学校での部活を取り巻く環境が変化し、部員数減少も課題と言われる現在の日本社会。それでも、さまざま部活動の楽しさや面白さは今も昔も変わらない。

 この連載では、学生時代に部活に打ち込んだトップアスリートや著名人に、部活の思い出、部活を通して得たこと、そして、いまに生きていることを聞くーー。部活やろうぜ!

強豪・武相の4番打者から芸人の道へ! 渡部おにぎりが高校野球...の画像はこちら >>

連載「部活やろうぜ!」
【野球】金の国・渡部おにぎり インタビュー後編(全2回)

「これからキツい冬のトレーニングが始まるけど、まず一回笑って、いい雰囲気で練習に入りたいと思います。ということで、渡部、一発ギャグよろしく!」

 現在、芸人として活躍するお笑いコンビ「金の国」の渡部おにぎり(30歳)。そのルーツは武相高校野球部時代だった。

 激戦区、神奈川の名門校で1年秋から4番を任され、その打棒でチームを引っ張るとともに、明るいキャラクターでムードメーカーだった。合宿をはじめ厳しい練習前には渡部のギャグでチームをなごませることもあったという。

 そんな役回りが糧となり、大人になったいまへとつながる。野球、仲間、青春、笑い......部活の思い出を振り返ってもらった。

【とにかく有名人になりたかった】

ーーバリバリの高校球児だった渡部さんがお笑い芸人を目指した理由は?

渡部おにぎり(以下同) 僕ってすごく目立ちたがり屋なんです。中学では文化祭でお調子者の友だちを捕まえて、みんなの前で『青春アミーゴ』を踊ったり。だから、有名人になりたいとずっと思ってたんですよね。

強豪・武相の4番打者から芸人の道へ! 渡部おにぎりが高校野球から得たもの「社会は野球部ほど理不尽じゃないですから(笑)」
小学1年から野球を始め大学途中までプレーした 写真/本人提供

ーープロ野球選手になりたかった?

 そうですね。小学1年で野球を始めた時こそ、楽しいからやってましたけど、初めて見に行ったプロ野球の試合が地元の横浜スタジアムで。

いつか満員のこの球場で野球ができたら目立てるだろうなーって思ってて。

 ちなみに、その時外野手だった横浜ベイスターズの田中一徳選手がファンサービスで投げたボールをキャッチできたんです。そのこともあって野球に夢中でした。

ーー"有名になりたい欲"で高校時代のつらい練習も耐えられた。

 はい(笑)。僕はめっちゃミーハーですから。

ーー大学でも野球を?

 商大(横浜商科大学)というところでやってました。でも、そこで自分の限界を知って2年生で部活も大学もやめてしまったんです。

 野球の指導者という道もあったんですが、それでは有名になれない。じゃあ有名になる方法は何かと考えた時に、芸人が浮かんだんです。安直ですよね?(笑) でも、高校時代を含め、ずっとお笑いキャラみたいなところもあったので、これだと思いました。

【「芸人になりたい...」後輩から相談も】

ーーコンビを組んだ相方の桃沢健輔さんは高校では吹奏楽部、大学では漫画研究会と完全な文化系。価値観の違いはないんですか?

 先輩に背筋を伸ばして「ちわ!」って声を張ったり、後輩に「ウェーイ」って感じで絡んだり、僕の体育会系ならではのあいさつに、桃沢は最初引いてました(笑)。

でも、あいつ、吹奏楽部で甲子園のスタンドで応援してるんですよ。僕は一回も甲子園に行ってないのに......。ズルい。

強豪・武相の4番打者から芸人の道へ! 渡部おにぎりが高校野球から得たもの「社会は野球部ほど理不尽じゃないですから(笑)」

ーーネタ合わせの練習で体育会系の渡部さんがもっと特訓したいというふうになったり?

