MLBのサムライたち~大谷翔平につながる道
連載16:桑田真澄
届かぬ世界と思われていたメジャーリーグに飛び込み、既成概念を打ち破ってきたサムライたち。果敢なチャレンジの軌跡は今もなお、脈々と受け継がれている。
MLBの歴史に確かな足跡を残した日本人メジャーリーガーを綴る今連載。第16回は、39歳でメジャーリーグ挑戦を果たした桑田真澄を紹介する。
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【39歳でのメジャー挑戦で残した足跡】
21年間で通算173勝を挙げた読売ジャイアンツを退団し、桑田真澄は2007年に39歳でメジャー挑戦を果たした。このような年齢での渡米は当時としても異例に近く、そのチャレンジの過程は当然のように容易なものではなかった。
オフにピッツバーグ・パイレーツとマイナー契約を結んだものの、オープン戦で登板した際に審判と接触して右足首の靱帯を断裂するという重大なアクシデントを経験。不惑に近い年齢での新天地でのプレーには致命的な離脱かと思われたが、それでも不屈の闘志でアメリカに残り続けたことは何よりも評価されていい。
フロリダでリハビリに取り組んだ努力が報われ、5月には練習で登板できるまでに回復。6月上旬に3Aでの初登板を飾ると、ブルペンが壊滅状態だったパイレーツのチーム事情もあって6月9日にはメジャー昇格を果たした。その翌日には初登板し、39歳70日でのメジャーデビューは当時の日本人記録だった(現在は高橋健に次ぐ2位)。
「日本ではベテランだったけど、アメリカではルーキー。だから結果を出さないといけない」
そんな謙虚かつ初々しい言葉も残していた"オールドルーキー"。実際、立場的には常に崖っぷちにいたのは事実だが、そんななかでも桑田は伝統のヤンキースタジアムでのニューヨーク・ヤンキース戦のマウンドに立ち、シアトル・マリナーズ戦ではイチローから三振を奪うといったハイライトも生み出した。パイレーツのチャド・トレーシー監督も大ベテランをリスペクトし、一定の評価を与えていたことは、好投時のこんな言葉を聞けば伝わってくる。
「彼が本来のピッチングをすれば、ストライクゾーンのほんの一部しか使わないタイプの投手だ。20年間投げ続けてきた男だ。たった1イニングを見ただけで、彼が何をすべきかを100%理解していることがわかるよ」
"プロフェッショナル"という言葉を体現するような桑田の姿勢のすばらしさはアメリカでも若手のいいお手本となった。守備のうまさ、牽制球の巧みさは群を抜くレベル。当時のパイレーツで正捕手だったドミニカ共和国出身選手、ロニー・ポリーノが「マスミを見ているとさまざま意味で勉強になる。いろいろなことを学べるよ」と目を細めていたものだった。
【実際に行って食べてみなければ、その味はわからない】
もっとも、メジャーリーガーとしての桑田にとって、いい時間が長続きしたわけではない。2007年6月は9試合で10回2/3を投げて3失点と好投し、一時は中継ぎとして重要な登板を任されることもあったものの、徐々に球威不足を露呈していく。7月は合計8回1/3で14失点と火だるま。生涯最後の登板となった8月13日のサンフランシコ・ジャイアンツ戦でも1回5失点と痛打されていたのだから、翌日に戦力外通告を受けたのも仕方がなかったのだろう。
結局、メジャーでは19試合に登板し、0勝1敗3ホールド、防御率9.43。読売ジャイアンツ時代の輝かしい実績を思い返し、米球界挑戦は"失敗"と捉えるファンもいるに違いない。
それでも、桑田のメジャー挑戦に関しては、数字、成績だけでシンプルに優劣を下すのは間違っているのかもしれない。周囲がどう考えようと、パイレーツでの桑田はアメリカでの日々を楽しんでいた印象が残っている。フィールド、クラブハウスでも頻繁に笑顔を浮かべ、メジャーキャリアを慈しむように過ごしていた。まるで自身の野球人生が終盤に近づいたことに気づき、最後の場所を見定めていたかのように。
「どこかのビーフステーキがおいしいと聞いても、実際に行って食べてみなければその味はわからない。実際の経験を大事にしたいんです」
自身のポリシーをそう語っていた桑田は、パイレーツからついに解雇されても晴れやかな笑顔でグラウンドを去った。その表情からは、自分にできることをすべてやった人間の清々しさが感じられた。短くとも、最高峰の舞台で得た充実の日々。それらの財産を思い返し、たとえ未勝利ではあっても、桑田は自身のメジャーキャリアを貴重な経験として振り返ることができるのではないだろうか。
【Profile】くわた・ますみ/1968年4月1日、大阪府出身。
●NPB所属歴(20年):読売ジャイアンツ(1986~2006/1996は全休)
●NPB通算成績:173勝141敗14セーブ(442試合)/防御率3.55/投球回2761.2/奪三振1980
●MLB所属歴(1年):ピッツバーグ・パイレーツ(2007/ナショナルリーグ)
●MLB通算成績:0勝1敗3ホールド(19試合)/防御率9.43/投球回21.0/奪三振12










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