日本代表ゆく年くる年~杉山茂樹×浅田真樹(前編)
W杯予選では順調に白星を重ね、早くも突破に王手をかけた2024年の日本代表。だが、そこに死角はないのか。
杉山 2024年の日本代表を振り返ると、元日のタイ戦から始まって、アジアカップ、W杯予選と、アジアの国々との対戦が続きました。
浅田 アジアカップは準々決勝で敗退したわけだけど、敗因は、基本的にはモチベーションの問題だったと思います。簡単に言ってしまえば、やる気がなかった。2022年の年末にカタールW杯が終わってクラブに戻り、2023~2024シーズンはクラブで本腰を入れているところ。そのリーグ戦は佳境に入り、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグもあるというタイミングで、もちろん選手は絶対に口にしないけど、「アジアカップですか?」というのはあったと思います。日本の戦術的な問題がどうのこうのという話もあったけど、根本的にはモチベーションの問題なので、W杯予選は心配ないと思っていたら、案の定、そうなった。
杉山 同感です。日本代表としての過ごし方が難しくなった。単発の試合ならまだしも、アジアカップのように長い期間、拘束される大会だと、選ばれるのは迷惑だという選手もいると思う。そんなことは口が裂けても言わないけど、そういう選手の気持ちは察するしかない。メディアに関していうと、アジアカップで苦戦したせいもあるかもしれないけど、W杯のアジア枠が増えた瞬間に、こういう楽な戦いになることは、ある程度、読まないといけない。他の国がだらしなさすぎるということをさておき、日本勝ちすぎだし、飛ばしすぎ。誰かがブレーキをかけて、「今回は新しい選手を入れていきましょう」という話をしないといけない。
10月のサウジアラビア戦、オーストラリア戦の前に、森保一監督の隣にいた山本昌邦ナショナルチームダイレクターは「歴史的な戦い」と言っていた。ただ、最終予選というと、すぐに1993年のドーハや1997年のジョホールバルをイメージするけど、もはやそういう時代ではないでしょう。協会も選手の気持ちを察することができているのか。以前、吉田麻也が、ヨーロッパと日本を往復するのがいかに大変かを語っていたけど、負担を公平に分担するという発想も必要です。
【著しいJリーグの空洞化】
浅田 とはいえ、もっと国内組中心で戦う代表戦があってもいいんじゃないかとずっと思ってきたけど、ここ最近のJリーグを見ていると、人材不足は明らかで、「おお、これは」という選手があまりいなくなった。「国内組で......」と言いにくい感じは正直、ちょっとあります。たとえば2022年のE-1選手権で優勝した時は、藤田譲瑠チマとか岩田智輝とか、横浜F・マリノスの選手を中心に「こういうメンバーの試合もあったほうがいい」と思えたのですが、もうそういう感じはない。
杉山 国内組に関しては、魅力的な選手がここ1、2年で極端に減ったのは確かですね。
浅田 一時期、大卒ブームみたいなものがあって、大卒で代表に入る選手が増えました。
杉山 価値が認められたのはいいことだけど、そういう時代に日本代表はどう対応するかですね。
浅田 それ以上に、今回のW杯予選を見ていての一番の感想は、思った以上に他国が弱いこと。もともと日本が出場を逃す心配は1ミリもしてなかったけど、こんなにも弱いのか、と。
杉山 オーストラリアもサウジアラビアも目も当てられない。
浅田 2010年大会の予選の時はアウェーでオーストラリアに負けていましたが、足をすくわれたというのではなく、力負けに近かった。もうそんなムードはまったくない。始まる前、僕は日本とサウジアラビアが2強で、少し落ちてオーストラリア、それをインドネシアかバーレーンが食うかもしれない、というような勢力図だと思っていたけど、始まってみたら単なる日本の1強5弱だった。
【「久保は呼ぶけど三笘は呼ばない」もあり】
杉山 その新しい勢力図は、遅くとも4戦目を終えた段階でわかっていたはず。そのうえで日本はどうするかという5戦目、6戦目で、またベストメンバーを選んでしまった。
浅田 百歩譲って、予選突破までは勝ちに徹するんだという意見をのんだとしても、ここから先、本大会に向けてどう進展させていくのか。