 ネタに関しては完全に任せていて、桃沢はそんなに活発に動きたいタイプじゃない。だから、長時間練習するということはなく、僕もそれに従ってます。

ーーそういえば、武相高野球部出身の有名人も多いですよね。

 軟式野球部には出川哲郎さんがいます。本当に偉大です。硬式野球部にはインパルスの堤下敦さんもいます。あとは1学年上の先輩には現ヤクルトの塩見泰隆さんや、元オリックスのパンチ佐藤さんもいらっしゃいます。

ーー出川さん、堤下さんはもちろん、塩見選手やパンチ佐藤さんも明るいキャラクターで人気者です。武相の野球部にはお笑いのDNAがあるんでしょうか?

 どうなんですかね(笑)。

でも、確かに僕以外にもお笑いキャラが何人かいたんです。そいつらもお笑いに行くだろうと思われてましたね。

 僕は芸人になっていま8年目ですが、面識のない武相野球部の後輩から連絡が来て「芸人になりたいので話を聞いてください」という相談はちょこちょこ受けます。

強豪・武相の4番打者から芸人の道へ! 渡部おにぎりが高校野球から得たもの「社会は野球部ほど理不尽じゃないですから(笑)」

ーー武相と芸人は謎の親和性があるんですね。渡部さん自身は高校時代、どんなギャグをやってたんですか?

 完全に素人芸ですけど、フジワラの原西(孝幸)さんのギャグやEXILEの『Rising Sun』の有名なフリをマネしたりって感じです。部員同士の仲がよかったからできたのかもしれないですね。

 厳しい部活生活で覚えてるのは、2泊3日の遠征合宿がすべて雨でつぶれて、ずっと部員たちとホテルでトランプとかして遊びながら過ごしたこと。高校3年間であんなに平穏な3日間はありませんでした(笑)。

【社会は野球部ほど理不尽じゃない】

ーー野球人生がお笑いの役に立ってることはありますか?

 まず、すごくよく声が通る。これはキャッチャー時代の声出しのたまものです。あとは社会に出ても、野球部の練習ほどつらいものはないと考えるとたいていのことはなんとかなります。社会は野球部ほど理不尽じゃないですから(笑)。

そういう意味でも野球はやっていてよかったと思いますね。

強豪・武相の4番打者から芸人の道へ! 渡部おにぎりが高校野球から得たもの「社会は野球部ほど理不尽じゃないですから(笑)」

ーー渡部さんの今後の目標は?

 神奈川県で野球をやっていた縁を生かして、TVK(テレビ神奈川)で放送されている高校野球ニュースのリポーターとして各チームに取材してみたいです。

 あとは『プロ野球珍プレー・好プレー大賞』にも出演してみたいですし、調子に乗ったことを言ってしまうと、WBCのベンチリポートなんてできたら最高ですよね。要はスーパースターになりたいです(笑)。ミーハーなので。

ーー甲子園ではいままさに熱闘の真っ最中。現在、野球を頑張っている球児たちにメッセージをお願いします。

 野球に限らず、真剣にやってる部活はどこも本当にキツいと思いますけど、それを乗り越えてこそ見える景色が必ずあると思ってます。僕は大学の部活を途中でやめてしまったけど、いま頑張ってる人はどんなにキツくてもやめないでほしい。

 やり抜くことで仲間との絆も深まるし、一生の関係でいられる。そして、やりきるなら悔いのないように、楽しんで野球をやってください。最後に大事なことを......。

最近は本当に暑いので、水分補給を忘れずに!

強豪・武相の4番打者から芸人の道へ! 渡部おにぎりが高校野球から得たもの「社会は野球部ほど理不尽じゃないですから(笑)」

終わり

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<プロフィール>
渡部おにぎり わたべ・おにぎり/お笑い芸人・金の国メンバー 
1994年、横浜市生まれ。小学1年から野球を始める。高校はスカウトを受けて神奈川県の名門・武相高に進学し、「4番・捕手」として活躍。一学年上の現ヤクルトの塩見泰隆や現オリックスの井口和明とともにプレーした。横浜商科大学中退後、ワタナベコメディスクールに入り、お笑いの道へ。同スクールで出会った桃沢健輔とコンビを結成し、コンビでは2022年と2024年の「キングオブコント」で準決勝進出、ピンでは2022年の「R-1グランプリ」で3位。ワタナベエンターテインメント所属。

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