2月6日(現地時間)のミラノ・コルティナ五輪開会式を前に、まずはカーリング、女子アイスホッケースノーボードが先行して幕を開けている。

 5日、テレビ『Rai Sport』では、女子アイスホッケーのイタリア代表がフランス代表に挑む試合がライブ放送されていた。

言うまでもないが、自国代表の戦いを中心に報道するのが基本で、それぞれの国によりオリンピックの風景は異なる。同胞にメダルをもたらした選手、その競技が多く取り扱われ、すべての競技はカバーできない。カーリング男女混合・イタリア対カナダなどは日本でも放送がなかったはずだ。

 オリンピックはナショナリズムの高揚と無縁ではいられない。その熱気を味方にできた選手だけが栄光を掴める。報道も、ナショナリズムを梃子(てこ)にするものとなる。現地での五輪報道の実情に迫った。

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 イタリア国内でも、街中にあるキオスクは昔と比べて目に見えて少なくなった。理由は単純にスポーツ紙の売り上げ部数が落ちたからだという。今や各自がそれぞれの手段で情報を手にできる時代だ。

 それでも、スポーツ紙の1面が時代を投影することは変わっていない。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』『コッリエレ・デッロ・スポルト』『トゥット・スポルト』は、イタリアのスポーツ紙ビッグ3である。

部数ではガゼッタが一番巨大で、コッリエレが追随し、トゥットはトリノ色が強いとされているが、共通するのはスポーツ紙よりもサッカー紙の趣があることだ。

 ミラノ・コルティナ五輪開幕前日の1面は、すべてがカルチョ(イタリア語でサッカー)のネタだった。メインはコッパ・イタリアでインテルがトリノを下した記事。トゥットだけはトリノに本拠を置くユベントスのお膝元であるため、インテルの試合を報じながらも、一番大きな写真はアレッサンドロ・デル・ピエロで、ユベントスについて話を聞いていた。前日も、トルコ代表ケナン・ユルディズがユベントスと2030年まで契約を延長したことが1面だった。

【縁遠くなったウィンタースポーツ】

 とにかくスポーツ報道はカルチョ一色である。たとえばコッリエレは全39ページで29ページがカルチョ。ミラノ・コルティナ五輪は3ページにすぎなかった(日本では基本的に野球に多く誌面が割かれるが、ここまで極端ではないだろう)。ガゼッタは27ページがカルチョで、6ページが五輪関連なので、ややバランスは取れていた。

「だって、カルチョ以外は売れないから」

 キオスクの年配の女性販売員はあけすけに語ったが、ウィンタースポーツでは売り上げの計算が立たないのだ。

 もっとも、イタリアはウィンタースポーツの強国である。2022年北京五輪のメダル獲得数は、日本とほとんど変わらない(イタリアが17個、日本が18個)。

今回、ショートトラックに出場する35歳アリアナ・フォンタナは同国史上最多11個のメダルを獲得し、さらにその数を増やそうとしている。メディアはアルペンスキーのドミニク・パリス、ジョバンニ・フランツォーニ、フェデリカ・ブリニョネ、ソフィア・ゴッジャの男女4人を「ファンタスティック4」と称して盛り上げる。だが......。

「ウィンタースポーツの選手はマイナーだよね」

 スポーツ紙を手に持ったままタクシーに乗り込むと、運転手が気安く話しかけてきた。

「数十年前まで、イタリア人はもっと普通にウィンタースポーツを楽しんでいたんだ。やるのも、見るのも、身近だった。でも、いまはウィンタースポーツをやる人は特定の人になった。とてもお金のかかるスポーツになってしまい、限られた富裕層のスポーツになって、親近感が湧かないんだ」

 なるほど、それは報道も苦労するだろう。興味がない、とシャッターを下ろしてしまう人を引き込むのは難しい。

 3紙のなかでは一番、オリンピック報道に熱いガゼッタは、開会式当日の号に、公式ガイドと一緒に、同国最多の3つの金メダルを勝ち取った伝説的アルペンスキーヤー、アルベルト・トンバの自伝を付録としてつけることを宣伝していた。日本でも有名なトンバをアイコンにするのはわからないではない。しかし、それはウィンタースポーツが盛んだった時期のスーパースターということか。

「IL FENOMENO」

 ガゼッタのオリンピック企画ページでは、大陸ごとに世界のスーパースターをピックアップしていた。「FENOMENO」は「現象」という意味で、サッカー界では昔、元ブラジル代表のロナウドに対して使われて定着した表現だが、世間を騒がせるほどの「怪物」といったところか。

 アメリカ大陸代表には、異次元のジャンプで旋風を巻き起こすフィギュアスケーター、イリア・マリニンが選出される一方、アジア代表にはスキージャンプの小林陵侑が取り上げられているのは、日本人として誇らしかった。ただ、五輪の黄色の輪のなかで紹介されており(アフリカの選手は黒の輪のなか)、差別に対して厳しい時代に大丈夫だろうかと心配になったが......。

 開会式以降は、イタリア人がメダルを取るたび、大会は盛り上がるだろう。今後、イタリアのスポーツ紙ビッグ3が何回、1面にオリンピック選手を載せるか。それは現地の盛り上がりのバロメータのひとつだ。

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