T−岡田が解説するドジャース大谷翔平のバッティング

 同じ左の長距離砲として、ドジャース・大谷翔平のバッティングをどう見ているのか──。元オリックスの主砲であるT−岡田氏が、プロ入り直後から現在に至るまでの変化を振り返りながら、その規格外の飛距離とノーステップ打法の本質について語る。

T−岡田が大谷翔平のスイングの異次元性を語る 「子どもは参考...の画像はこちら >>

【同じノーステップでもタイプが違う】

── 岡田さんが同じ左の長距離砲でもある大谷選手のバッティングをどう見ているのか、興味があります。

岡田 僕のなかで大谷選手のバッティングといえば、まず花巻東高から日本ハムに入ってきた頃を思い出しますよね。まだ高校を卒業したばかりだったので、体の線は細かったですが、身体能力の高さやパワーは桁外れでした。これで体ができて技術が加わったら、どれだけの選手になるのだろうと思っていました。

 実際、メジャーへ行く直前の頃のバッティング練習は本当にえげつなかった。あの広い札幌ドームで、ライトやセンターはもちろん、左中間スタンドの中段あたりにまで、ポンポンと打球を放り込んでいました。それを僕らオリックスの選手はアップをしながら見ていたんですが、みんな呆気に取られてアップどころじゃなかったです......ね。とにかく、あの飛距離はエグかったです。

── 岡田さんも全盛期は右にも左にも軽々飛ばしていましたが。

岡田 いやいや。日本にいた早い段階から、僕の一番いい時でも敵わないくらい飛ばしていました。とはいえ、日本ハム時代は今ほど体ができていなかったので、才能だけで飛ばしていた部分が大きかった。それが今は体ができて、技術もついてきた。

今、31歳ですか? 一番いい時じゃないですか。

── 技術面では日本の時代は軽く上げていた右足を、アメリカに行ってからはノーステップに変更。岡田さんも2013年に本塁打王を獲得しましたが、その時はノーステップでした。

岡田 僕とはちょっとタイプの違うノーステップだと思います。僕の場合、ステップはしませんが、投手側と捕手側に体を揺らしながら体重移動を使い、タイミングを取りつつ、インパクトの瞬間に体重をしっかりボールへぶつける感覚で打っていました。一方で大谷選手は、そうした動きはほとんどなく、少し捻りを入れている感じはありますけど、最初から体重を捕手側に乗せて待ち、体の回転でガツンとボールを捕まえにいく印象です。

── それでもノーステップであれだけ飛ばします。

岡田 圧倒的なスイングスピードとパワーがあってこそ、というのは間違いないですね。ノーステップであっても、あれだけ飛ばせるスイングができる体を、長い時間をかけてつくり上げてきたということだと思います。

【ノーステップをやめた理由】

── この先、海を渡っていく選手たちも、ノーステップになっていくのは自然の流れでしょうか。

岡田 できるだけ無駄な動きを抑え、フォームのブレを少なくすることを考えますからね。そのうえで、パワーを落とさずに発揮できるのであれば、ノーステップは有効だと思います。

── 岡田さんはノーステップにして本塁打王を獲りましたが、翌年のシーズン途中で足を上げる形にしました。

岡田 ノーステップで打って結果は出ていたんですけど、続けていくうちに限界を感じたというか......。このままのフォームを今後も続けて、今まで以上のバッティングができるのか、と思ったんです。それよりも大きかったのは、自分の感覚のなかでしっくりこなかった、というのがあったんです。

── 前年に本塁打王を獲ったにもかかわらずですか?

岡田 その時も、自分のなかでは半信半疑なところはありましたが、とにかく必死だったのでやってみたら結果がついてきた。ただ、先のことを考えた時に、「本当にこの形でいいのか?」という疑問が出てきたんです。そこに統一球の問題が重なり、ボールが一気に飛ばなくなったことで感覚が変わった。そうしたことも、ノーステップをやめるひとつのきっかけになりましたね。

 それに、僕の場合は重心を落として構えるノーステップだったので、下半身への負担が大きかったという事情もありました。大谷選手の場合は、その点ではそこまで負担はないのかもしれません。とはいえ、下半身をしっかり使っていないと、あれだけの飛距離は出せません。つまり、それだけの体と技術を持っているからこそできるノーステップだということです。

【子どもは参考にしないほうがいい】

── 大谷選手のスイングについてはどんな感想を持たれていますか。

岡田 なかなか真似できるものではないですし、今は子どもたちに野球を教える機会もありますけど、正直なところ、参考にしないほうがいいんじゃないかと(笑)。

日本のプロ野球選手で言えば、たとえば、こんちゃん(近藤健介)あたりのフォームは理にかなっていて、多くの人にとって参考にしやすいと思います。一方で、大谷選手のスイングは「大谷選手だからこそ」という部分が多い。僕はいつも、大谷選手のスイングを見ると、ゴルフのドライバーショットを思い出すんです。

── 豪快に振り上げるイメージですか。

岡田 大谷選手は背中を使ってパワーをため込み、それをグワーンと振り上げていくような感覚というか......。アメリカでよく言われるパームアップ(うしろの手のひらを上に向けるスイング)の動きも入れながら、ボールを潰すような感じがあります。そこでバットがボールの下にうまく入れば、本当にゴルフのドライバーショットのように、ボールがギューンと飛んでいく。

