【高校野球】来年のドラ1候補が再始動 沖縄尚学・末吉良丞が重...の画像はこちら >>

【逆転のピンチを切り抜け初戦突破】

 ドラフトの興奮も覚めやらぬなか、来年のドラフト1位候補が躍動した。

 10月26日。今夏の甲子園優勝左腕、沖縄尚学の末吉良丞(りょうすけ/2年)が、宮崎県のひなたサンマリンスタジアム宮崎で行なわれた秋季九州大会1回戦の有明(熊本)戦で1対0の7回から登板。

9回一死から四球を与えたあと、連打で一死満塁と、一打サヨナラの大ピンチを迎えてしまう。
 
 しかし5番の簗脇拓馬(2年)を145キロの直球で見逃し三振に仕留めると、後続も打ち取り、虎の子の1点を守り切った。

「初戦という変な緊張感はありましたけど、こうやって接戦を勝ち切ることができたのは、チーム力が上がってきているからだと思います。そこまで状態がよくはないなかで無失点に抑えることができたのはよかったですが、自分のなかで気持ちがアップアップで、真っすぐを多めに投げすぎて、そこを当てられたのが改善点ではあります」

 最速は146キロ。150キロを投じる剛腕からすれば、物足りなさはあったかもしれない。それでも、7回からの2イニングは、打者6人を相手に4奪三振。3イニングを6奪三振と、要所でギアを上げ、有明打線の反撃の芽を摘んだ。

 大舞台での得難い経験が、大事な場面で生きている。今夏の甲子園では全6試合、34イニングを投げ、39奪三振で防御率は1.06。3回戦の仙台育英(宮城)戦では、延長11回を169球の熱投でタイブレークを制し、2022年夏の甲子園覇者に5対3と競り勝った。

 大会後は休む間もなく、2年生で唯一、高校日本代表に選出。U−18W杯は惜しくも準優勝に終わったが、決勝の米国戦で先発するなど3試合で先発。

国際大会のひりつく緊張感も味わうことができた。多少のピンチで動じることはない。

「やはり上のレベルで勝ち上がっていくには、こういう緊迫した場面でもしっかり落ち着いて0点で切り抜けないといけないので、そこは冷静さを失わずにやれたと思います」

 ただ、今夏は沖縄大会、U−18W杯も含め、公式戦だけで13試合に登板。長期遠征での慣れないホテル暮らしも重なり、疲労は徐々に蓄積されていった。さらにはファンからの注目度も増し、気疲れすることも少なくない。

【末吉の状態が一番よくない】

 末吉は投げ込みをしながら体にキレを生んでいくタイプ。「投げ込みでしか体力はつかない」と、昭和の大投手のような信条を掲げ、夏の大会前には1日100球以上の投げ込みを繰り返し、スタミナを養っていった。ただ、U−18W杯が終わり、新チームに合流してから1週間ほどは、肩・ヒジを含む体全体の疲労回復に努めた。

「ストレッチを長めにやったり、少し遅めのジョグに近いランニングを入れたり、体の中から疲労を抜くということをやってきました。そのあとはふつうに全体練習に入って、1日100球とか投げていました」

 この日の試合中も、二枚看板の最速146キロ右腕・新垣有絃(ゆいと/2年)が6回を1安打無失点の好投を見せる脇で、力強いキャッチボールを行なう姿があった。大会期間中だろうが試合中だろうが、左腕を振りながら調整をしていくという姿勢に変わりはない。

 ただ、エースの登板を振り返った比嘉公也監督は、「明らかに抜けて、明らかに引っかけるボールが多すぎます」と手厳しい。

「ここ最近のブルペン投球を見ていると、末吉の状態が一番よくないという感じがしていました。しかしこういう展開なので、力で押し切るしかない、というところに頼らざるを得なかった。そんな感じです」

 比嘉監督自身も1999年春の選抜で優勝を経験した左腕。好不調は手にとるようにわかっているし、聖地のマウンドに上がり続けたあとの疲労感や脱力感は誰よりも熟知している。

「ちょっとマウンドで力んでいるのかもしれません。注目をされたらそうなるのかもしれませんが、自分で乗り越えていかないと次のステップでは通用しません。そこは自分で、頭と心の整理をすることができるピッチャーになってほしいと思います」

 末吉も今秋、最上級生としての責任感から、「空回りする場面があった」と振り返る。沖縄大会準決勝のエナジックスポーツ戦で先発。4回に味方が先制した2点を守りにいく姿勢が力みへとつながり、直後の5回に同点とされてしまう。結局7回2失点で、チームは5対2で勝利して九州大会進出を決めたが、悔しさが残った。

「決勝戦の前に比嘉先生に『野球はチームスポーツ。自分でなんでもできるわけじゃない。

任せるところは任せないと』と言われました。チームを引っ張っていくという面では自分がやらないといけませんが、そこまで気負わずに九州大会に入ることができて、まずは無失点で終えることができてよかったです」

 28日の準々決勝で勝てば来春の選抜出場が確実となる4強へ進出するが、相手は強豪の神村学園(鹿児島)。簡単に勝てる相手ではないことは重々承知している。3季連続甲子園、そして過去4例しかない夏春連覇へ、ここを乗り越えなければ、先はない。

「昨年の先輩たちの代では、九州大会で優勝して神宮大会、選抜に出て、最終的に夏の甲子園で初優勝をすることができました。自分たちの代でもしっかり勝ち切るということを大切にしてやっていきたいです」

 新たなる境地へと達した日本一左腕が、新たなる高みに向け、次戦こそ真価を証明する。

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