阪神ドラフト1位・立石正広インタビュー(中編)

 今秋のドラフト会議で3球団が1位競合したスラッガー・立石正広(創価大→阪神1位)。年間を通して取材し続けたライターが、ドラフト指名直後の立石を直撃。

全3回のインタビュー中編では、球界屈指の人気球団で戦うプレッシャーについて。そして、不振時に迷路にさまよい込んでしまう内面についても語ってもらった。

【プロ野球】阪神1位・立石正広が語る野球観とメンタル 「現状...の画像はこちら >>

【巨人・門脇誠は人間として見習うことばかり】

── 阪神という球団が立石選手に対して並々ならぬ熱量を持って指名したことが伝わってきた一方、阪神は人気球団ゆえ特殊な環境だとも感じます。活躍している間はチヤホヤされても、少しでも成績が落ちると手のひらを返されるような......。立石選手はどんなイメージを持っていますか?

「今まさにおっしゃったとおりだと思います(笑)。最近はとくに、めちゃくちゃ強いですしね。でも、逆に言えば『愛されている球団』だと思うんです。そういうチームで愛される選手になっていきたいですね」

── 大学とは規模の違う注目度になりますが、不安はないですか?

「これから出てくるんでしょうけど、今の時点でそこまで考えても仕方ないので。せっかくここまで『うまくなりたい』という思いでやってきたのに、気持ちの面で引いてしまったら自分が損するだけですから。今はプロの世界で自分がやってきたことを出すだけなので、プレッシャーは感じていないです」

── セ・リーグ1位球団という、生きた教材がゴロゴロいるチームに行ける喜びのほうが大きいですか?

「いや、本当にそうです」

── 創価大の3学年上には門脇誠選手(巨人)がいましたが、人気球団でプレーすることの難しさについて聞くことはなかったですか?

「いっさいないです(笑)。門脇さんとはよくゲームはするんですけどね。あの人、『人狼ゲーム』が大好きなので」

── 人狼ゲームですか(笑)。立石選手は上手に嘘がつけず、心理戦では苦戦しそうなイメージがあるのですが。

「たしかに強くはないんですけど、最近やっている『ワンナイト人狼』は進化しているので面白いです。自分みたいに弱い人こそ、怖さがあるんですよ。たとえば『吊人(てるてる)』ってキャラクターがいて、人狼でも村人でもなく、個人として戦いに参加するんですけど、自分が処刑されればその時点で勝ちになるんです。だから『この人、人狼っぽいけど、わざと殺されにいっていないか?』と思わせる心理戦もあって。弱い人にとっても、楽しめる人狼になっているんです。ほかにもいろんなキャラがあって......。こんな人狼の話をしていて、いいんですか?(笑)」

── 立石選手の素の部分が透けて見えるので、むしろありがたいです(笑)。

「よかったです(笑)。門脇さんなんて、人狼がめちゃくちゃうまいんですよ」

── 戦術的な思考を持った選手というイメージがあります。

「そうですね。あの人には芯があります。人間として見習うことばかりです」

野球だからこそのネガティブさはある】

── これは勝手な見立てですが、立石選手は強い芯を持つ一方で、謙虚さとネガティブさが表裏一体で存在しているイメージがあります。取材する立場としては、「もっと自信を持ってもいいのでは?」と思うことも。

立石選手自身はどう感じますか?

「......たぶんですけど、(筆者に向かって)人狼お強いですよね?」

── えっ、やったことないです。なぜですか?

「見抜かれているので(笑)」

── そうでしたか(笑)。

「自分でもわかっているんですけどね。野球だからこそのネガティブさもあるとは思うんですけど」

── 立石選手のように野球を追求しようとすればするほど、その奥深さに直面して迷ってしまうのではないですか? 新しい扉を開けたと思ったら、その先にたくさんの扉が待っているような......。

「そうなんです。難しいですね」

── なかには、「自分はこの扉しか開けない」と決めている選手もいると思います。

「大学JAPANには、そういう選手が多かったような気がします。感覚派の選手が多かったので。たとえば小島大河(明治大→西武1位)なんてそうでした」

── 天才的なバッティングセンスがありますね。

「逆に言えば、(小島は)扉を探さないけど、絶対にブレない芯を持っている感じです。迷いがないというか、そもそも迷う必要性を感じていないんですよね」

【いい時こそ変化を恐れない】

── 一方で、必ずしも「扉を探すことが悪い」というわけではないとも思います。立石選手がスランプの時は、いい意味で「新しい扉を開けるための進化の過程」ととらえられるかもしれないですね。

「それか、いろんな扉を見すぎてパニックになっているか(笑)。その意味で言えば、昨秋の横浜市長杯や明治神宮大会は頭が晴天でした」

── 大学3年時の横浜市長杯ではスランプを脱出する本塁打を放ち、明治神宮大会は4試合で打率.667、2本塁打6打点の大暴れで全国準優勝に貢献しました。

「でも、いい時こそ、よりよくするための変化を恐れてはいけないと考えています。だから平気で変えられますね」

── 立石選手は前々から「自分はタイミングの取り方が一定ではない」という話をしていました。対戦相手や状況によって足を上げたり、すり足にしたり、ノーステップにしたり。その点は「自分の確固たる形がない」弱みとも取れるし、「変化を恐れない」強みとも取れるかもしれません。

「そうですね」

── 以前から立石選手は「自己評価と世間の自分に対する評価のギャップを感じる」とも語っていました。進化の途中だと実感するからこそ、他者評価にギャップを覚えるのではないですか?

「それはまさにそのとおりだと思います。現状維持は退化だと思っているので。いい結果が出たからといって、それで満足したらいつか絶対に終わると思います」

── プロ入りに向けて、現在バッティングのテーマとして取り組んでいることはありますか?

「今までも『スイングをコンパクトにしたい』という話をしてきましたけど、それは継続しています。とにかく、シンプルにしたくて。自分はスイングが後ろ側(捕手側)に入るクセがあって、素直にボールの軌道に入れる形を目指しています。

そうすれば、プロのストレートに空振りする要素がなくなるかなと思っているので」

── スイング軌道が遠回りしないようにすると。

「自分のバット軌道は真横に振るというよりは、押し込むイメージの軌道なので。バットを入れる角度を間違えると、その分、ストレートの下を振ってしまうことになります。だからバットの入れ方は強く意識しています」

後編につづく>>


立石正広(たていし・まさひろ)/2003年11月1日生まれ。山口県出身。高川学園3年時に夏の甲子園に出場し、初戦の小松大谷戦で本塁打を放つなどチームの勝利に貢献。創価大では4度のベストナインを獲得。3年時から大学日本代表で中軸を任せられ、国際大会でも活躍した。2025年11月に開催されたドラフトで3球団競合の末、阪神が交渉権を獲得し入団。背番号は「9」に決まった

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