現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 ヨーロッパリーグのマンチェスター・ユナイテッド戦を控える、レアル・ソシエダの久保建英。ここのところ、子どもたちに親切に対応しサインをする多くの動画が拡散されている。

 地元で彼はどう見られているのか。スペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、彼の人気ぶりを書いてもらった。

【非常にフレンドリーで、楽しく、愉快な人物】

 久保建英はサン・セバスティアンでアイドル的存在だ。レアル・ソシエダに加入して以来、チュリウルディン(※レアル・ソシエダの愛称)のすべてのファンを虜にしているが、実際にこの日本人選手のどこに惹かれているのだろうか?

久保建英は「非常にフレンドリーで、楽しく、愉快な人物」地元フ...の画像はこちら >>
 答えは至極簡単だ。久保が非常に優秀で、ラ・レアル(※レアル・ソシエダの愛称)でハイレベルのパフォーマンスを発揮しているからにほかならない。そして何より、見ていて楽しい選手であり、漫画から飛び出してきたような選手だからだ。スペインで子どもに伝説的な人気を博す『ドラえもん』の大晦日特別編に、ラ・レアルの選手として出演したことはこちらでも話題になった。

 だが、久保が単にラ・レアルで成功を収めただけなら、サポーターからこんなにも愛されることはなかっただろう。これほどまでにメディアを賑わすには、他の何かが必要なのだ。そして久保にはその何かがある。特に若いサポーターにとっては、彼の在り方が魅力的な付加価値となっているようだ。

 久保が日本のサポーターの前でどんな態度を取るのかわからない。彼は以前、私に「母国のメディアで話す時はより真面目になる。

日本人はここの人ほど冗談を言わないし、自国の人たちや文化などを尊重するため、発言にはもっと注意しなければならない」と言っていた。

 一方、スペインメディアの前ではとても自然体で、ほとんどフィルターを通さず思っていることを素直に話すので、とても透明感があるように感じられる。そのため非常にフレンドリーで、楽しく、愉快な人物だと、ここのサポーターには伝わっている。彼は私たちの国の言語で一般的に使われる表現や、さらに時々スラングを用い、しばし路上で友だちと会話しているように話す。それが多くのサポーターに親近感を持たれる要因でもあるのだ。

【子どもたちを虜にしている】

 久保は、なかでも子どもや若者から特に人気がある。それは前述のエピソードの結果であるとともに、SNSの存在が拍車をかけている。彼自身はSNSを積極的に活用しているわけではないが、彼の在り方や行動が、子どもたちが視聴する多くの動画の主人公につながることが多いからだ。ゴラッソを決めるにせよ、独特のスタイルで何かを語るにせよ、拡散される動画の主役になり得る能力が彼には備わっている。

 久保が意識的にそのような側面を求めているわけではないし、注目されていることもあまり気にしていないように感じる。しかし彼を取り巻く環境はそうではない。私たちが「クボ現象」あるいは「クボマニア」と呼んでいるものが存在するほどだ。

 私はほぼ毎日、ラ・レアルに関するさまざまな仕事でスビエタ(※レアル・ソシエダの練習場)に通っているが、その施設の入り口に久保の写真やサインを求める日本人ファンがいない日はない。

それが彼の帰宅時に重なる時は車から降り、わざわざ遠くから来てくれたファンに優しく接し、写真を一緒に撮り、サインを書き、リラックスした状態で談笑し、笑顔を絶やさず対応している姿を私は何度も目にしている。

 その優しさは彼の生まれた国や文化によるものかもしれないし、あるいは単に彼がそういう人間だからかもしれないが、彼を特別な存在にしているもうひとつの側面はファンとの接し方。それが他の選手と一線を画す点だ。

 常にフレンドリーかつ丁寧に接し、時間を使ってファンを特別な気分にさせている。それがサン・セバスティアンの子どもたちをも虜にしている。ここまで丁寧な対応を日常的にしている姿は、他のアイドルにはあまり見られないものだ。これらすべてが相まって、彼をサッカー界で珍しい存在にしているのだ。

 おそらく、彼の学んだことや育った環境や文化、そしてレアル・マドリードに所属していたことなど、さまざまなものが混ざり合ったその生き方が彼を他とは違う選手にしており、子どもたちのアイドルになっているのだと思う。

【マンチェスター・ユナイテッド戦は主役になるチャンス】

 久保は来るマンチェスター・ユナイテッド戦で、これまで同様に自分らしさを発揮する必要がある。行き詰まりを感じる瞬間にプレーを創作し、試合の流れを変えることができる、漫画の世界から飛び出してきたような選手に再びならなければいけない。

 この対戦はラ・レアルでの成長を見せつける絶好の機会だ。ヨーロッパリーグ(EL)のミッティラン戦後、「ラ・レアルを去る時は何か大きなことをして去りたい。

僕はまだラ・レアルのためにすべてを捧げたわけではない。やるべきことが残っている」と私たちに語っていた通り、その実力を示す時である。

 相手は近年最悪の時期を過ごしているとはいえ、ヨーロッパで最も権威のあるクラブのひとつ。その相手をELで敗退させる主役となるチャンスが間近に迫っている。この試合での活躍は、ファンに愛される選手としてクラブの歴史に名を残す瞬間となる。

 ラ・レアルがラウンド16を突破できるかどうかの鍵は、まさに久保の奮起にかかっている。もちろんチームとしての力が最重要だが、久保の違いを生み出す能力が最終的に勝敗を分けることになるだろう。ラ・レアルが中盤で競争力を発揮し、守備で不条理なミスを犯さなければ、久保の才能を発揮するための土壌は十分に整うはずだ。

 マンチェスター・ユナイテッド戦は、国王杯準決勝第1戦のレアル・マドリード戦でやったことを再現しなければならない。この試合でラ・レアルは高いレベルで競り合い、久保とアンデル・バレネチェアが違いを作り、すばらしいサッカーを披露したが、いいパフォーマンスを締めくくるゴールが唯一足りなかった。

 得点力不足はラ・レアルが今季慢性的に抱えている問題だ。「いいプレーはしているのに勝てない」という状況を繰り返さないために、久保はもっとゴールに関与しなければならない。

いくらいいプレーがあろうとも、ゴールこそが勝者と敗者を分けるものであり、久保はそれを嫌というほどわかっているからこそ、その点で自分に厳しいのだ。

 人々はラ・レアルのスターとして久保を称賛し、拍手を送り、大きな期待を寄せる。今のラ・レアルにはスポーツ面でもメディア面においても彼ほど注目される選手はいない。それを再確認するのが、マンチェスター・ユナイテッド戦となることを期待したい。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)

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