── とにかく打球が強烈です。

岡田 放物線を描いて滞空時間のある打球というより、勢いが落ちず、ライナー性のままスタンドに飛び込む打球が多いですよね。僕はボールの軌道に対してレベルにバットを入れ、バットにボールが乗っている時間をできるだけ長くつくって飛ばそうと考えていました。それに対して大谷選手は、スイングが下から上へといく軌道のなかでインパクトを迎え、そこでガツンと捉えて飛ばす。だから、ボールに回転を加えている印象はありません。

【振り遅れでも打球が飛ぶわけ】

── 岡田さんがホームラン王を獲った時も逆方向への打球が印象に残っていますが、大谷選手も広角に打っています。

岡田 大谷選手の逆方向の打球というと、完全に振り遅れたと見えるタイミングでも飛んでいく。こういう打球を、ゴルフ用語から転じて野球界でも"シャンク"と表現するんですけど、左打者なら思いきり引っ張ったつもりの打球が左方向(レフト方向)に飛んだ時に使います。じつはシャンクした打球は、ふつうに逆方向に打った打球よりも飛ぶと言われていて、大谷選手も確かによく飛んでいる印象です。

── 振り遅れのような打球が飛ぶというのは、野球界では常識ですか?

岡田 よく言われます。逆方向を狙って打とうとすると、どうしてもスイングが弱くなってしまう。それよりも、引っ張るつもりで振りにいった結果、逆方向へ飛ぶほうが、スイング自体は強い。ポイントは差し込まれていても、腕が伸びきる前の位置でボールを捉えて、そこから押し込んでいくイメージです。もちろん、意識して"シャンク"させているわけではないと思いますが、それでも「やっぱり飛ぶな」と感じながら見ていました。

── 大谷選手はスイングの際に捕手のミットにバットが当たり、打撃妨害となるケースが時々あります。

岡田 捕手の立場からすると、「このタイミングでは打ってこないだろう」というところから振り出してきて、それでも間に合うわけですよね。つまり、それだけボールを長く見られているということですが、決して最短距離でバットを出しているわけでありません。懐を深くとって構え、ダイナミックに体を回転させて「ダンッ!」と振り抜く。

まさにドライバーショットのイメージです。個人的には、今のスイングのまま日本で1年間戦ったら、どんな結果が出るのか、とても興味があります。

── メジャーは、日本に比べて内角の攻めが少ないと聞きます

岡田 それに変化球の傾向も違いますよね。メジャーはチェンジアップが主流ですが、日本はスプリットやフォークといった落ちる系の球が多い。そのあたりの違いによって、どんな結果が出るのかを想像するだけでも面白いですね。

【35インチは考えられない】

── 去年の春先、大谷選手が35インチの長いバットを使用して話題になりました。アウトコース中心の攻めに対し、どう対応していくかという試みだったのかなと。

岡田 僕は34インチでしたけど、35インチは考えられないですね。

── 1インチ(2.54センチ)は、だいたいグリップ1つ分の長さと聞きます。

岡田 それまで大谷選手は34.5インチを使っていたんですよね? そこから0.5インチ長くなったわけですが、バットは少しでも長くなると感覚がガラッと変わるんです。もし僕が35インチを使ったら、まずバットが出てこなくなると思います。自分のなかで「(バットが)出てこない」というイメージができてしまったら、使えないですね。

たとえ重さ自体は変わらないとしても、振り出せない。そうなるとボール1つ、2つ分、差し込まれてしまう。そう考えると、やっぱり使えないですね。

── 落合博満さんが三冠王を獲得された時、35インチのバットを使い話題になったことがありました。

岡田 落合さんが逆方向に打っている映像を見たことがありますが、ヘッドを生かして、下からバットを出し、うまく返していく打ち方ですよね。逆方向に打って、スタンドインしようと思ったら、上から叩くだけでは飛距離は出ないですからね。

── 重くて長いバットを自在に扱えたら打球は飛ぶと思いますが、実際はなかなかできない?

岡田 長いバットを扱う分、芯でボールを捉えるのは難しくなりますし、その分、より高い技術も必要になります。真似できる打ち方ではありませんが、バッティングは100人いれば100通りです。だからこそ難しいんだと思います。大谷選手は、あの体と能力を持ったうえで、練習やトレーニングを積み重ね、今の形を確立したということですよね。

 あとは、日本にいた頃から感じていましたが、あの取り組み方です。才能があるのはもちろんですが、才能があっても努力しきれない選手はたくさんいる。そのなかで、大谷選手はやりきった。日本ハムに入った当初は、栗山(英樹)さんが本当に「野球以外はやらせない」というくらい目を光らせていました。ふつうなら、いろいろ誘惑や興味に引っ張られてしまうものですが、そうした欲を我慢できたというのも、大きな才能だと思います。その芯の強さ。すごいなと思う点はいくつもありますが、そこが一番かもしれません。バッティングフォームと同じで、誰にも真似できないものだと思います。


T−岡田(本名:岡田貴弘)/1988年2月9日、大阪府生まれ。履正社高から2005年の高校生ドラフト1巡目でオリックスから指名を受け入団。プロ5年目の10年、ノーステップ打法でブレイクし、33本塁打を放ち初のタイトルを獲得。翌年は開幕4番を任されるも16本塁打に終わる。21年は17本塁打を放つも、翌年はケガもあり1本塁打。23年はチームが3連覇を果たすなか、0本塁打に終わった。24年シーズン限りで現役を引退。現在はオリックスの球団アンバサダーの傍ら、解説者としても活躍中

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