「トライアウトはやっぱり独特の雰囲気ですね。すごい緊張感のある環境でした。

このユニフォームを着て投げるのは最後だったので、ベイスターズでの区切りとして、ファンの方も来てくださって、ツーシームも思い描いた軌道で投げることができた。悔いのないピッチングができたと思います」

 11月12日に行なわれた2025年トライアウト。その日の投手陣のなかで、印象に残る投球を見せたひとりが、元ベイスターズの徳山壮磨(26歳)だ。

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【右打者の懐をえぐる進化の投球】

 トライアウトで対戦する3人のうち、最初の打者は元西武の渡部健人だった。直前の打席でレフトへ豪快なアーチを放っていた長距離砲に対し、徳山は臆することなくインコースへツーシームを続けて投げ込み、簡単に追い込んでいく。3球目の146キロのツーシームでバットをへし折ると、打球はボテボテのサードゴロに。つづく打者も、同じくインコースへのツーシームでサードゴロに打ち取り、まともにバッティングをさせなかった。

 投球の軸になったのは、右打者の懐を鋭くえぐる新球"ツーシーム"だった。

「そうですね。シーズン後半から少しずつ試していて、手応えもつかんでいました。来年はこれを軸にしたスタイルで勝負しようと思っていたのですが、その機会がなくなってしまいましたからね。だから今日は、『これからの自分はこのスタイルでいきます』という姿勢をしっかり見せられたと思いますし、よかったのかなと思います」

 プロ4年目の徳山は、今季一度も一軍のマウンドに立つことなくシーズンを終えた。2021年ドラフト2位で入団した期待の右腕。

昨年ようやく一軍の切符をつかむと、最速156キロの力強いストレートを武器に中継ぎとして一躍存在感を示した。

 開幕から8試合連続無失点を記録し、勝ちパターンにも名を連ねた。7月9日にはプロ初勝利も挙げ、最終的には29試合で防御率2.45。まさに、ニュースターの誕生。つい1年前のことである。

【苦しい復帰の現実】

 だが、初勝利の直後に疲労から腰痛を発症して登録抹消。二軍でも登板の機会がないまま、9月には椎間板の手術に踏みきった。昨年のCSや日本シリーズはテレビの前で悔しい思いを抱えながらの観戦となったが、その分、早い段階から復帰に向けたリハビリを行ない、今季は開幕からフル回転で投げるはずだった。

「体のほうは、キャンプから1年間しっかり動けていたので特に問題はありませんでした。ただ、すべてが元通りというわけにはいかなくて、どうしても戻りきらない部分がありました。キャッチボールやブルペンでは大丈夫でも、試合になるとうまく投げられなくて......。昨年のよかった時との感覚の"ズレ"を感じるなど、もどかしい状態が続き、きつかったですね」

 今季、二軍での成績は36試合で防御率3.31。シーズン中には球速も152キロまで戻ったものの、前半戦は自分を見失ったまま厳しい投球が続いた。

35回1/3で32個の四死球、K/BB(※)0.80。その数字が示すとおり、最大の課題は制球力だった。

(※奪三振と与四球の比率を表す指標。3.5を超えると優秀とされる)

 どれだけ投げても、かつての感覚が戻ってこない。そうして夏が過ぎていくなか、現状を打破できない自分を変えたいという思いが強まっていった。徳山はついに、投球スタイルの変更を決意する。

「やっぱりストレートにはこだわっていたんですけど、うまくいっていなかったので、腹をくくってシーズン途中でも(ツーシームに)挑戦してみようと思ったんです。それでダメならしょうがないと納得もできますしね。ファームでは森唯斗さんが、ツーシームの握りでストレートを投げていましたし、ほかにもツーシームで150キロのボールを投げる投手はたくさんいます。自分も力強いボールが持ち味で、ストレートにシュート成分があるタイプなので、それならいっそ、そっちに振り切ろうと決めました。

