F1第9戦スペインGPレビュー(前編)

「なんだかグリップがまったく感じられない。全体的にコーナーの入口で、リアがすごくスライドしている」

 スペインGPの金曜フリー走行。

最初のプッシュラップを終えてすぐに、角田裕毅(レッドブル)は無線でそう呟(つぶや)いた。

 ハードタイヤでまだ路面もできあがっていない段階ゆえと思い、そのまま走行を継続した。しかし、状況は一向に改善しない。

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 ディファレンシャルやエンジンブレーキなど、電子的に変えられるものも変更してトライしてみた。それでも、グリップ不足の症状はまったく変わらない。FP2、FP3とさまざまなセットアップを試みたものの、その根本的な違和感は最後まで拭い去ることができなかった。

「アタックラップ自体はとてもよかったと思います。100パーセントを引き出したわけではないにしても、(FP2でトップと)こんなに差(0.923秒差)がつくとは思っていませんでした。

 自分が何かのミスをして、この差なら納得です。だけどミスもなかったですし、マシンバランスも悪くなかった。正直に言って何がリミテーション(阻害要因)なのか、今はまだわかりません」

 金曜の走行を終えた時点で、角田はそう語っていた。

 結局のところ、予選もそのままの状態で迎えることになり、当然のようにQ1で敗退となった。

それも最下位20位という、衝撃的な結果だ。

 ただ、角田自身はそうなることが最初からわかっていたようだった。そのくらい、明らかに何かがおかしかったのだ。

「FP1の最初のプッシュラップから、ずっと何かがおかしいと感じていました。全体的なグリップレベルが自分の思っている感覚と違っていて、週末を通して問題を改善しようと努力はしてきたんですけど。

 特に全体的なグリップレベルが低いと、セットアップを変えてもまったく無駄。フィーリングはどうすることもできなくて、(マシンが極度にスライドするという)根本的な問題を解決することができませんでした。すごく残念です」

【予選だけでなく決勝も絶望的な状況】

 セットアップがうまく突き詰められず、マシンの性能を引き出せなかった過去何度かの予選での不発とは、わけがまったく違う。

 マシンの前後バランスは、セットアップによってこれ以上ない状態に仕上がっている。しかし、とにかく全体的なグリップレベルが低いのだ。

 ハードタイヤではゴムのグリップの低さゆえにスライドが起き、その摩擦のせいで表面だけがオーバーヒートして芯まで温まらず、本来のグリップが引き出せない症状が起きていた。しかし温まりやすい、むしろ早く温まりすぎるソフトタイヤでこの症状が起きているのは角田だけ。

その状況に、ピレリのエンジニアも首をかしげた。

「原因はセットアップではないと思います。(考え得る)ほぼすべてのセットアップは試しましたし、それによって多少、あっちがよくなったりこっちがよくなったりはありました。実際にマシンバランスは、なんとかうまくまとめ上げることができて悪くなかったです。

 僕も自信を持てる状態で、予選のラップはどちらもよく、特に最後のアタックはかなりよかったと思います。ただその感触が、ペースとリザルトとまったく合致していないんです」

 グリップ不足のせいで、FP2で行なったロングランも甚大なデグラデーション(タイヤのタレ)を示していた。予選だけでなく、決勝でもいい走りができるとは到底思えない、絶望的な状況だった。

◆つづく>>

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