現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 今回は、昨季までレアル・ソシエダの地元紙『エル・ディアリオ・バスコ』で番記者を務め、現在はセビージャに拠点を置くデジタルスポーツ紙『エスタディオ・デポルティーボ』でセビージャやベティスを取材するイケル・カスターニョ・カベージョ氏にコラムを依頼。久々に見た久保建英の今季の成長、また改善点はどんなところにあるだろうか。

【攻撃面で最も違いを生み続けている】

 夏にミケル・メリーノとロビン・ル・ノルマンを失ったレアル・ソシエダは今季、浮き沈みの激しいシーズンを過ごしている。シーズンが終盤に差し掛かる現在、チームは昨季ほどサポーターの信頼を得られていないが、ここまで3大会(ラ・リーガ、国王杯、ヨーロッパリーグ)すべてに生き残っている。

久保建英は今季もスペインで高評価 課題は「チームワークをもっ...の画像はこちら >>
 攻撃陣のなかで最も際立つ選手である久保建英は、そのゴールでチームに勝利を呼び寄せてきた。それはデータが証明している。まさにラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)のタリスマン(お守り)だ。

 久保は、サポーターからの愛情や支持を受けている数少ない選手のひとりになっている。その理由は、開幕時から慢性的に得点力に大きな問題を抱えているチームのなかでさらなる成長を遂げ、攻撃面で最も違いを生み続けているからだ。

 昨季と比べてフィジカル面を大きく強化し、チームの攻撃回数が少ないなかでも攻撃面を向上させ、右サイドから多くの創造性を提供している。チャンスがあれば自らゴールを狙い、得意のドリブル突破からクロスをあげ、様々なアクションでチームの攻撃を牽引してきた。

 まだ多くの試合が残るにもかかわらず、久保は公式戦ですでに昨季と同じゴール数を記録している。ここまでエスパニョール、バレンシア、セビージャ、ビジャレアル、レガネス、アヤックス、ミッティラン相手に決めた7ゴールすべてが勝利につながっているのだ。これだけでも久保の攻撃面における貢献度の高さがわかるだろう。

 さらに、最多得点を記録したラ・レアル初年度の9ゴールまであと2ゴールに迫っているため、今季がスペインでのキャリアハイのシーズンになる可能性は十分ある。

 また、ラ・リーガにおけるラ・レアルの得点が昨季の同時期より14点少ないなか、久保が5ゴールでチーム得点王になっていることも評価に値する(※2位は4ゴールのミケル・オヤルサバル)。

【ラ・リーガ最高のMFのひとり】

 アシスト面ではラ・レアル初年度に6アシスト、昨季4アシスト、今季ここまで3アシストを記録しているが、まだ試合は多く残っている。ラ・リーガではまだ一度もアシストを記録できていない事実はあるが、そのクオリティの高さと相手に危険をもたらすプレーで、スペインメディアに高く評価されている。

 今年1月7日付の『LaLiga.com』の記事によると、ラ・リーガのアナリストはシュート数、インパクトのあるアクション、ドリブル成功数(ラリーガでトップ10)などを考慮し、久保をラ・リーガ最高のMFのひとりと位置づけた。

 ゴールやアシスト以外にも特筆すべき点がいくつもある。相手DFの注意を引きつけることで味方を有利にする能力は、昨季までよりも磨きがかかっている。それにより彼はチームで最も多くのファウルを受けている選手になっている。ラ・リーガ全体でも被ファウル数が特に多い選手のひとりだ。

 継続的に出場時間を得ているにもかかわらず、ピッチに立たなかったのがわずか5試合という点も評価に値する。それは今季、彼がケガに悩まされていないことを物語っている。

 成長したのは攻撃面だけではない。守備面を意識して取り組んだことで、ボールリカバリーやインターセプトの回数が増えている。今季の彼は守備の向上により、これまで以上に完成度の高い選手になったと私は感じている。

【パフォーマンスをもっと安定させるべき】

 久保の成長ぶりには目を見張るものがあるが、改善すべき点があるのも確かだ。私はパフォーマンスをもっと安定させるべきだと考えている。彼がスターとなった試合が何度もあった一方で、存在が消えていた試合もあった。

 しかし、今季の出場時間を考慮すると、常にいい状態を保つのは簡単ではない。ラ・レアル加入後の2シーズン、最終的な出場時間がそれぞれ約2,900分だったのに対し、今季は間もなく2,500分に達しようとしている。イマノル・アルグアシル監督が例年以上にターンオーバーを行なっていることで、休みが与えられているとはいえ、あと400分ほどでそれを上回る。これはスペインでの1シーズンの出場時間が最長となるハイペースだ。

 また、私は久保がストライカーとうまく連係できていないと感じているので、チームワークをもっと向上させる必要があると思っている。ただ、彼のアシストが少ない理由は、彼のチャンスメイクの能力が低いからというよりも、純粋なセンターフォワードを置かずにプレーしていることや、チームメイトの決定力不足に起因している可能性が大いにある。

 直近のセビージャ戦は、イマノルがマンチェスター・ユナイテッドとの重要なヨーロッパリーグ(EL)ラウンド16第2戦を意識したため、久保はベンチスタートとなった。プレー時間はわずか13分と短く、ゴールを決めてMVPに輝いた前半戦の対戦時のような活躍を見せられなかった。

 セビージャ戦で温存された久保は、ホームで行なわれたELラウンド16第1戦同様にオールド・トラッフォードの第2戦でも先発する可能性が高い。第1戦では監督が望むような違いを作れず、優れたパフォーマンスを披露できていないが、チームが準々決勝に進出するためには久保が本来の姿を取り戻す必要がある。

【シーズン終盤によりよくなる可能性】

 今季ここまでの久保のパフォーマンスを採点するならば、10点中7点だろう。しかし、イマノルのローテーションによって、3大会を戦いながらも多くの試合に無理に出場するリスクを冒さずに済んでいることを考えると、シーズンの終わりにかけてパフォーマンスがよりよくなる可能性は十分ある。そしてチームがシーズン開幕時に掲げた目標を達成するためには、久保とチームが一丸となり、ベストパフォーマンスを発揮しなければならない。

 欧州のビッグクラブが久保に興味を示していることを考えると、来季の去就は不透明だ。ラ・レアルがヨーロッパの大会を逃した場合、チームを離れる可能性も出てくるだろう。

 しかし、彼はすでに何度もラ・レアルに残りたいという意思を示しており、2029年まで契約を結んでいる事実は、クラブの長期的なプロジェクトに関わりたがっていることをよく物語っている。彼はサン・セバスティアンで心地よさを感じており、ラ・レアルで引き続き重要な存在でありたいと思っているはずだ。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)

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