日本の競馬のほとんどのジャンルには、春と秋にひとつずつGIがあり、それを両方勝てば「春秋連覇」と称えられる。スプリント路線で言えば、春のGⅠ高松宮記念(中京・芝1200m)と秋のGIスプリンターズS(中山・芝1200m)である。
だが、これを続けて勝つのは思った以上に難しい。過去10年を見ても同年に春秋連覇を果たしたのは、2018年のファインニードルのみ。「短距離女王」の名をほしいままにしたグランアレグリアでさえ、達成できていない。
この春と秋のスプリントGⅠは、同じ1200m戦でも左回り、右回りと回りが違う。さらに、馬場状態も大きく異なる。好天に恵まれる秋のスプリンターズSでは1分7秒台の決着になることが多いが、雨が多い春の高松宮記念では過去5年(2020年~2024年)で勝ち時計が1分8秒を切ったことは一度もない。
要するに、スプリントGⅠの春秋連覇には、スプリント能力だけでなく、荒れ馬場も高速馬場もこなす対応力も求められるのだ。
そして今年、週末に行なわれるスプリンターズS(9月28日)において、春の高松宮記念(3月30日)で強い競馬を見せて快勝したサトノレーヴ(牡6歳)に、春秋連覇の期待がかかっている。その可能性について、関西の競馬専門紙記者はこう語る。
「サトノレーヴはすでに6歳馬ですが、若い頃に故障による長い休養があったりして、それほどレースの数を使っていません。ですから、馬はまだ若々しいし、今が充実期にあると言えるのではないでしょうか。短距離GⅠの春秋連覇に向けて、その見通しは明るいと思います」
サトノレーヴは現在、まさに競走馬として充実期にある。
この春、高松宮記念を制すると、すかさず海外へ戦いの場を移して、香港、英国と転戦。それぞれのGⅠレース、チェアマンズスプリントプライズ(4月27日/シャティン・芝1200m)、クイーンエリザベス2世ジュビリーS(6月21日/アスコット・芝1200m)と、ともに海外の一線級相手に2着と結果を残している。
確かに2戦とも勝利を挙げることはできなかった。しかし香港では、16戦14勝、2着2回という戦績を誇り、世界屈指の"スプリント王国"における現在の絶対王者、カーインライジング(香港)に食い下がった。
英国でも、デビュー6連勝でGⅠを制している素質馬ラザット(フランス)との叩き合いを披露。着差はわずか半馬身。初の欧州での戦いだったことを思えば、勝ちに等しい内容だった。
こうして、高松宮記念を勝って以降も、海外で世界のトップレベルを相手にして、中身の濃いレースを見せてきたサトノレーヴ。つまり、同馬の能力は世界レベルでもGⅠ級であることを証明した、と言える。
その現状からして、スプリンターズSにおいても「見通しが明るい」のは間違いない。
しかも、高松宮記念でも手綱を取った"マジックマン"ジョアン・モレイラ騎手が今回も鞍上を務める。
これは、かなり心強い。
もはや、サトノレーヴのスプリントGⅠ春秋連覇は濃厚と言える。が、唯一気になることがある。それは、昨年のスプリンターズSで1番人気に支持されながら、7着に敗れたことだ。
その敗戦について、先の専門紙記者はこんな見解を示す。
「あの敗因は、出遅れがすべてですよ。前目の好位でレースをしてきた馬ですから、あの出遅れは痛かったと思います。短距離戦での出遅れはなかなかカバーできないですし、それによって、自分の得意な競馬ができなかったわけですから。
それでいて、勝ち馬との着差はわずかコンマ4秒差。決して悲観するようなものではなく、コースがどうこうといった心配もいらないでしょう」
実際、中山・芝1200mでは昨年のスプリンターズSを除けば、2戦2勝。
また、先述の専門紙記者は、出遅れへの不安についても「今年は大丈夫でしょう」と言って、こう語る。
「前年の出遅れについて、ひとつ原因として考えられるのは、臨戦過程。昨年はスプリンターズSの前に、夏の北海道でGⅢを2回使いました。どちらも勝ちましたが、この時の肉体的、精神的負担が、思った以上に大きかったのではないか、と思っています。
それに、その北海道の2戦目から本番までの間がわずか1カ月しかありませんでした。それが、本番での痛恨の出遅れにつながってしまったのではないでしょうか。
その点、今回は前走の英国でのレースからおよそ3カ月の間隔をあけての出走。陣営もこれまでの経験を経て、いろいろとケアをしていますから、昨年と同じ轍を踏むようなことはないと思いますよ」
今春の高松宮記念制覇は、香港遠征後の初戦だった。それを思えば、海外帰り初戦の凡走といった不安もない。加えて、相手関係もこれといった新興勢力は見当たらない。香港から参戦予定のラッキースワイネス(せん7歳)にしても、2着に入ったチェアマンズスプリントプライズの際に先着。
かくして、サトノレーヴのスプリントGⅠ春秋連覇の舞台は整った。長く不在と言われてきた短距離界の絶対王者誕生まで、まもなくである。