篠塚和典が語る今シーズンの巨人 打者編
セ・リーグ2位(9月14日時点、以下同)の巨人は、投打ともに振るわない時期が長く、阪神には大差をつけられ、早々にリーグ優勝を許した。そんな今シーズンのチーム状況について、卓越したバットコントロールと華麗なセカンドの守備で、長らく巨人の主力として活躍し、引退後は巨人の打撃コーチを歴任した篠塚和典氏に聞いた。
【リチャードに必要なのは、スイングのパーセントの調整】
――ここまでの巨人バッター陣をどう見ていますか?
篠塚和典(以下:篠塚) 丸佳浩が開幕直前に故障で離脱して出遅れたのがすごく大きく、彼を待っている間に岡本和真が離脱してしまって......それが一番痛かったですね。吉川尚輝の離脱もそう。ほかの若いバッターにとってはチャンスでしたが、安定して活躍できているのは泉口友汰くらいです。坂本勇人もあまり調子がよくないし、トレイ・キャベッジも安定感に欠けますね。
――若手はチャンスを生かせなかった?
篠塚 若手に共通して言えるのが、いい場面で打ったりはしているけど長続きしないということ。一軍でできるくらいの技量を持っている選手たちなのですが、続かないから阿部慎之助監督も使いきれないですよね。
中山礼都などは成長はしているけど、まだ、課題があります。ホームランを打った翌日に3タコ、4タコになってしまうんで。結果が出ずとも内容がよければいいのですが、内容がよくないので使ってもらえない。それの繰り返しなんです。若手に関しては来シーズンも見据えて起用している面もあると思います。
――シーズン途中のトレードでソフトバンクから加入し、10本塁打のリチャード選手はいかがですか?
篠塚 完璧なホームランを打ったりしますが、彼の場合は、打てる場所がワンポイント。
2ストライク後やケースを問わず、ほぼ、常にマン振りなんですよね。状況に応じた打撃ができない。相手バッテリーも「ここに投げておけば打たれない」とわかってきていると思います。甘いボール、ちょっと抜けたボールは当たる確率がありますけどね。今のピッチャーはいろいろな変化球を投げますし、それに対する対応力を上げていかなければいけません。
――変化球の対応が大きな課題ですね。
篠塚 変化球を狙っている時があるのですが、変化球でもストレートを打つ時と同じようなスイングをしてしまうんです。すべて100パーセントで振っていたら、確率は悪くなりますよ。ストレートを70~80パーセントくらいで振って、変化球に対しては振るパーセンテージを調整していかないと。
彼のパワーであれば、50パーセントくらいの力でスタンドへ運べますよ。常にマン振りではなく、コンパクトに振ったり、バットのヘッドを落とすだけで内野の頭を越える打球を打ったりと、状況に応じた打撃の感覚、技術を身につけなければいけません。
――ドラフト3位ルーキー、荒巻悠選手はいかがですか?
篠塚 リチャードと一緒です。彼もある程度振っていくバッターなんで、状況に応じて長打を狙っていい場面と、チーム打撃を使い分けできるようになるためにファームで勉強してもらっていると思います。
ピッチャーのボールの速さによって、ヘッドスピードじゃないですが、振るパーセンテージを意識していかないと。今はピッチャーのほうが力が上ですから。3割バッターがそれぞれのリーグにひとりか2人しかいないじゃない。そういうピッチャーを打っていくためには、技術を細かく追求していくべきです。
――キャベッジ選手は安定感に欠けるとのことですが、要因はどこにありますか?
篠塚 逆方向に強い打球を飛ばしますし、予想していたよりは姿勢もいいのですが、波が激しい。課題は速いボールや、インサイドのボールへの対応ですね。ボールの見極めもそうです。エリエ・エルナンデスに関しては故障というか、状態も落としているんでしょうけど、あまりよくないです。
【泉口の好調の理由は?】
――チームとしては、失策数がリーグワーストの74個。守備面をどう見ていますか?
篠塚 昨シーズンはリーグで1番少なかった(58個)と思うのですが、やはりエラーから失点するケースも目立ちましたよね。特に点がなかなか取れないなかで、守りも崩れてしまうと試合のリズムが作れません。
FAで加入して1年目の甲斐拓也も苦労していますが、やはりリーグが変わるといろいろな部分が違いますし、セ・リーグのバッターの傾向を覚えていくシーズンだと思うんです。ただ、守備面に関しては徐々に慣れるでしょうからさほど心配していません。彼の場合はバッティングですよね。最初はピッチャーもどんなバッターか手探りの部分があったと思いますが、彼はマン振りするタイプ。ハマっている時はいいのですが、やはり相手も研究してきますから。
――捕手は途中から、岸田行倫選手の出場機会が増え、バッティングでも存在感を示しています。
篠塚 岸田はバッティングが安定してきましたし、一生懸命さが伝わってきます。彼がいなかったら巨人はもっと苦しかったと思いますし、甲斐の存在がいい意味で刺激になっている部分もあるんじゃないですか。
――先ほど、安定して活躍できているのは泉口選手くらい(打率.295)というお話がありましたが、ここまで好成績が残せている理由は?
篠塚 最初にチャンスをもらって結果が出ましたし、いい状態がある程度続いたじゃないですか。
あと、彼の特長でもある、右ピッチャーでも左ピッチャーでも対応できるということ。左ピッチャーに対しては、100パーセントではなくショートの頭を越えるくらいの感じでスイングしていますし、周りを見ながらバッティングできていると感じます。
――昨シーズンから変化した部分は?
篠塚 今シーズンからバットを短く持つようになりましたよね。昨シーズンまでは長めに持っていましたが、徐々に短くなっていったので、自分のなかでしっくりしたんでしょうね。ボールが速いピッチャーに対しては、短く持ったほうが絶対に振りやすいわけですし、ピッチャーもバットを短く持たれていると嫌ですよ。リチャードにしても、中山にしても、こういう部分は少し取り入れてみてもいいのかもしれません。
(投手編:巨人のピッチャー陣は「課題だらけ」 CS進出に向けてのポイントも語った>>)
【プロフィール】
■篠塚和典(しのづか・かずのり)
1957年7月16日生まれ、東京都出身、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年を最後に現役を引退して以降は、巨人で1995年~2003年、2006年~2010年と一軍打撃コーチ、一軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。