「開幕以来5試合勝ち星なし」
なかなか不名誉な記録が、ふたつのチームの共通点である。ラ・リーガ、久保建英が所属するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は18位、浅野拓磨が所属するマジョルカは19位で、どちらも低調な戦いを続けている。
20チームのうち下位3チームが降格になるが、危機感が募っているのはラ・レアルのほうか。ヨーロッパカップ戦出場が目標ながら、降格圏にあえいでいる。マジョルカのほうは、これまでバルセロナ、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリードとビッグ3との対戦があり、残留が目標だけに仕切り直しで十分だが......。
9月24日(現地時間)、両者は第6節で対戦する。古びた表現を使うなら"日本人対決"がそれぞれの命運を決め、すなわちふたりの運命も左右することになりそうだ。
浅野は、直近のアトレティコ・マドリード戦も先発出場している。右サイドを中心に前線を駆け回り、空中戦でも体を張って、クロスにはシュートポイントにしつこく入って、ドローに貢献。スペイン大手スポーツ紙『アス』もふたつ星(星0~3の4段階評価)だった。5試合で4試合出場、184分のプレータイムで準レギュラーだ。活躍が目立って日本に伝えられているわけではないが、決して悪くはない。昨シーズンは1年目で21試合出場2得点と、残留に貢献。久保が傑出した存在なだけで、この調子でいけば、ラ・リーガでは久保、乾貴士に次ぐ日本人成功者になるだろう。
それだけ、ラ・リーガは今も日本人にとって高い壁だ。
では、浅野の何が評価されているのか?
単純に驚くべき走力の高さだろう。スプリント力はラ・リーガでも一定の武器になっている。しかも献身的な性格でプレッシングも強くいけるし、背後への全力スプリントの回数を重ねることも厭わない。今シーズンはセルタ戦では広大なスペースを走り回ったが、そうした走力が武器になっているのは間違いないだろう。昨シーズンは故障が多かったが、継続して戦えるタフさを身につけることができたら主力となるはずだ。
【レアル・ソシエダは昇格以来、最低のスタート】
マジョルカを率いるハゴバ・アラサテ監督は、かつてラ・レアルを率いたこともあり、攻守一体のサッカーを信奉している。前任者ハビエル・アギーレのような守備重視ではない戦い方で結果を残し、敬意を集める。そのアラサテが浅野を右サイド中心に走力の強度を期待し、重用している点は見逃せない(森保一日本代表監督は利き足が右の浅野を左サイドで使うことが多いが、浅野は切り込んでフィニッシュする精度が高いアタッカーではない。アラサテの右サイド起用はとても理にかなっている)。
浅野に足りないのは数字で、昨シーズンの2得点は寂しい。
一方、久保も悲観的になるほど悪いプレーをしているわけではない。
出場時間325分で、不動の主力である。開幕のバレンシア戦ではチームを黒星から救うゴール。その後は代表戦で負った足首のケガの影響があったにもかかわらず、レアル・マドリード戦は途中出場ながら最も相手にダメージを与えた。直近のベティス戦は不調が明らかだったが、ドリブルに入ると1対1では間合いに入らせていない。
明るい兆しもある。技巧派のブライス・メンデスとのコンビは健在で、カルロス・ソレール、ジョン・ゴロチャテギとのコンビネーションは悪くない。ただ、チームの勝利に結びついていないのも事実で、久保自身のゴールも開幕戦の1得点にとどまっている。
「ラ・レアル、降格圏に!」
各スポーツ紙も最近ではそう煽っているように、不穏な状況であることは間違いない。
10月の代表戦中断まで3試合(マジョルカ、バルサ、ラージョ・バジェカーノ)、勝ち点を取れないと、今季就任したセルヒオ・フランシスコ監督が更迭される可能性もある。開幕以来5試合で勝ち点2は2010年に昇格してから過去最低の記録。7試合で勝ち点5だったシーズンもあり、この時は巻き返したが......。
率直に言って、久保が新たにすべきことはあまりない。チームとしての回路が順調に動き出せば、パスを受け、コンビネーションを使うか、単騎で挑むか、自然と攻撃で存在感は増すだろう。現時点ではクラブが開幕後に獲得した選手も多く、連係が整わないため、「ベストの組み合わせが見いだせていない」のも仕方ないだろう。
そもそも、ラ・レアルはヨーロッパカップ出場が常連の強豪クラブではない。過去20年を振り返れば、2部降格でくすぶっていた時代もあるし、上位を維持できるようになったのはイマノル・アルグアシル前監督が率いるようになってからの4、5年で、その前はアップダウンが激しかった。監督交代で劇的に戦いが改善することはなく、むしろ状況は悪化するだろう。
久保は地に足をつけてプレーするしかない。試合を重ねることでフィットできるはずで、そのなかでゴールという結果を残せるか。そこで彼の真価が問われることになる。
浅野、久保の"日本人対決"は、それぞれのクラブの、あるいは選手自身の岐路となるかもしれない。