2023-24シーズンのラ・リーガは残り3試合。第36節、本拠地レアレ・アレーナでのバレンシア戦で、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英(22歳)が真価を発揮している。
「アクロバティック」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は、そう端的に久保のプレーを評している。
「シルバへのアシストは、まさに天分的才能の表れだった。ボールがアウトするギリギリ、アクロバティックな格好でアウトサイドを使って折り返した。相手に挑みかかり、フェイントで翻弄し、(アルバロ・)オドリオソラをうまく使った。
激賞に近い。コンディションさえ整えば、猛者たちをも震え上がらせるプレーができるのだ。
完璧なボールコントロールからドリブル。その一点だけ切り取っても、相手に飛び込ませない"達人"の間合いだった。
久保はコンビネーション力でも、他を圧倒していた。決勝点は彼のアシストだったが、試合を通してプレーを作る起点も彼だった。ミケル・メリーノ、アンデル・バレネチェアとの連係で、タイミングとスペースを作り出していた。何気ないパスで相手を動かし、チーム全体を優位にしたのだ。
「タケ(久保)の最大の才能はどこにあるか? ひと言でいえば、Desequiribrio(均衡を崩す)にある。
ラ・レアルの伝説的なキャプテンで、500試合以上に出場したシャビ・プリエトはそう言って、久保の価値を認めていた。
【従来の日本人と一線を画す戦闘力の高さ】
「ダビド・シルバが引退し、アレクサンダー・セルロートは移籍し、コンビを組む選手は変わったけど、タケは誰とでも適応できる。開幕からカルロス・フェルナンデス、ミケル・オヤルサバル、ウマル・サディク、アンドレ・シルバと組んできて、それぞれの力を引き出している。その連係力こそが、タケの魅力と言えるだろう」
欲を言えば、久保はダビド・シルバのようなパートナーを得ることで、相手をもっと翻弄できるはずだった。
アルセン・ザハリャンはプレースキックが得意だが、全体的にプレーがスローで、久保の感覚にはついていけていない。
それでも、プリエトが語っていたように、久保は周囲の最大限を引き出している。本来の力を出せれば、ラ・リーガ屈指のアタッカー。今シーズンのラ・リーガ年間最優秀選手賞、U-23年間最優秀選手賞にノミネート(それぞれジュード・ベリンガム、ラミン・ヤマルなど計10人)されたのも、驚きではない。
久保が過去の日本人選手と一線を画している点は、戦闘力の高さにあるだろう。
「Tirar del carro」
スペイン語で「一番つらい仕事を引き受ける、先頭に立ってやる」という意味だが、それは責任感や勝利への欲求とも言い換えられ、エースの条件と言われる。「重い荷車を引いていく」というニュアンスで、リーダーシップの喩(たと)えだ。
実際、バレンシアは久保を相当に警戒していた。前半からコツコツと足を削り、腕を引っ張ってストレスを与えている。
久保はそれに怯まず、先頭に立ってチームに勝利をもたらしたのだ。
バレンシア戦の勝利で、ラ・レアルは6位に浮上した。ヨーロッパリーグ出場圏内に戻ってきている(7位以内で欧州カップ出場は確保。ただし7位の場合はヨーロッパカンファレンスリーグに回る)。
次戦は7位のベティスとの直接対決だ。中二日での試合、久保は正念場でチームを勝利へ導けるか。