プロ野球ドラフト会議まで3週間を切り、NPBを目指す選手たちの挑戦も佳境を迎えている。国内独立リーグでプレーする選手のなかには、「ドラフト指名がなければ引退する」と悲壮な覚悟で戦う者も珍しくない。
独立リーグはすでに全日程が終了。9月末には日本独立リーグ野球機構に所属する6団体から7チームがトーナメントを戦う、日本独立リーグ・グランドチャンピオンシップが栃木県(小山、真岡)で開催された。
今大会はドラフト候補を多数擁する徳島インディゴソックス(四国アイランドリーグplus)が出場権を逃したこともあり、NPBスカウト陣からの注目度は高いとは言えなかった。それでも、グランドチャンピオンシップでのアピールが実り、ドラフト指名に至った前例もある。「ラストアピール」の舞台で光った3人の野手を紹介しよう。
【中学時代のチームメイトはドラ1でプロ入り】
火の国サラマンダーズは九州アジアリーグで直近5年のうち4回優勝を遂げ、グランドチャンピオンシップを2回制覇している強豪である。20代中盤の脂の乗った実力者が先発メンバーを占めるなか、20歳と若さが際立つのが、5番・右翼手の池内匠生(いけうち・しょう)だ。
「自分は人見知りせずに積極的に話せるタイプなんで、年上の人が多くてもやりづらさは一切ないです」
池内はこともなげにそう語る。日本航空石川高を経て、愛知学院大に進学。リーグ戦の出場実績もあり、中村優斗(現・ヤクルト)から安打を放ったこともある。2年時に退学し、今季から知人のつてをたどって火の国サラマンダーズに入団した。
池内の大きな武器は、遠投120メートルの強肩である。試合前のシートノックから力強いスローイングを披露し、本人も「自分のなかで一番の売りです」と自信を持つ。
身長184センチ、体重77キロと長身痩躯で、課題は「パワー不足」と本人も自覚する。とはいえ、フィジカル強化が実れば、大化けする可能性を秘めている。
今季は九州アジアリーグで58試合に出場し、打率.360、38打点、19盗塁の成績を残した。リーグ戦では0本塁打だったにもかかわらず、グランドチャンピオンシップ初戦・石狩レッドフェニックス(北海道フロンティアリーグ)戦では、左打者ながら左翼席に放り込んでみせた。高校では通算18本塁打を放っている。
池内には「早く一緒の舞台で戦いたい」と意識する存在がいる。内藤鵬(オリックス)とイヒネ・イツア(ソフトバンク)。ともに中学時代に所属した東山クラブ(愛知)のチームメイトであり、内藤に関しては高校でも同僚だった。
「内藤は中学の頃からケタが違っていて、参考にしようがないレベルでした。でも、イヒネは同じ外野手で、僕の控えでした。高校で一気に抜かされて、ドラフト1位でプロに行った時には驚きました」
今季にドラフト指名がなかった場合も、プレーを継続予定だという。この好素材を青田買いする球団は現れるだろうか。

【盗塁数は10からリーグ新記録の54に激増】
一方、年齢的にラストチャンスに賭け、死に物狂いでアピールする選手もいる。愛媛マンダリンパイレーツ(四国アイランドリーグplus)の3番・中堅手を務める上野雄大(24歳)もそのひとりだ。
「今はNPBに行くことしか考えていませんが、年齢的にNPBを目指せるのは今年までかなとは思っています」
岡山県出身で、立正大淞南(島根)、中京学院大(岐阜)を経て、関西独立リーグの堺シュライクスで1年間プレー。昨季から愛媛に入団し、今季は大卒3年目になる。
じつは大学卒業時に四国アイランドリーグplusのトライアウトを受験したものの、あえなく不合格となった過去がある。上野は「1年1年、ちょっとずつうまくなっている実感があります」と語る。
上野の武器はハイアベレージを期待できる打撃と、今季に急成長した走塁である。とくに打撃面は独特の感性が光る。
身長170センチ、体重69キロと小柄ながら、グリップをダイナミックに動かしてタイミングを取る。いわゆる「ヒッチ」と呼ばれる動作から、ヒットゾーンに打球を運んでいく。リーグ戦では昨季に打率.351、今季も打率.352と安定した数字を残している。
