどれだけ大事かということがわかってきています。そのなかでもハイレベルでできていると思うので、それはいいことだと思います」

 八村が快適にシーズンを過ごしていることは、周囲からも見て取れた。数年前のように露骨にメディアを避けることはなく、コート上でも頻繁に天真爛漫な笑顔を見せるようになった。NBAキャリアでもベストと思えるパフォーマンスは、精神的な安定からもたらされたものでもあったのだろう。

【「自分が自分らしくできるチームに行けた」】

 特に、4月3日にワシントンDCで行なわれたウィザーズとの試合で、八村が見せた活躍は印象的だった。

 2019年のドラフト1巡目全体9位で指名され、3年半を過ごした古巣のチームから、リーグ最大級の名門チームであるレイカーズに移籍した電撃トレードからもう1年以上が経つ。試合開始前のイントロダクションでは「Thank You Rui」というメッセージつきで紹介されてウィザーズのファンから大歓声を浴び、その後のゲームでものびのびプレーした。

「トレードされてからずっと(ワシントンに)帰ってきていなかったので、今日は楽しみにしていました。レブロンほどとはいかなかったですけど(笑)、それなりに声援をもらえたと思うのでよかったです。いざ戻ってくると、いろんないい思い出が頭をよぎりましたし、恋しい感じにはなりましたね」

 19得点、7リバウンドと好成績を残して勝利に貢献し、試合後の言葉も滑らかだった。

ウィザーズ時代からの、自身の成長をあらためて実感できただろう。この日、ウィザーズでの八村をよく知る地元メディア関係者も、正直な感想を述べていた。

「レブロン、デイビスというふたりのスーパースターから学び、ルイがたくましく成長しているのを感じるよ。ルイがいた頃のウィザーズは、ヘッドコーチ(ウェス・アンセルドJr.)が決して上質ではなく、(エースだった)ブラッドリー・ビールは、いい選手ではあっても優れたリーダーではなかった。

 また、同じポジションには実績あるカイル・クーズマもいて、やはりドラフト1巡目で指名されたデニ・アブディヤとプレー時間をシェアしなければいけなかった。総合的に見て、ルイの力が引き出される環境ではなかったと思う」

 そんな古巣から離れ、新天地で切磋琢磨し、厳しさと同時に勝利に向かってプレーする楽しさを知った八村は成長を続けた。

NBAでの生活、スタメンの役割にも適応することで、常に勝利が求められるチームに必要不可欠な存在になった。レイカーズへの移籍が八村のキャリアにとって重要な意味を持っていたことは、本人のこんな言葉からも明らかだ。

「やっと自分が自分らしくできるチームに行けたなと。ワシントンでは毎年のようにチーム(の形)が変わりましたが、今が一番、オンコート、オフコートでも自分らしさが出せていると思います」

 心身が充実したいいタイミングで、レイカーズと八村は重要なポストシーズンを迎えている。4月17日のプレイイン・トーナメント第1戦で、レイカーズはニューオリンズ・ペリカンズを撃破。八村はここでも13得点で勝利に貢献し、ウェスタン・カンファレンスの第7シードでプレーオフに臨むことが決まった。

 プレーオフ第1ラウンドでは、昨季王者のデンバー・ナゲッツとの対戦が待ち受けている。1年前のプレーオフで屈辱的な4連敗を喫したナゲッツとの"リマッチ"は、レブロン、デイビス、そして八村にとっても大勝負。厳しい戦いになりそうだが、期待感はある。強豪との戦いの中で、八村がさらに大きく成長することを楽しみにしている。