インパクトの瞬間、「ドカン!」という爆発音が響き渡った。

 大阪学院大のエドポロ・ケイン(4年)が放った打球は、20メートルはあろうかという高い防球ネットを越え、左翼後方に建つ体育館の壁に直撃。

バックネット裏で視察していた3球団4人のプロスカウトに向けて、強烈なアピールになった。

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「いやぁ~、よかったです」

 しみじみと噛み締めるように、エドポロは衝撃弾を振り返った。

「まだケガをする前のスイングスピードに戻りきっていなくて、最近は少しタイミングが遅れることが続いていたんです。『少し早めに振ろう』というイメージでいったら、バチッとハマりましたね」

【親から授かったたくましいフィジカル】

 エドポロは春季リーグ戦中の4月26日、左有鉤骨骨折で戦線離脱していた。だが、驚異の回復力で7月31日に打撃練習を開始。それから2週間あまりのこの日、エドポロは追手門学院大とのオープン戦で復帰初本塁打を放っている。この一打に、エドポロのロマンが凝縮されていた。

 身長189センチ、体重93キロという大きな体は、グラウンドのどこにいてもよく目立つ。たくましいフィジカルは、エドポロにとって大きな武器だ。

「神様がくれたんじゃないですかね?」

 エドポロはそう冗談めかしたあと、「でも、やっぱり親のおかげですね」と続けた。

 ナイジェリア国籍の父、韓国国籍の母の間に生まれ、ふたりの兄は野球、ひとりの姉はバスケットボールで注目選手になった。

 とくに次男のキングは現在、プロ総合格闘家として脚光を浴びている。身長204センチの長身を生かし、ダイナミックな戦いぶりはさらなる進化を予感させる。

「学校のウエイトルームが空いていない時は、キングのジムに行ってトレーニングをさせてもらうこともあるんですよ」

 兄ふたりは奔放な性格だったが、ケインは「僕が一番真面目だと思います」と笑う。大阪学院大の中村良二監督も「エドポロはよく練習しますよ」と証言する。

 中村監督は現役時代、近鉄でプレーした右打ちスラッガーだ。天理大、天理高の監督としても実績を残し、教え子には太田椋(オリックス)や達孝太(日本ハム)らがいる。昨年2月に大阪学院大の監督に就任した。中村監督はエドポロについて、こんな見立てを語っている。

「ハマったら果てしなく飛ばしますし、身体能力が高いのでアメフトでもさせたらすごい選手になるかもしれません。肩は強いし、ベースランニングのストライドも迫力があります。スカウトの方からは『万波中正(日本ハム)タイプ』と言われますね」

【高校3年夏に甲子園出場】

 小・中学生時代は「なんとなく野球をやっていた」というエドポロだったが、高校で日本航空(山梨)に越境入学したことで人生が変わった。

「豊泉(啓介)監督が熱い人で。監督から言われたんです。『おまえ、やるしかないんだよ!』って。そこから『やるしかないな』とスイッチが入ったというか。

『この人の言うことを聞いたら、甲子園に行ける!』と思いました」

 高校3年夏には、甲子園に出場。当時のチームメイトには、変則左腕として注目されたヴァデルナ・フェルガス(現・青山学院大4年)がいる。エドポロは高校3年秋にプロ志望届を提出したものの、指名漏れ。大阪学院大に進学した。

 大学3年までのエドポロはツボにハマれば圧倒的な飛距離を見せる反面、コンタクト精度は乏しい印象があった。ところが、今春4月5日の関西六大学リーグ開幕戦、大阪商業大戦でのプレーを見て、印象が変わった。

 大阪商業大のプロ注目右腕・鈴木豪太から、エドポロは三塁打を含む2安打をマーク。コンタクト能力の高さを見せつけたのだ。

 この点について触れると、エドポロは"よくぞ聞いてくれた"と言わんばかりの勢いで語り始めた。

「コンタクト能力を上げましたから。いっぱいバット振って、精いっぱい練習していたんで......」

 そして、エドポロは印象的な言葉を続けた。

「打つことは決まっていたんで。

あとは打席に入って、ヒットという結果を受け取りにいっただけですね」

 ここまで言い切れるほど、練習をしたということだろう。

【ドラフト2025】スカウトも絶賛する"万波中正"級のフィジカル 大阪学院大のエドポロ・ケインが衝撃の一発で猛アピール
抜群の身体能力を誇る大阪学院大のエドポロ・ケイン photo by Kikuchi Takahiro
 打撃で大事にしているポイントを聞くと、エドポロはまたも特殊な感覚を語った。

「左の腹斜筋で引っ張るイメージで振っています。左肩は開かないように残して、左の腹斜筋で引っ張る。そうすると、強いスイングができるんです」

【誰にも負けない自信がある】

 今春はリーグ戦5試合に出場した段階で、打率.333とまずまずの結果を残していた。しかし、前述のとおり左有鉤骨骨折のため、華々しいアピールとはならなかった。「育成ドラフトでもプロに行く」と強いプロ志望を秘めるエドポロにとって、今秋のリーグ戦が最後のアピールの舞台になる。

 それでも、エドポロに悲壮感はない。「バッティングはまだまだ実力が足りない」と語るように、技術的な課題を残している自覚はある。それ以上に、「自分に一番期待している」と語るだけの、将来性への自信があるのだ。

 エドポロは、こんな思いを語っている。

「誰にも負けない自信があります。

前に大学日本代表候補合宿に呼ばれる話もちょっとあったんですけど、自分は日本国籍がないので、話がなくなりました。でも、立石(正広/創価大4年)にだって、負けてないっすね。日本国籍がなくても、これだけのパワーがあるのも親のおかげなので。国籍がなんだろうと、同じ野球をやることは変わらないですから。だから、国籍なんて関係ないと思っています」

 自分の出自について、つらい思いをした経験は「全然ない」とエドポロは語る。

「周りに恵まれましたね。生まれ育った大阪の生野区は外国人が多い土地ですし、日本航空は留学生が多い学校なので。環境がよかったのだと思います」

 日本の高校、大学でプレーしてきたエドポロは、ドラフト会議で指名されれば日本人選手と同様に扱われる。

 最後にあえて、漠然とした質問をぶつけてみた。「大学最後のシーズン、どんな秋にしたいですか?」と。エドポロのように、自分の言葉を持っている選手に、目標の数字を聞くのは無粋のような気がした。

 エドポロは不敵に笑い、こう答えた。

「とんでもない秋にしたいですね、うん。きっと、そうなると思います。そのために、いっぱい練習してきたんで」

 その言葉には、希望があふれていた。

 恵まれたフィジカル、走攻守に宿るスケール感、野球に真摯に取り組む人間性、自分の可能性を信じ切れるマインド。一流選手になるだけの条件は揃っている。

 エドポロ・ケインの秋は8月30日、GOSANDO南港野球場での大阪商業大戦から始まる。

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