杉山 一方で、ヨーロッパのクラブにいる選手でも呼ばれてない選手はたくさんいるでしょう。今回の予選では大橋が招集されていたけど、コンセプトをちょっと変えて、少し下のカテゴリ―の人を呼ぶだけでもずいぶん違う。今のレギュラーも2026年にはケガをしている可能性、所属クラブで出られなくなっている可能性は十分ある。今のベストがいつ崩壊するかなんて誰もわからない。その備えはまったくできていない。
代表メンバーの27人を30~40人ぐらいで回していくことができれば、負担を分散させることもできる。たぶん森保監督もサッカー協会の幹部も、今の選手がどれぐらい大変かわかっていないと思います。チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグを含めてこれだけのハードスケジュールで戦ってきた人はいないから。
浅田 毎回ターンオーバーで全員を入れ替える必要はないけど、「今回、三笘薫は呼ぶけど久保建英は呼ばない」「久保は呼ぶけど三笘は呼ばない」ということがもっとあってもいい。それが、彼らに何かがあったときの備えにもなる。
杉山 たとえば右ウイングに久保、堂安律、伊東純也がいるとして、毎回3人とも呼ぶ必要はあるのか。左も三笘、中村敬斗、前田大然がいて、同じことが言える。
浅田 しかも、呼んでも使わないことがある。普通、インドネシア戦に4点リードしたら、藤田を出してくれよと思いますよね。
ただ、あえて森保監督を擁護するとすれば、ベストメンバーを集めたくなる理由がないわけではない。日本代表に関して、テレビ地上波の放送がなくなったり、配信も怪しくなったりという状況で、ベストメンバーは来ないけど「中継してください」「チケット買ってください」と言っても、「それは......」という話になるでしょう。「こちらも最大限、ベストを皆さんにお見せできるように努力します」という姿勢を見せなければならないという気持ちは、わからなくもない。
【どうなる?パリ五輪世代】
杉山 山本ナショナルチームダイレクターが「歴史的な戦い」と、大げさな表現で言ったのも同じことでしょう。視聴率を上げたいという思惑を100%否定するつもりはない。ただ、日本のサッカー産業の中心に日本代表がいる状態は少しスライドさせていかないと。
浅田 たとえばW杯予選をもっと地方でやってもいい。イタリア代表もスペイン代表も常に首都のスタジアムでやっているわけじゃないんだから。
メンバーの固定化について言うと、老婆心ながら2002年のあとの2006年、2010年のあとの2014年を思い出します。
杉山 それで言うと、東京五輪の代表は森保監督が兼任し、五輪代表とフル代表を一緒に混ぜるように仕向けていた。なぜパリ五輪ではそれをしないのか。山本ナショナルチームダイレクターは「上がつまっている」と言うけど、下から来ているのは確かなのに、その流れに上から栓をしてどうするんだ、と。ここにも行きづまり感がある。
浅田 東京五輪の頃はさかんに「1チーム2カテゴリ―」という言葉が使われていたけど、そんな言葉も聞かれなくなったし、パリ五輪組はなかなか代表に入ってこない。「実力がないからだ」と言うかもしれないけど、そんなことはないし、仮にそうだとしても、使わなかったらそのつけはあとから来ます。
ちょっとビックリしたのは、サウジアラビア戦、オーストラリア戦のメンバーに、町田ゼルビアの望月ヘンリー海輝が選ばれていたこと。パリ五輪世代で、パリ五輪のメンバーには選ばれていない選手が選ばれた。彼は、五輪はおろか、大学生中心で出たアジア大会ですら選ばれてない。
杉山 森保監督がメンバー発表する際、隣には山本ナショナルチームダイレクターがいるわけです。大岩監督の隣にも山本さんがいた。彼は、パリ五輪のメンバーでない選手が五輪代表のメンバーより先にフル代表に入る矛盾について、「こういう理由があるからだ」と、少なくとも説明しないといけない。
そのことも含めて、日本サッカーの方向性に関わることを決めたり、話したりすべきなのは森保監督ではない。山本ナショナルチームダイレクターなのか技術委員長なのか会長なのか。そういった人たちの仕事だと思います。
(つづく)