ここ数年、日本女子ツアーで躍動した選手たちがこぞってアメリカ女子ツアーに挑戦。今季からは、昨季の女王・竹田麗央をはじめ、山下美夢有、岩井明愛・千怜姉妹らが参戦して、初年度から大いに活躍をしている。そんななか、次々にトッププレーヤーがいなくなっている日本ツアーはどういった状況にあるのか。永久シード保持者である森口祐子プロに今季前半戦を振り返ってもらった――。 昨シーズンの女王・竹田麗央さんをはじめ、メルセデスランキング2位の山下美夢有さん、3位の岩井明愛さん、5位の岩井千怜さんら、日本ツアーを引っ張ってきた4選手が今季からアメリカ女子ツアーに参戦。それによって、日本ツアーの人気とか、盛り上がりなどがどうなるのかなと少し気になっていましたが、心配する必要はなかったかもしれません。 前出の4人を含め、海外での日本人プレーヤーの目覚ましい活躍もあって、ファンの人たちも海外へ渡った選手たちの選択を好感的に思っているというか、日本では日米両ツアーともに高い注目を集めているように感じます。 それでも昨季ツアーの上位選手、竹田さん、山下さん、岩井姉妹の4人が日本ツアーからいなくなった影響は少なからずあって、それはもちろん喪失感もあるのですが、逆に4人がいなくなったことで、試合展開を面白くしている面もあるのかなと思っています。 なにしろ、昨季は上記4人で通算16勝。ツアー全体(37戦)の4割以上の試合を勝っています。こういう言い方がいいかどうかわかりませんが、今シーズンは4人が抜けた分、多くの選手に優勝のチャンスが増えているのかな、と。実際、今季ツアーではここまで(9月10日現在)、工藤遥加さん、佐久間朱莉さん、稲垣那奈子さん、髙野愛姫さん、入谷響さん、内田ことこさん、荒木優奈さんと7人ものツアー初優勝者が出ています。 なかでも、プロ入り15年目で初勝利を飾った工藤さんは話題となりましたよね。また、昨年のプロテスト合格組、97期生一番乗りで栄冠を手にした入谷さんも脚光を浴びました。その勝利の際には、持ち前の飛距離に加え、強風のなかで我慢して勝った"技"と"ハートの強さ"を披露。今季、さらに勝てそうな存在感を示しました。 そして注目されるのは、4月のKKT杯バンテリンレディスで初優勝を遂げた佐久間さん。今季ここまでで唯一の複数回優勝者で、3勝を挙げています。しかしその結果、一気にランキングレースのトップに立つこととなり、それはそれで、大変なことだなと思いました。 というのも、私がゴルフをやり始めた時には、師匠の井上清次先生と『打倒・樋口久子』を掲げてやってきて、樋口さんのような強い選手がトップに君臨しているからこそ、それを追う選手たちの技術も上がっていく、ということが実感できました。ですので、ツアーのリーダー的な存在になることでの重圧の大きさもよくわかります。 近年は、2022年、2023年の女王・山下さんがそういった存在になっていて、昨年はそこに竹田さんが加わってきました。そのふたりが抜けてしまった今、佐久間さんが初優勝した年に、いきなりそういったリーダー的な立場になってしまったわけです。 しかも、佐久間さんは他を圧倒するという雰囲気はなく、どちらかというとおっとりしたタイプ。ですから、いきなり"ツアーの顔"になるのは、酷なことかなと思ったのです。【女子ゴルフ】トップ選手が次々に米ツアー参戦を果たすなか、日...の画像はこちら >> ただ夏場を迎えて、実力者の小祝さくらさんと河本結さんが優勝。メルセデスランキングは佐久間さんがトップに立っていますが、3位に小祝さん、4位に河本さんが続いて(※2位はAIG女子オープンを制した山下)、ゴルフの実力を表わしている平均ストロークは、小祝さんが1位で、河本さんが2位と、佐久間さん断然という状況から、小祝さん、河本さんとの三つ巴の争いとなりました。 そうした変化によって、佐久間さんは"トップ"という意識から少しは解放されているかもしれませんね。残念ながら、その後に小祝さんが手首の故障で戦線離脱してしまったのですが、河本さんは「黄金世代」で発信力のある選手です。佐久間さんとともに、山下さん、竹田さんらが抜けた今季ツアーの後半戦を引っ張っていってくれるのではないでしょうか。 今季は「多くの選手にチャンスが増えた」ということで言えば、印象的な復活優勝も多々見られました。柏原明日架さんが6年ぶり、永峰咲希さんが5年ぶり、渡邉彩香さんと高橋彩華さんが3年ぶりの優勝を飾りました。 それぞれの優勝を見ていて感じたのは、パーパットの重みです。 永峰さんが勝った時もそうでしたね。ここ数年の彼女は、調子は悪くないのに、なかなか勝つことができませんでした。その姿を見ていて、あとはパッティング次第じゃないかなと思っていました。すると、彼女は今年の5月にパターをセンターシャフトに換えたら、苦手な3mぐらいのパットが入るようになった、ということでした。 迎えた7月の資生堂・JALレディス。最終18番ホールで木戸愛さんが12mぐらいのバーディーパットを入れて、トップの永峰さんに追いつきました。今季の名シーンのひとつとも言えるプレーのあと、永峰さんはバーディー逃しのパー。勝負の行方はプレーオフへと持ち越されました。 そこで、安定したパッティングで粘りを見せたのが、永峰さん。彼女はプレーオフの3ホールすべてでパーを拾って、最後にボギーを叩いた木戸さんに競り勝ちました。 6月の宮里藍 サントリーレディスを制した高橋さんもそうでした。最終18番ホール、外せばプレーオフという状況で、大事なパーパットを沈めて逃げきりました。 7月の大東建託・いい部屋ネットレディスで優勝した渡邉さんも、上がり17番、18番での連続バーディーが印象に残っていますが、実はその前、15番で2.5m、16番で2mほどのパーパットをきっちり沈めています。それが、優勝争いに踏みとどまる大事なポイントでした。 こうした久しぶりの復活優勝だけでなく、今季は2年ぶりのツアー勝利を挙げた選手もたくさんいます。吉田優利さん、穴井詩さん、菅沼菜々さん、申ジエさん(※海外では2024年12月にオーストラリア女子オープン優勝)、神谷そらさん、櫻井心那さんらです。 神谷さん、菅沼さん、櫻井さんは2023年にツアー初優勝を飾って、いずれも複数勝利を挙げていますが、昨年は未勝利。2、3年勝てないと、「もう勝てないかも......」という不安が芽生えて、負のスパイラルに陥ることがあります。その点、彼女らはブランク1年で勝つことができて、彼女たちにとっては大きな1勝だったと思います。