MLBのサムライたち~大谷翔平につながる道
連載09:小宮山悟
届かぬ世界と思われていたメジャーリーグに飛び込み、既成概念を打ち破ってきたサムライたち。果敢なチャレンジの軌跡は今もなお、脈々と受け継がれている。
MLBの歴史に確かな足跡を残した日本人メジャーリーガーを綴る今連載。第9回は、小宮山悟を紹介する。
【メジャーというよりボビー限定】
「アメリカへの憧れというより、ドジャースへの憧れがありました」
そう話すのは、現在、早稲田大学野球部の小宮山悟監督だ。
そもそものアメリカとの接点は、早大在学中、卒業生でロサンゼルス・ドジャースの球団会長補佐まで務めたアイク生原氏がピーター・オマリー会長とともに来日、母校でアメリカ野球の魅力を語ってくれたことだった。
「ドジャースという球団の哲学に憧れましたね。勝つことだけでなく、黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンと契約を交わしたこと、ブルックリンから先陣を切って西海岸に移転したこと。優勝を狙うのは当然のこととして、常に野球界をリードしていくという哲学がすばらしいと思いました」
早大卒業後はロッテ・オリオンズ(92年より千葉ロッテマリーンズ)に入団。6年目を迎える1995年、監督としてやってきたのがドジャースOBのボビー・バレンタインだった。
「ボビーからは、大きな刺激を受けました。1990年代中盤からは、野茂(英雄)をはじめとして、日本球界からメジャーに移籍する選手も出てきた時期でしたし、私もボビーともう一度、一緒に野球をやってみたいと思っていました」
バレンタインは千葉ロッテを1年だけで去ったが、1998年からニューヨーク・メッツの監督に収まっていた。そして2001年のオフに、小宮山はアメリカ行きを真剣に模索する。
「メジャーというよりも、ボビー限定。ほかの球団のメジャー契約より、メッツのマイナー契約でいいと代理人であるトニー・アタナシオ(注・イチローの代理人でもあった)に話したら、『そんなの聞いたことない』と呆れられました。
念願かなって2002年にメッツへと移籍。年俸は50万ドル(現在レートで約7400万円)と伝えられた。スプリングトレーニングを経てシーズンインしたが、本人が希望する先発で起用されることはなく、ブルペンに控えることが多かった。
「ブルペンは難しかったですね。自分はずっと先発でやってきていたので、たった5分ですぐに肩を作れと言われても、なかなか仕上げられませんよ。ボビーが求めていたような投球ができなかった。その後、マイナーに行ってから、トリプルAでは先発するとバンバン抑えられたんですよ。自分としては先発としてトータルで見てほしいという思いがありました。シーズン途中で他球団からトレードの打診もあったんですが、それも断ってしまって」
終わってみれば、1年目の成績は25試合に登板し、0勝3敗、防御率は5.61の成績となってしまった。
【1年のメジャー歴で学んだもの】
メッツの陣容としては、捕手のマイク・ピアッツァが全盛期を迎え、先発ではアル・ライター、スティーブ・トラクセルらのベテランが2ケタ勝利をマークしたが、チームは75勝86敗でナショナルリーグの東地区最下位に終わった。シーズン終了後にバレンタインは監督を更迭され、小宮山は後ろ盾を失った形となった。
小宮山の契約は、2年目は球団オプションになっていたが、メッツは契約を更新することはなかった。
わずか1年だったが、小宮山はアメリカで多くのことを見聞した。
「アメリカでの時間は非常に勉強になりました。どういう発想でチームを作っていくのか、その現場に身を置いたわけですから。たとえば、契約が持つ意味は大きい。シーズンが開幕したら、年俸の高い順番に先発ローテーションが組まれるし、ブルペンもそうです。そう考えると、『マイナー契約でもいいからメッツで』と言っていた自分がナイーブだったこともわかりました。そういうことなら、シーズン途中で移籍しておくべきだったかもしれない(笑)」
マウンド上でも、監督としても冷静沈着な小宮山にとって、ボビー・バレンタインと一緒に野球をすることは、特別なことだった。その情熱に理屈はなく、お金や契約内容さえ度外視していたのが興味深い。
メジャーリーグ、それはやはり夢の舞台だったのだ。
【Profile】こみやま・さとる/1965年9月15日生まれ、千葉県出身。芝浦工業大学柏高(千葉)−早稲田大。1989年NPBドラフト1位(ロッテ)。2001年12月にニューヨーク・メッツと契約。2003年12月に千葉ロッテと契約して日本球界に復帰。2019年からは母校・早稲田大学野球部の監督を務める。
●NPB所属歴(18年):ロッテ(1990~99/千葉ロッテ92~)―横浜(2000~01)―千葉ロッテ(2004~09)
●NPB通算成績:117勝141敗4セーブ7ホールド14ホールドポイント(455試合)/防御率3.71/投球回2293.0/奪三振1533
●MLB所属歴(1年):ニューヨーク・メッツ(ナショナル・リーグ/2002)
●MLB通算成績:0勝3敗(25試合)/防御率5.61/投球回43.1/奪三振33