風間八宏のサッカー深堀りSTYLE

独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析する。今回はマンチェスター・シティで大活躍中のフィル・フォーデンに注目。

プレーが進化した要因は?

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【前方向のプレーが圧倒的に増えている】

 プレミアリーグ4連覇が現実味を帯びてきた今シーズンのマンチェスター・シティにおいて、ますます存在感が際立っているのがフィル・フォーデンだ。

「メッシとボールの持ち方が同じ」マンチェスター・シティ、フォ...の画像はこちら >>
 これまで、プレミアリーグ31試合に出場し、16ゴール7アシスト(第35節終了時)。準決勝で涙を呑んだチャンピオンズリーグ(CL)では8試合に出場して5ゴール3アシスト。さらにFAカップでも4試合で2ゴールを記録(準決勝終了時点)。とりわけシーズン後半戦は、数字に表われる以上のハイパフォーマンスを披露しており、いよいよチームの大黒柱になった印象だ。

 シティの下部組織で育ったフォーデンがトップデビューを果たしたのは、2017年11月21日に行なわれたCLのフェイエノールト戦。その約1カ月前にインドで開催されたU-17W杯で大会MVPに輝き、イングランドの初優勝に大きく貢献したばかりとあって、当時から注目を浴びるスター候補だった。

 あれから6年以上の月日が流れ、当時17歳だった若武者は、イングランドを代表するプレーヤーへと成長。ワールドクラスが揃うシティゆえ、すぐにブレイクすることは叶わなかったが、しかしジョゼップ・グアルディオラ監督の指導の下、着々と成長の階段を上り、誰もが認めるワールドクラスへと進化を遂げることに成功した。

 果たして、その成長プロセスのなかで、フォーデンのプレーはどのような変化を見せているのか。独自の視点を持つ風間八宏氏が、詳しく解説してくれた。

「もちろん、すべての部分で進化していると言えますが、そのなかでも目立っている変化のひとつが、プレーする方向ですね。

 以前はボールを受けてから横方向にプレーすることが多かった印象でしたが、現在は前方向へのプレーが圧倒的に増えています。

前を向いてプレーできるようになると、どの方向にもパスが出せるうえ、ゴールに近いところではそのままシュートに持ち込めるようにもなります。

 昨シーズンからゴールやアシストなど、試合を決める場面で存在感を示し始めたのは、そういった変化が影響していると思います。

 しかも、それができるようになったことで、プレーする場所も変化しています。以前はほとんどサイドでプレーしていましたが、現在はトップ下を任されるなど中央でも活躍できるようになった。スタートポジションがウイングでもインサイドハーフでも、試合中にあらゆる場所にポジションをとって、チーム全体を動かすこともできるようになっています」

 風間氏が指摘したとおり、確かにフォーデンが任されるポジションも変化しつつある。

 一昨シーズンこそ、チーム事情により偽9番(ゼロトップ)を任されることもあったフォーデンは、基本的にはウイングが主戦場だった。

しかし、アーリング・ハーランドという特別なストライカーが君臨する現在のチームにおいても、フォーデンが中央で活躍することが普通になっている。

【ボールを正確に止められ、ものすごく速い選手になった】

 では、なぜフォーデンは中央でこれほどの輝きを見せられるようになったのか。その理由を、風間氏が説明してくれた。

「それは、フォーデンがシティのようなプレースピードの速いチームのなかに入っても、正確にボールを止めることができるからです。

 自分が止まっている状態はもちろん、動きながらでもボールを正確に止められるようになったので、狭い場所でも素早く前を向ける。ここで言う"ボールを止める"とは、ただ足元にボールを止めることではなく、次のプレーをするための場所に速く正確にボールを置く、という意味です。

 ボールを正確に止めることができれば、自然とプレーのスピードも速くなり、素早く前を向くこともできる。

以前のフォーデンを見ていても速い印象は受けませんでしたが、現在はものすごく速い選手になったと思います。これは、足が速くなったということではなく、プレー自体が速くなったという意味です。

 シティのサッカーは、パススピードも含めてすべてが圧倒的に速い。あの速さは実際に中に入ってプレーしなければわからないレベルだと思いますが、あのスピードのなかで時間を止めることなくプレーできるのは、限られた選手しかいません。実際、あれだけ順応していたはずのハーランドも、最近は苦戦しているように見受けられます。

 そんななか、現在のチームの時計を握っているのが、フォーデンです。

これまでその役割を担っていたケヴィン・デ・ブライネもそうですが、現在はデ・ブライネが欠場していても、フォーデンがいれば全体の速さが保たれるようになった。それこそが、フォーデンの進化を象徴している現象だと思います」

 正確性こそが速さを生み出す。これは、一流選手に共通しているポイントで、フォーデンもプレーの正確性が高まったことで、より速くプレーできるようになったようだ。

メッシと共通するボールの持ち方に変化】

 そんなフォーデンについて、もうひとつ風間氏が見逃せないポイントを指摘してくれた。それは、左利きのフォーデンならではの変化だという。

「以前のフォーデンもそうでしたが、左利きの選手の多くはボールを自分の左足の横に置く傾向があります。

それによって、ボールを止める時に体が横向きになってしまう。

 そうなると、ボールを受けてから前を向くまでにボールを持ち直す必要があるので、どうしても時間がかかってしまううえに、受けた瞬間の視野も限定されてしまいます。

 しかし、ディエゴ・マラドーナやリオネル・メッシは左利きですが、ボールを受ける時に横向きにならないので、すぐに前方向にプレーができる。そもそもボールを置く場所が普通の左利きの選手とは違っています。

 フォーデンも、それができるようになったということ。以前は左利きの選手によくあるボールの持ち方をしていましたが、現在はマラドーナやメッシと同じように、素早く自分の前にボールを置くことができるようになった。これも、見逃せない変化だと思います」

 2000年生まれのフォーデンは、まだ23歳。この先、どのようなスペシャルな存在へと進化を遂げていくのか、今後も要注目のプレーヤーだ。