身長174センチ、体重71キロ。いかにも「一般人サイズ」の体格にもかかわらず、山城京平(亜細亜大4年)の投げるボールはアマチュアレベルを超越している。
左腕から放たれる快速球の最高球速は154キロ。捕手としてドラフト上位候補に挙がる小島大河(明治大)は、大学日本代表候補合宿で驚いた投手として山城の名前を挙げている。
「真っすぐが強くて、ビックリしました。ボールが微妙に動くし、いろんな方向に動かせる変化球もある。すごく印象に残っています」
【春のリーグ戦で最優秀防御率のタイトル獲得】
6月29日、中央大学後楽園キャンパスで東都大学野球連盟の春季リーグ表彰式が行なわれた。1部リーグの最優秀防御率を受賞したのは、防御率1.39を記録した山城だった。
受賞の喜びを聞こうと本人に声をかけると、山城は控えめな笑顔でこう語った。
「リーグ戦では最少失点で抑えることを一番意識していたので、それが結果として出たのかなと思います」
饒舌に語るタイプではない。しかも、タイトル獲得に至るまでに、後輩による「アシスト」もあった。今春のリーグ最終戦で井上悠(3年)にもタイトル獲得の可能性があったが、先輩の山城に譲る形でイニング数を抑えている。今季5勝と大車輪の活躍を見せた後輩の気遣いを前に、山城も手放しでは喜べなかったのだろう。
「井上も悔しい思いをしていると思います。譲ってくれた彼のためにも、秋の結果で返したいです」
秋にかけて実績を重ねることができれば、山城のドラフト1位指名は現実味を帯びてくる。
山城は沖縄の強豪・興南から亜細亜大に進んでいる。興南といえば、近年なら宮城大弥(オリックス)、昔なら仲田幸司(元阪神ほか)など、数々のサウスポーを輩出してきた。山城もその系譜に連なる逸材だが、とくに姿が重なる興南OBがいる。
【フォームの指導を受けたことはない】
島袋洋奨(しまぶくろ・ようすけ)。2010年に甲子園春夏連覇を成し遂げたエースで、上体をひねってから左腕を振る特徴的なフォームから「琉球トルネード」と呼ばれた。その後、中央大を経て、ソフトバンクに入団。現役引退後は興南に戻り、コーチとして野球部を指導している。
山城も高校時代に、島袋コーチの指導を受けている。そして現在の山城もまた、打者に向かって背中を向ける、トルネード風の投球フォームなのだ。
島袋コーチは大学時に投球感覚を崩したこともあり、プロでは華々しい実績を挙げることはかなわなかった。もし、島袋コーチが万全であれば、今の山城くらいのボールを投げていたのではないか。そんなエモーショナルな想像をかき立てられる。
山城のトルネード投法は、島袋コーチから受けた影響に違いない。てっきりそう思って質問したのだが、困惑顔の本人から返ってきたのは意外な答えだった。
「島袋さんからフォームの指導を受けたことはないんです。フォームは自分の考えで、今の形になっています」
いろんな角度から聞いてみたが、山城は島袋コーチからの影響を明確に否定した。
「たまに聞かれることがあるんですけど、違うんです。参考にしたいですけど、フォームは自分の感覚が大事だと思うので」
高校時代は右足を高く上げる投球フォームで、上体をひねる動作は入れていなかった。大学3年になってから、トルネード風のアクションを取り入れたという。
「もともとコントロールがいいわけじゃないのに、足を高く上げて投げると、体が余計に早く開くので。だから上体をひねって、右肩が開くのを我慢することを意識するなかで、今のフォームにたどり着きました」
配球など投球テクニックに関しては、「宮城大弥さんとか、すごく参考にさせてもらっています」と山城は明かす。だが、投球フォームやリリース感覚については、どんな先輩であっても参考にすることはない。
大学屈指のキレを誇るストレートは、回転数は常時2500弱rpmを計測する。山城は、どんなイメージで投げているのだろうか。
「トップを早くつくって、ボールを潰すイメージで投げています。人差し指、中指、親指の3本で、『ひっかく』というよりは、『潰す』というほうが近いかなと。ボールの軌道は、シュートしながら伸びていくのがベストです」
【ツーシーム習得の裏に意外な縁】
変化球は得意のスライダーに加え、大学でツーシームをマスター。投球の幅が広がり、右打者を苦にしなくなった。このツーシームは意外な人物の流れを汲むボールだった。
「大学の1学年先輩に脇水(大翔)さんという方がいたんですけど、髙橋遥人さん(阪神)の高校(常葉大橘)からの後輩なんです。高橋さんが投げているツーシームを脇水さんから教わって、シュートしながら落ちる球を投げられるようになりました」
着実に進化を遂げている山城だが、「自分がすごいピッチャーとはあまり思わないです」と、自己評価は高くない。「誰がすごいと思いますか?」と尋ねると、毛利海大(明治大・4年)の名前が挙がった。
「毛利くんはあれだけ成績を残しているので、実力があるピッチャーだと思います」
毛利は今春の東京六大学リーグで6勝0敗、防御率1.34(リーグ1位)と圧倒的な成績を残し、山城とともに大学日本代表に選出された左腕だ。
山城が自分に自信を持てない理由。それはコントロールに課題を残しているからだ。
「一番の課題です。
一方、フィジカル面の課題を聞くと、山城は「体重が73キロあった時のボールが一番よかったので増やしたいんですけど、なかなか増えないです」と悩みを吐露した。そこで好きな食べ物を聞いてみると、山城はいの一番に「梨」を挙げた。たしかに、体重があまり増えそうにない選手のセレクトだと感じてしまった。
今夏は大学日本代表として、日米大学選手権を戦う。大会後の8月31日には、故郷・沖縄(セルラースタジアム)で高校日本代表の壮行試合として大学日本代表戦が予定されている。その件を話題に出すと、山城の表情が、パッと明るくなった。
「沖縄で投げるのは、すごく楽しみですね。(興南の同期の)山形(球道/立教大)も、まさか一緒に選ばれるとは思っていなかったので、よかったです」
ひとまわり大きな投手となって、凱旋登板を飾れるのか。新たな「琉球トルネード」は、独自の地平を切り拓こうとしている。