【両手を突き上げ「やったー」】

 2月17日(現地時間)、ミラノ。ミラノ・コルティナ五輪、フィギュアスケート女子シングルのショートプログラム(SP)の火蓋が切られていた。中立国の選手という名目で出場のロシア人、アデリア・ペトロシャンが2番手の演技で72.89点を叩き出し、かつてのフィギュアスケート大国の底力を見せつける。

第3グループまで全員が滑っても、なかなかこのスコアを超えられなかった。

 そして第4グループのトップに中井亜美(17歳/TOKIOインカラミ)がリンクに登場した。

「正直、びっくりしていますし、この大舞台でこれだけの演技できたのはうれしく思っています」

 中井はそう言って、自身の演技を振り返った。ペトロシャンをしのぎ、78.71点で首位に立ったのである。17歳のセンセーション。

【ミラノ五輪】中井亜美、17歳のセンセーション「最後の瞬間ま...の画像はこちら >>

 中井はフェデリコ・フェリーニ監督の映画『道』のプログラムで、生命力に満ちた滑りを見せている。冒頭、いきなりトリプルアクセルに成功。この大技で、9.71点を稼ぎ、勝負をリードする。

「うひょあー」

 会場では、悲鳴と驚嘆を混ぜ合わせたような声が上がった。これで一気に"空気"ができた。

 中井本人はスイッチが入ったように、明るくまぶしい表情で「人生讃歌」を歌う。『道』の主人公である旅芸人ザンパノと無邪気なジェルソミーナの悲恋を描いているが、幸せだった瞬間の明るく希望に満ちた瞬間を滑っている。

彼女は、まるで映画の世界観から飛び出てきたように、命を輝かせるように、おおらかに軽やかに滑った。

 2本目のジャンプ、3回転ルッツ+3回転トーループと高難度のコンビネーションもきれいに降りる。フライングシットスピンはレベル4で、ひとつに束ねた髪の毛がうれしそうに揺れた。そこから曲調の陽気さが増し、彼女もそのリズムに乗った。3回転ループを完璧に着氷し、レイバックスピン、ステップシークエンスはレベル4で壮大な舞いだった。足替えコンビネーションスピンも模範的で、指先まで神経が通っていた。

 フィニッシュポーズで演技を終えると、中井は両手、片手と交互に突き上げた。ずっと笑顔の演技だった。10代が喜びで全身を弾けさせた。

「やったー」

 リンクのカメラマンに向かって叫ぶ余裕があった。

【大舞台をどれだけ楽しめるか】

「練習から調子がよかったので、本番は『やるだけかな』と自信もありました」

 取材エリアでも笑顔の中井は小刻みにうなずきながら、一つひとつ質問に答えていた。

「まずは、落ち着いてショートを終えられてよかったです。

(初のオリンピックの)怖さはなく、緊張も思ったほどはなく、楽しみだなって気持ちでした。グループの1番目だったし、6分間練習の気持ちの流れから2分半の演技に挑めました。練習から試合のイメージをつくって挑めていたんで、最後の最後まで自分を信じられてよかったです」

 強心臓というのか、胆力で違いを見せた。シニアデビューシーズンでGPファイナル2位に輝き、全日本選手権でも4位になって、五輪の出場権を得た経歴はダテではない。憧れの浅田真央が滑った五輪の舞台で堂々とノーミスの演技をし、代名詞だったトリプルアクセルも同じく成功させたのである。

「夢が叶ったというか......浅田さんが、この舞台で(トリプルアクセルを)着氷できたことに自分は憧れたので、自分のように憧れてくれたらうれしいです」

 中井は言うが、ルーキー特有の無欲さというよりも、勝負師の度量の大きさに映った。

「初めてのオリンピックだから失うものがないので、今回は緊張がなく、いつもどおり自分らしく滑れました。スピンしている最中から、歓声は聞こえていました。今までの人生で最高の瞬間だったなって思います。日本の国旗を振ってくれる日本人の方がたくさんいて。ちょうど家族が来ているので演技が終わったあとにどこにいるのかなって探して、手づくりのバナーを振っているのを見つけて......」

 結局、中井の得点をアリサ・リュウも坂本花織も千葉百音も超えられなかった。SP1位は、17歳にはすでに大手柄だろう。

2月19日のフリーに向けては金メダルの期待もかかる。

「メダルをほしいかと聞かれたら、もちろんほしいです。でも、今回はそういう結果重視で来ているわけではないので、オリンピックをどれだけ楽しめるかっていうのを続けて、最後の瞬間まで楽しみたいです」

 彼女はそう言って小さく笑った。五輪を一番強く感じたのは、リンクに五輪マークがあることを実感した時だという。17歳はまどろっこしく考えない、肌で感じるのだ。

「ここまで来たんだな」

 その感慨が、規格外のルーキーをしかるべきところへ導く。

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