ワールドシリーズ2連覇を目指すロサンゼルス・ドジャース。プレーオフに入り、公式戦を長く欠場していた先発陣が本来の力を発揮するなか、中継ぎ、抑えに不安を抱えたドジャースだったが、佐々木朗希がその役割を受け入れ、見事なピッチングで、救世主となる活躍を続けている。
5月中旬から9月下旬まで、故障者リスト入りやマイナーリーグでのプレーを余儀なくされていた佐々木はいかに復活を遂げ、プレーオフでの大きな戦力となっているのか。
【今の佐々木は「ただただボールがえげつない」】
ロサンゼルス・ドジャースの地区シリーズ突破の立役者となった佐々木朗希は、照れ笑いを浮かべていた。今季3度目のシャンパンファイト。冒頭でデーブ・ロバーツ監督が「まず初めに今夜の朗希に称賛を贈りたい」とスピーチすると、会場が沸いた。入団に際し背番号11を譲ったミゲル・ロハスを中心に「Shot for Roki(朗希に乾杯!)」の声が上がり、選手たちは手にした小さな紙コップを高く掲げ、その中身を一気に飲み干した。
「公式戦で全然貢献できなかったぶん、残されたポストシーズンで自分のできることで貢献したいと思っていた。少しですけど、貢献できていてよかったなと」
フィラデルフィア・フィリーズとの地区シリーズ第4戦は同点の8回から登板。実は準備が足りていなかったと明かす。
「試合前に"2イニングがあるかもしれない"って言われていたので、逆算して8回からかなと思っていた。ただアンソニー・バンダが準備していて、イニング途中からかなと。そしたら急にいくと言われて、いつもより準備が少なかった。なんとかすぐスイッチを入れて、試合に挑めたかなと思っています」
だが、いまの佐々木はウィル・スミス捕手が「ただただボールがえげつない」と言うように無敵だ。今季本塁打王のカイル・シュワーバーを右飛、続くMVP2度の主砲ブライス・ハーパーはスプリットで三飛、4番アレク・ボームはこの日最速の100.7マイル(161.1キロ)で二ゴロ。
さらに、救援起用後初の回またぎとなる9回、延長10回も登板し、打者9人を封じる完全投球。最後のアウトをテオスカー・ヘルナンデスが左翼でつかむと、佐々木はマウンドを降りながら吠えた。ロバーツ監督はダグアウトを飛び出し、抱きしめた。指揮官は「私が覚えている限りでも、最高レベルの救援登板。最高の舞台でこういうパフォーマンスを見せている。誇りに思う」と称えた。
それにしても、肩のインピンジメント(腱板障害)で5カ月前に離脱し、その後ほとんどメジャーの舞台で姿を見せなかった新人が、どうしてチーム最強の救援投手になれたのか。実際、わずか1カ月前までドジャースのポストシーズン計画にすら入っていなかった。
その背景にあるのは、ドジャースというチームの層の厚さである。
【故障者リスト入り日数はメジャー1位】
ドジャースは今季も、メジャーリーグ全30球団のなかで負傷者リスト(IL)在籍日数が最多だった。登録は37件、合計在籍日数は2585日。2024年も2219日、2023年も2465日と、3年連続でリーグ最多だ。
AP通信によると、地区シリーズの登録メンバーでは、佐々木が137日、ブレーク・スネルが121日、ブレーク・トライネンが102日、エメット・シーハンが92日、タイラー・グラスノーが72日、クレイトン・カーショウが60日、タナー・スコットが31日、アレックス・ベシアが17日間ILに入っていた。今季、IL入りを免れた投手は、アンソニー・バンダ、ジャック・ドライヤー、そして山本由伸の3人だけだった。
それでもドジャースは93勝69敗で地区優勝を果たした。ちなみに、2023年は100勝62敗、2024年も98勝64敗で地区優勝している。ロバーツ監督は、このチームの層の厚さについて次のように語っている。
「フロントがどれだけ柔軟に戦力を補強し、ウェーバーや育成面での深みを作れているかを示していると思います」
このドジャースならではのチームの層の厚さに、筆者が印象付けられたのは、1年前の山本への対応だった。
6月7日のニューヨーク・ヤンキース戦でキャリア最多となる106球を投げたあと、山本が違和感を訴えた。ドジャースは2日間の追加休養を与えて様子を見たが、6月15日のカンザスシティ・ロイヤルズ戦で再び同じ症状が出て、2イニングで降板した。MRI検査では断裂などの損傷は確認されなかったが、翌日右肩の回旋筋腱板(ローテーターカフ)の損傷でIL入りとなった。さらに7月13日には60日間のILに移行されている。
だが、まったく投げられなかったわけではない。60フィート(約18メートル29センチ)の距離でキャッチボールを行なっていたし、遠投などもこなしていた。それでも復帰までたっぷりと時間をかけ、結局9月10日に実戦復帰。約3カ月間の時間を与えた。
【ドジャースが復帰を急かさなかった背景】
ドジャースは、過去の教訓から学んでいた。2007年のボストン・レッドソックスの松坂大輔、2014年のヤンキースの田中将大のケースである。
レッドソックスはポスティングフィーに5111万1111ドル11セント(約76億6666万6700円)を支払い、松坂との独占交渉権を獲得、総額5200万ドル(約78億円)の6年契約を結んだ。
田中も同様だ。ヤンキースは総額1億5500万ドル(約232億5000万円)の7年契約に加え、ポスティング譲渡金として2000万ドル(約30億円)を支払う莫大な投資を行なった。田中は最初の14試合で11勝1敗、防御率1.99という圧倒的なピッチングを披露したが、その反動で肘に負担がかかっていた。1年目から6季連続で2ケタ勝利を挙げたものの、デビュー当初の圧倒的なピッチングを取り戻すことはできなかった。
多くの人が知るように、ボールの違い、登板間隔の違いなど、日米のプロ野球には環境の差が甚だしい。ドジャースはそうした経緯から学び、思いきった対応をした。12年総額3億2500万ドル(約487億5000万円)という超大型契約に加え、ポスティング譲渡金5062万5000ドル(約76億円)という空前の投資をしながら、あるいは12年という長期契約だからこそ、1年目に無理をさせなかった。MLBの環境に適応する時間を与えた。その結果、山本は2年目の今季、シーズンを通してローテーションを守った唯一の先発投手となり、エースとしてチームを牽引している。
だから今年も、ドジャースは佐々木に対して急がせなかった。
5月14日、佐々木はこう説明していた。
「画像を撮っても、これといった原因は見つかっていません。治すために、その原因を探す作業になります。悪いところがあるわけではないので、手術をするような状態ではありません」
つまり特定の動作をしたときだけ痛みが出るという状況だった。ロバーツ監督も復帰時期について「正直なところ、わかりません。本人にも、復帰時期に関して具体的な期待や期限はいっさい設けないことを伝えました」と語っていた。その後、佐々木は2週間ほどで投球を再開したが、6月16日に再びシャットダウン。肩の痛みが再発してステロイド注射(コルチゾン注射)を受ける事態にまで至っていた。
つづく