F1第7戦エミリア・ロマーニャGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
第7戦エミリア・ロマーニャGP、決勝前日──。
レッドブルのガレージでは、土曜の深夜1時まで角田裕毅のマシンの修復作業が行なわれ、スペアモノコックにはさまざまなパーツや新品のパワーユニットが組みつけられ、実質的に新たなマシンが組み上げられた。
「(すべて組み上げて)ファイヤーアップ(※)を終えたのが12時半か1時頃でしたかね。そのあと、我々のPU(パワーユニット)側はいつもどおりでしたが、車体側はそこからセットアップ作業がありますから、まだ作業は残っていたと思います。夜遅くまでやって、日曜の朝はいつもどおりの時間(フォーメーションラップ5時間前)に始めました」
※ファイヤーアップ=ニューマシンのモノコックを仮組みしたのち、パワーユニットを搭載して初めて動作確認する作業。
HRC(ホンダ・レーシング)の現場運営を統括する折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーは、土曜夜の作業をこう振り返る。マシンだけでなく、パワーユニットのダメージも見た目からして大きく、詳細なチェックを行なわずにそのまま決勝で使用することはできない。ホンダとしては今季3基目のパワーユニットを投入して、来週・再来週にも続く3連戦も含めたやりくりに備えることを決めた。
角田はピットレーンからハードタイヤを履いてスタート。集団の最後方を粘り強く走った。
ハードタイヤを保たせながら走り、早めのピットインをしたオスカー・ピアストリ(マクラーレン)を抑えてマックス・フェルスタッペンをアシストすることも忘れなかった。
そして29周目、エステバン・オコン(ハース)がコースサイドにマシンを止めたことでVSC(バーチャルセーフティカー)が出され、角田はここでタイヤ交換を済ませたことによって約10秒をゲイン。これで実質11位にポジションを上げる幸運に恵まれた。
さらにセーフティカーが入り、54周目のリスタートと同時に、角田は前のニコ・ヒュルケンベルグ(ステーク)に攻勢を仕掛けた。
【アロンソに抜かれない最善策】
後方からはフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)が17周もフレッシュなタイヤで追いかけている。だが、角田はあえてヒュルケンベルグを引き離さずにDRS(※)を与え、メインストレートでアロンソが簡単に抜けないようにする駆け引きを見せた。
※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。
「後ろにヒュルケンベルグがいたので、僕の(1秒以内に留めることによって)DRSを使わせてアロンソのオーバーテイクを遅らせようとしたんです。だけど、アロンソがストレートではなくて僕と同じターン9で抜いたのを見て『あぁ、そろそろ来るな』と思ってペースを上げました。DRSをヒュルケンベルグに与えることで、できるだけアロンソのタイヤを使わせることができたのがよかったと思います」
チームもパワーユニットのモード変更を指示。ラップタイム優先で逃げるのではなく、バッテリーを充電しておいて、追いつかれた時にオーバーテイクボタンをディフェンスとして使えるように、時間と回数を最大限に準備し、抜かれないようにすることを最優先に据えた姿勢に切り替えた。
「バッテリーを使いながらペースを上げて逃げきるか、ペースを落とすもバッテリーはセーブして追いつかれた時に使うか。2通りの方法がありますが、今回はバッテリーを溜めておいて最後のバトルになった時に守りきる戦略でいこうと決めました。
ラップタイム優先よりも、抜かれそうなところでディプロイ(ハイブリッドのアシスト)を集中させて抜かれないようにしながらバッテリーを溜めていき、最後に(オーバーテイクボタンを使って)ポジションを守りきった形です」(折原GM)
VSCの幸運もあったとはいえ、特に第2スティントのミディアムタイヤを保たせたことによって、0.804秒差で予選5位のアロンソを抑えきって10位入賞を果たした。
【メカニックへ最低限のお返し】
予選の大きなミスとピットレーンスタートという状況を考えれば、夜遅くまで作業をしたメカニックたちのハードワークに対する最低限のお返しはできた。
「夜を徹して作業し、マシンを修復してくれたメカニックたちのために、最低限1ポイントでも持ち帰ることができて、なんかしらのお返しができたのはよかったと思います。マックスが優勝したように、チームとして正しい方向に向かっていることは間違いないだけに、予選で大きなミスを犯してしまったのは本当に悔やまれます」
それでも角田は、今の自分にできること、やるべきことを見つめ直し、決勝でもマシンへの理解を少しでも深めることに集中していたという。
「とても許されるようなミスではないと思いますし、(ミスを犯した自分自身に対する)フラストレーションは頭の片隅にまだあります。自分を見つめ直すいい機会になりました。
決勝ではあらためて、自信を一歩ずつビルドアップできたのはよかったと思います。ただ、まだ学習の途上で、改善しなければならないところはたくさんあると思っています」
大きなミスから自分を見つめ直し、立ち上がって成長する。角田裕樹の次の挑戦は、数日後に控えている。