 握りをツーシームに変えて、真っすぐと同じ感覚で投げるようにしたことで、体の動きもスムーズになり、コントロールもつけやすくなって、投球がまとまるようになりました。今日もキャッチャーの方には『真ん中にドーンと構えてください』とお願いして、イメージどおりのゴロを打たせることができました。

いい手応えがあるので、このスタイルをもっと伸ばしていけたらと思います」

【苦悩の連続だった4年間】

 その表情からも、手応えある投球だったことがうかがえた。ただ惜しむべくは、これが「トライアウト」という舞台だったことだ。本格的なスタイル変更に着手したのが9月と遅く、十分に実戦で積み重ねられる時間がなかった。実際、9月の5試合では四球が減り、徳山自身もツーシームを軸にした新しいスタイルに確かな手応えを感じていた。

「シーズン終盤になって、ファームでも、いつもなら自分が投げるはずの場面で育成の選手が投げていたり、登板が少なくなってきたことを肌で感じていました。最終戦のあとに戦力外を告げられた時は、いろんな人に『なんでおまえが』と言っていただきましたけど、今年ファームで力を出しきれなかったのは事実ですし、自分としても覚悟はありました。プロは厳しい世界だとわかって入ってきていますからね。

 もちろん、『もう少し早くツーシームに挑戦してアピールできていたら』とは思いますけど、これが自分の実力だったと受け止めています。今は次の舞台につながるように、ポジティブに考えています」

 大阪桐蔭時代には3年春に選抜優勝。早稲田大学では最優秀防御率のタイトルを獲得し、2021年にはドラフト2位で横浜DeNAに入団。徳山は順風満帆のエリート街道を歩んできたように見えるかもしれない。

 だがプロに入ってからの徳山は、ずっともがき続けてきた。2年目にはイップスを発症し、一時は自信を完全に失って、投げられなくなるほど追い込まれた。

それでもメンタル面を改善して大きな壁を乗り越えた。昨年前半には持ち味を発揮して存在感を示したものの、腰痛で手術を経て迎えた今季は不調に苦しむことに。

【因縁の松山竜平との運命の再戦】

 苦難の連続だった4年間をようやく乗り越えてきただけに、これほど早い戦力外は悔しさが残るものだった。

「4年......こんなにもあっけないものなんだな、と思いました。でも、ベイスターズでは森原(康平)さんをはじめ、本当に多くの方に相談に乗っていただき、お世話になりました。今日も森原さんがスタンドに見に来てくれていましたし、ファンの方も来てくれて。

 あとは両親も呼んでいました。もしかしたら、今日が最後に投げる姿になるかもしれないと思ったので、その人たちの前でベイスターズのユニフォームを着て、今の自分にできるピッチングを出しきれたのはよかったです。最初はトライアウトに参加するかどうか悩んだんですけど、今は出てよかったと思っています」

 そしてトライアウトでの3人目の打者は、元広島の松山竜平だった。スタンドからは大歓声が起こる。松山は徳山にとって、プロ初ホームランを浴びた因縁の相手。そのうえ場所も同じ広島での対戦だ。

カウント1−3から投じた外角ギリギリを狙ったツーシームは、無情にもわずかに外れ、フォアボールとなった。

「やっぱり意識せずにはいられませんでしたね。対戦相手に松山さんの名前があった時に、運命じゃないかって勝手に思ってしまって(笑)。悔しいんですけど、最後にこういう勝負ができたことも、これからの人生にプラスになると思っています。もちろん、どこからも誘いがなければ、ここで終わってしまう可能性もあるでしょう。でも僕は続けられるならNPB、それ以外でも野球を続けていきたいし、今のスタイルで"やれる"という自信もあります」

 ベイスターズでの4年間は、振り返れば苦しい時間のほうが多かったのかもしれない。それでも、幾多の濃密な試練と向き合い、もがき続けるなかで新たなスタイルと自信をつかみ直した徳山なら、次のステージでも必ず闘えるはずだ。まだ26歳。次のマウンドでどんな姿を見せてくれるのか、楽しみにしている。

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