福田正博 フットボール原論
■1分1敗で終えたサッカー日本代表の9月シリーズだが「親善試合の勝敗に一喜一憂する必要はない」と福田正博氏はいう。W杯本番への準備が大切ななか、アメリカ戦で目を引いた選手とは?
>>前編「メキシコ戦で感じたW杯本番が楽しみな3人」
【アメリカ戦で目を引いた選手たち】
W杯開催国で行なったメキシコ戦、アメリカ戦の2試合は、本番を見据えたシミュレーションとしての収穫がいくつもあった。
そのひとつは控え選手を見極める場をつくれたことだろう。誰がアピールするかに注目していたが、もっとも目を引いたのが、望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)だった。1失点目につながったクロスボールは望月の守備のところから生まれたもので、もっとボールホルダーに厳しく詰めておけば、結果は違ったものになった可能性はある。そんな淡白な対応を見せたかと思えば、その後は粘り強く守備をしていた。レベルの高い相手に軽いプレーをすると致命傷になると学んだことだろう。
たしかに守備についての課題はある。そこだけを切り抜けば評価に値しないかもしれないが、右サイドで伊東純也(ヘンク)との連係からあげたクロスボールの質や、高さを生かしたヘディングシュートなどの持ち味もしっかりと発揮した。なかでもよかったのは、中盤でも中央寄りにポジションを取ってビルドアップの出口になった点だ。
高さとスピードがある望月にボールを当て、そこを起点に前進する。望月にはほかの選手が持ち得ない際立った武器があり、そこを磨き続けていければ、日本代表にとっておもしろい存在になれることを感じさせた。
攻撃面では鈴木唯人(フライブルク)にも期待している。清水エスパルス時代からゴール前への抜け出しやシュートに持ち込むプレーに注目してきただけに、「ようやく日本代表に絡める場所まで来たか」という感じだ。ただ、日本代表で立場を築けるような結果はまだ残せていない。
ポテンシャルはあるし、伸びしろもまだまだあるだけに、今季から加入したフライブルクでフィニッシュワークのところを大きく伸ばしてもらいたい。それができれば今回は未招集だった左サイドの中村敬斗(スタッド・ランス)のようなジョーカー的な役割を手にできるのではないか。
【選手起用の狙いを理解する】
森保一監督からすれば、この時期の親善試合では選手たちのさまざまな可能性を探っているところだろう。顕著だったのが、アメリカ戦の後半からフォーメーションを3バックから4バックに変更し、左サイドバックに瀬古歩夢(ル・アーヴル)を起用したことだ。
当然ながら、森保監督をはじめとするコーチ陣は、瀬古の本職がセンターバック(CB)で、サイドバック(SB)に不慣れなことは理解している。それを承知のうえで瀬古を左SBに起用した意図を汲む必要があるだろう。
現在の日本代表はCB陣に故障者が多く、冨安健洋(無所属)、伊藤洋輝(バイエルン)、高井幸大(チェルシー)、谷口彰悟(シント=トロイデン)、町田浩樹(ホッフェンハイム)といった顔ぶれを欠く。実績があり、W杯アジア予選でも結果を残した彼らが不在なうえ、W杯本番までにピッチに戻れる保証もない。
森保監督は最悪の場合に備えたチームマネジメントとして瀬古のユーティリティー性を探ったのだろう。W杯に連れていける選手数は限られ、ひとりの選手が複数ポジションを務められれば、メンバー選考において大事な要素になるからだ。
つまり、メキシコ戦に3バックの左CBでスタメン出場した瀬古が、アメリカ戦で左SBとしてもアピールできていたとすれば、W杯本番の日本代表への生き残りに近づいたはずだ。親善試合は10月、11月と続くが、目先の勝利だけではなく、先を見据えたメンバー構成をしているのには、相応の狙いがあることを理解すべきだ。
また、アメリカ戦はGK大迫敬介、CB荒木隼人(ともにサンフレッチェ広島)のJリーグ組がスタメンで出場した。日本代表は海外組が主力となっているなか、Jリーグ組も遜色なくやれることを見せてくれた。これはJリーグの存在意義を考えるうえでも大きな収穫だった。
【すべて来年の本番を見据えて戦っていく】
10月の親善試合は、パラグアイ代表(10月10日/パナソニックスタジアム吹田)、ブラジル代表(10月14日/東京スタジアム)を迎える。ブラジル代表、日本代表ともにヨーロッパ組が多く、時差と移動距離の兼ね合いからベストコンディションを望むことは酷なものの、条件は両チームとも同じ。そのなかでW杯王者に5度輝いたFIFAランク5位のブラジルをどう攻略するのか。
個人的には、ブラジルの勝負強さを見せつけられる展開になることを期待している。
日本が勝利し、通算成績0勝2分け10敗のブラジルから記念すべき1勝目を飾り、選手たちに自信を深めてもらいたい気持ちはある。ただ、選手たちは親善試合の勝利に浮かれることはないだろうが、日本がブラジルに勝利してしまうと、日本サッカーを取り巻く雰囲気が有頂天になってしまうのではないか、という懸念があるのだ。
それだけに、日本としては強豪に対しての課題を手にする試合になってほしい。
いずれにしろ、これからの親善試合はすべて来年の本番を見据えて戦っていくものになる。毎試合、勝敗に一喜一憂することなく、森保監督のもとで日本代表が何に取り組んでいるかを、しっかりと見つめていきたい。