東京ヴェルディ・アカデミーの実態
~プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第16回)
番外編:中村忠ヘッドオブコーチングインタビュー(後編)
Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。その育成の秘密に迫る同連載、今回は前回に続いてアカデミーのヘッドオブコーチング・中村忠氏のインタビューをお送りする――。
第15回◆東京ヴェルディの中村忠が語るアカデミーの昔と今>>
――中村さんは、FC東京でもアカデミーの監督やコーチを務めていました。同じ東京のライバルクラブに"移籍"することは、問題なかったのですか。中村忠(以下、中村)僕自身は東京で生まれて、東京で育っているので、全然問題ないんですけどね。オール東京なので。
人によっては、「(FC東京のことを)なんだよ、あのチーム」とかっていう人もいますけど、悪口言わないでって思っています(笑)。同じ東京でやっているんだから、一緒に頑張ろうよって。
――外に出てみたからこそわかる、ヴェルディのよさもありますか。
中村 ありますよ、やっぱり。外へ行って戻ってきて、あらためてヴェルディのよさもわかるし、逆に僕が考えるよくないところっていうのも見えてくる。
――中村さんが考える、よくないところとは?
中村 小さい頃は、サッカーは遊びから始まるし、楽しくなかったらサッカーじゃない。なんだかんだ言っても、僕はやっぱりサッカーは楽しむものだと思っています。
だけど、試合には勝ち負けあるから、グラウンドに立ったら、最終的には何としてでも勝とうっていうのが、プロとしては大事になると思うんですけど、「うまけりゃいいだろ」くらいの気持ちの選手もまだまだ多いので、そういう子たちを大人にしていかなければいけない。
少なくとも今トップで活躍している選手たちは、技術だけじゃなくて、メンタリティやフィジカルがそろっているし、それが要求されている。そこを履き違えてはいけないと感じています。
――中村さんは、ヴェルディでは森本貴幸、FC東京(FC東京U-23)では久保建英と、中学生にしてJリーグデビューする選手を間近で見てきたと思いますが、彼らはどんな選手だったのですか。
中村 森本はもう(Jリーグデビューした15歳の時点で)中学生の体じゃなかった。だから、技術だけじゃなくて、肉体的にも(通用する)っていうのがありました。
建英は、技術的に飛び抜けていましたね。肉体では叶わないけど、技術と個人戦術で、1、2試合(J3で)やったら、もう普通にやれていましたから。ものすごいなって思いました。
――肉体的にJ1では厳しいけど、J3なら、ということですか。
中村 いや、肉体的にはJ3でも厳しかった。でも、建英のすごいところは、フィジカルベースがなくても、技術と個人戦術でサッカーができたことです。だから、それがある意味、アカデミーの理想なんですよ。
――というと。
中村 フィジカル的な部分って、16、17、18 歳と年齢が上がるにつれ、ひいてはプロになってからでも、どんどん(力が)ついていく。それがまだついていないのにできちゃうっていうことは、まさに技術と個人戦術が高いから。それがなければ、ケガをしてしまいますからね。
あとは(アカデミーで高い技術と個人戦術を身につけたうえで)、どこかのタイミングでメンタリティやフィジカルが備わってくれば、それはもういい選手になるに決まっている。そういう選手が、ヴェルディでも理想だし、アカデミーとしての理想の選手だと思います。
――長くヴェルディに携わってきた中村さんから見て、読売クラブ時代も含め、ヴェルディユースの最高傑作は誰だと思いますか。
中村 誰ですかね......、最高傑作と言っても、いろんなタイプの選手いるので、わからないです(苦笑)。
たとえば、僕が見たなかで技術だけで言えば、菊原志郎だったり。でも、じゃあ志郎くんが今のサッカーで同じようにできるかどうかは、やってみないとわからない。逆に森田晃樹はその当時にいたら、もしかしたら志郎くんよりうまかったかもしれないし。
相手の嫌がるドリブルをする選手だったら、中島翔哉だったり、小林祐希だったり。
日本代表で10番をつけてワールドカップで優勝したとか、何回もヨーロッパでタイトルを獲ったとか、そういう選手がいれば別ですけど、それはまだいない。だから、まだ何かが足りないんですよ、きっと。
いずれ、本当にバロンドールを獲る日本人男子選手が出てくる可能性もあるし、それがヴェルディ出身だったら、僕らにとっては一番うれしいことになるのかな。
(つづく)