ワールドカップ最終予選を締めくくる、ラスト2連戦。
積極的にボールを受けようとせず、パスを受けても、よく言えば球離れが早いが、悪く言えばすぐに逃げてしまう。
後半64分の選手交代で佐野が退いたことは、その理由が彼自身のパフォーマンスにあったかどうかはともかく、オーストラリアの堅守をなかなかこじ開けられない戦局を考えれば、妥当な判断に見えた。
ところが、オーストラリア戦に続いて先発出場したインドネシア戦での佐野は、まるで別人のようだった。積極的に顔を出してボールを呼び込み、チーム全体を相手ゴールへと向かわせる推進力となっていたのである。
たとえば、前半アディショナルタイムでのプレーだ。佐野は中央で右サイドの久保建英から横パスを受けると、焦らず一瞬のタメを作ってから前方に走り込んだ久保へリターンパス。このボールが久保から鎌田大地とわたり、最終的にチーム3点目のゴールにつながっている。
得点が決まり、まず鎌田のもとへと駆け寄った久保は、「ナイスパス!」と言わんばかりに佐野ともハイタッチ。久保が一連の流れをどう感じていたかは明らかだった。
「スピードが上がったとき、もっと強いチームとやったとき、体の向きひとつだったりで、もっともっとよくできるところがあったと思う。そこはより突き詰めていかないといけない」
そう語り、反省の弁を口にした佐野も、オーストラリア戦との違いについては次のように述懐している。
「オーストラリア戦で出た課題がそれ(積極性に欠けたこと)だったので、自分のよさは2列目からの飛び出しだったり、そういう部分だと思うし、(インドネシア戦では)そこをもっと意識しながらやった。(オーストラリア戦は)考えすぎた部分もあるし、安全なプレーというのも多かったので、今日はしっかりチャレンジしようと決めてやったのでよかったと思う」
オーストラリア戦とインドネシア戦では、対戦相手も違えば、アウェーとホームの違いもある。日本とは異なるオーストラリアのピッチコンディションが、佐野を慎重にさせた部分もあっただろう。
あるいは、インドネシア戦では久保、鎌田、遠藤航という主力組に囲まれたことで、より快適にプレーできたのかもしれない。
だが、やはり大きかったのは、本人の言葉にもあるように、「オーストラリア戦での課題を意識した」こと。つまり、"2度目のチャンス"が与えられたからこそ、佐野は堂々、ワールドカップメンバーの有力候補に名乗りを上げたと言ってもいい。
同じボランチの熊坂光希が負傷離脱しなければ、佐野の2度目もなく、彼がこれほどいいイメージを残してこの2連戦を終えることはなかったかもしれない。
翻(ひるがえ)って、他の新戦力候補たちである。
今回の2連戦では、招集された総勢27人のうち、正GKの鈴木彩艶、ベテランの長友佑都、ケガの熊坂を除く24人もの選手に出場機会が与えられた。
だが、そのほとんどが出場は1試合のみ。この2試合がいわば消化試合となったことで、従来の主力選手を休ませるためだけに、彼らが駆り出されたのだとしたらもったいない。本当の意味で新戦力を掘り起こそうと思えば、2度目がなければ意味がないはずだ。
本来なら最終予選全10試合を有効活用し、段階的に新戦力の発掘と取り込みを進めるべきだったと思うのだが、結局それが目的とされたのは、最後の2試合だけ。全員まとめて一括テストを行なうような格好になったため、ほとんどの選手が今回の出来にかかわらず、主力組のなかでどれだけできるかは未知数のままだ。
だからこそ、彼らに次なる機会が訪れることを望みたい。
今回の2連戦を通じて、もう一度日本代表で見てみたいと思わせる、楽しみな選手が多少なりとも現われたことは間違いないだろう。
町野修斗は最前線でオールラウンドな働きを見せたし、三戸舜介は鎌田にうまく特長を引き出してもらいながら、何度もチャンスを作り出した。オーストラリア戦に出場した平河悠、藤田譲瑠チマ、関根大輝らも、そうした選手たちのひとりである。
もちろん、2度目のチャンスの対象には、今回の活動では存分に特長を発揮しきれなかった選手が含まれてもいい。そこで得た教訓を生かすことで、パフォーマンスが大きく向上する可能性があることは、別人と化した佐野が示している。
およそ1年後に開幕するワールドカップ本大会へ向け、日本代表はどれだけチーム力を底上げできるのか。その成果は、"2度目"の行方にかかっている。