「バッティングは誰かに教わったわけではなく、自分の形をつくり上げてきました。『ピッチャーに入っていく』イメージでタイミングを取って、全部のボールを打ちにいきながら、そのなかで見極めていきます」
昨季から高打率をマークしながら、NPBスカウトから注目される存在ではなかった。
「一番よくなったのは、観察力です。ピッチャーのモーションだけでなく、キャッチャーの構え方を見て変化球がくることを予測したり、カウントによって球種が読めるようになったり。もともと足は速かったんですけど、リーグ戦で戦うなかで勉強していきました」
グランドチャンピオンシップ初戦となった火の国戦では、2安打1打点とバットで存在感を放った一方で、0盗塁に終わった。2回あった盗塁シチュエーションでは徹底的なマークにあい、スタートを切ることは難しかった。上野は「盗塁できなくて悔しかった」と明かしつつ、こうも語っている。
「今日は牽制やクイックが上手な投手が相手でしたし、場面的に100パーセントの確信がなければ走ってはいけない状況でした。盗塁は成功すればチャンスが広がりますけど、失敗すれば相手に流れがいってしまうので。自分は『絶対にこのバッテリーなら成功する』という確信を持って走りたいんです。今日は走れませんでしたけど、結果的にチームが勝てたのでよかったです」
上野のような右投左打の外野手はNPBで飽和状態にあり、ドラフト指名されるハードルは一層高くなると言われている。
そう聞くと、上野は決然とした口調でこう答えた。
「憧れはもちろんあります。あとは今まで好きな野球をやらせてもらってきましたし、関わってくれたすべての人に恩返しがしたい。その思いでやってきました」
NPB球団からの調査書も届き始めている。上野の恩返しは成就するだろうか。

【ヒットを打つだけが自分の仕事ではない】
上野と同様に俊足巧打タイプとして注目されるのが、栃木ゴールデンブレーブス(ルートインBCリーグ)の遠藤桃次郎(23歳/登録名・桃次郎)だ。
「アウトになるにしても、簡単に三振はしたくないんです。ゴロを打って、相手の守備にプレッシャーをかけたい。ただヒットを打つだけが自分の仕事ではないので、できるだけ相手の嫌がるプレーをしたいんです」
そのしぶといプレースタイルは、歩んできた経歴とシンクロしているように感じられてならない。
練習が厳しいことで知られる横浜瀬谷ボーイズ(神奈川)で中学時代を過ごし、高校は盛岡大付(岩手)へ。
とはいえ、高校3年夏に背番号4をつけたものの、公式戦の出場はなかった。白鴎大でも3年までは出場機会に恵まれず、3年時の大学選手権ベスト4はスタンドで応援していた。1学年上には福島圭音(現・阪神育成)がおり、春の関甲新学生リーグ9試合で20盗塁という離れ業を見せていた。
「圭音さんが塁に出ればツーベースだって、みんなに言われていました。本当にすごかったですね」
生き残りをかけ、フルスイングするスタイルから低いゴロを打つスタイルに転換。すると徐々に結果が出るようになり、4年になってレギュラーを奪取。秋の横浜市長杯・帝京大戦では1試合3盗塁とアピールした。
栃木に入団した今季は、リーグ戦55試合で打率.354、42盗塁をマーク。シーズン終盤にかけて盗塁のペースが増えた理由について聞くと、桃次郎はこう答えた。
「警戒されるなかで走ることは難しかったんですけど、やっていくうちに自分のなかで『いける』という感覚が増えていきました。技術的なことより、自分の気持ちの持ち方が変わったことで力が出せるようになりました。
現時点で1球団から調査書が届いているが、今後も増える可能性は十分にある。桃次郎は最後に自身の意気込みを語った。
「NPBの試合にすぐ出られるような、即戦力の選手になりたいと頑張ってきました。まずは足でアピールしていきたいです」
独立リーガーたちのラストアピールは届くのか。10月23日、ドラフト会議の日は刻一刻と近づいている。