瀬古利彦インタビュー(前編)

【箱根駅伝】早大OB・瀬古利彦が考える王者・青学大との差「工...の画像はこちら >>

 今年の箱根駅伝で往路優勝にあと一歩と迫るなど見せ場をつくり、総合4位で終えた早稲田大。レジェンドOBの瀬古利彦氏が、選手たちの奮闘や王者・青山学院大の強さ、来季に向けた期待と課題を率直に語った。

【箱根を何度も勝っている原監督に感じる余裕】

――第102回箱根駅伝、瀬古さんの母校である早稲田大は総合4位でした。

「シーズン当初、青山学院大の原(晋)監督は『5強』と言っていましたけど、箱根の3カ月前には『優勝争いは青学大と駒澤大、國學院大、中央大の4強』に変わり、早稲田は入っていなかった。それは私自身も、練習を見たりするなかで(同じように)感じていました。まだ優勝するだけの選手層がありませんでしたね。それでも、往路優勝のチャンスはあると思っていたので、そこはなんとかしてほしいと思っていました」

――実際、往路は優勝のチャンスがありました。

「1区は、本当なら間瀬田君(純平・4年)でしたけど、12月に盲腸になって7区にまわったんです。でも、吉倉君(ナヤブ直希・2年)はがんばりました(区間7位)。2区の山口智規君(4年)もエースの走りをしてくれた(区間4位)。3区の山口竣平君(2年)は、大腿骨の疲労骨折から本格復帰したばかりで、ちょっと厳しかった(区間8位)。4区の鈴木君(琉胤・1年)はすごかったですね。いきなりの区間賞ですから。

 ふだん私は練習を見に行っても、選手に『がんばれ』とは絶対に言わないようにしているんです。でも、箱根前は、鈴木君と山口智規君と工藤君(慎作・3年)の3人には『君たち3人が走らないと勝てない。

走れない選手には言わないけど、君たちは走れる選手なので(残りの)7人の選手をラクにしてやってくれ』と言いました。山口智規君と鈴木君は、そういう走りをしてくれました」

――4区終了時点で早大は2位。1位・中大との差は1分12秒、後ろの5位・青学大との差は2分12秒。青学大は5区にエースの黒田朝日選手(4年)をサプライズ起用してきましたが、それでも往路優勝の可能性は早大が一番高いように思えました。5区はどんな展開を予想していましたか?

「中大には追いついて、逆転できる。そして青学大とも2分以上の差があったので、まあ、大丈夫だろうと思っていました。黒田君は速いですけど、工藤君も速いですからね。ただ、不安がないわけではなかった。本番4日前の練習を見に行ったら、全然走れていなかったので......。試合になれば力を発揮できるタイプだから、そこは信じるしかなかったですね」

――青学大・黒田選手の5区起用は、やはり驚きでしたか?

「実は、青学大が夏合宿で行なった上りのタイムレースで、黒田君がダントツに速かったらしいという情報があって、(早大の)花田勝彦監督からも『黒田君が5区に来るかもしれない』と聞いていました。でも、駅伝は流れが大事ですし、青学大で他に2区を走れる選手が見当たらなかったので、私は(黒田君は)2区だと思っていたんですけどね」

――原監督の区間配置、采配が見事だったということでしょうか。

「黒田君を2区に置いても差がそれほど開かないので、優勝するには5区だと思ったのでしょう。

そういう柔軟な発想ができるところに、箱根を何度も勝ってきた原監督の余裕を感じます。『何が何でも箱根で優勝する』というテンションだと、視野が狭くなってしまうんです。でも、原監督は何回も箱根を勝っていて、『今年は負けてもいい』というくらいの気持ちで采配しているのでしょう。だから、選手もリラックスして走れるんだと思います。さすがですよ」

【欲を言えば、3位に入ってほしかった】

【箱根駅伝】早大OB・瀬古利彦が考える王者・青学大との差「工藤君が1位になった時には、おいしいお酒が飲めると思ったんだけど...(笑)」
後輩たちの奮闘に「最高にワクワクした(笑)」と振り返る瀬古利彦氏 photo by Miki Sano

――早大の5区の工藤選手は11km手前で中大に追いつき、トップに立ちました。

「中大に追いつくのが早かったですし、大平台(7.0km地点)で黒田君とはまだ2分近く(1分57秒)差があったので、このまま行けるだろうと思っていました。私が解説するようになってから早稲田がトップを走るのをほとんど見たことがなかったので......もう最高にワクワクしました(笑)」

――ただ、そこから黒田選手が一気に追い上げ、小涌園(11.7km地点)では1分02秒差になりました。

「振り返れば、工藤君は序盤から飛ばしすぎというか、少しおかしかったですね。前を追わないといけない、しかも、後ろには黒田君がいるので、前に行かなければという焦りが大きかったのだと思います。本来なら小涌園から芦之湯(15.8km地点)までが勝負になるのに、その前にだいぶ差を詰められてしまったので、この時点で優勝は危ういなと思いましたね」

――実際、小涌園から芦之湯でもだいぶ詰められ、15秒差にまで縮まりました。

「なんとか粘ってほしかったんですけど、20km手前で抜かれて、ああ、今年の箱根もダメだったか......と。(1位になった時は)おいしいお酒が飲めると思ったのに、一瞬で終わってしまった(笑)」

――復路では、早大はふたつ順位を落とし、総合4位に終わりました。

「やっぱり復路が弱かった。

國學院大は7区に高山(豪起)君がいたし、駒大も8区に山川(拓馬)君、10区に佐藤(圭汰)君を置いていました。中大は9区に吉居(駿恭)君がいたので差が出るなと思っていました。ただ、原監督に『5強ではなく、(早稲田を除く)4強』と言われるなか、4位になれた。よくがんばったと思います。欲を言えば3位になってほしかったですが、まだ力が足りませんでした」

――一方、往路を制した青学大は、復路もそのままトップを譲らずに総合優勝。どういうところに強さを感じますか。

「推薦入学の枠が(早稲田とは)違うというのはあるんですが、それを差し引いても、不思議なくらい、いい選手がわんさか湧いて出てくるんですよ(笑)。しかも、箱根で一番よく走る。他大学にもいい選手はいるんですよ。中大も(10000mの自己ベストが)27分台の選手がたくさんいるから、計算上は勝つ可能性があるんです。でも、箱根になると、どの学校も青学大に負けてしまう。

 ひとつ言えるのは、何度も優勝しているので、勝ち方、箱根までのプロセス、練習を含めて、すべてわかっているということだと思いますね」

――青学大は、この11年間で8度の優勝になります。

「そんなに勝たせちゃダメですよね(笑)。花田監督は『個を強くする』と言っていて、私もそれでよいと思うのですが、でも、その前に箱根を勝たないと、原監督に『箱根で勝てないのに、個人でどうこう言っている場合じゃない』と言われてしまいますね」

【来年こそは花田監督に男になってもらいたい】

――今春、早大には史上最強とも言われる顔ぶれの高校トップランナーたちが入学してきます。来年こそ箱根の総合優勝を狙える陣容になるのではないでしょうか。

「それぞれがちゃんと強く育ってくれるといいんですけど、王様みたいな選手ばかりだとまとまりにくいんですよ。でも、青学大はそういう選手たちをうまくまとめている。それを花田監督もできると強くなっていくと思います」

――その花田監督が現役時代の早大も、個性の強い選手ばかりでしたよね。

「彼らがまとまったのは、当時の監督がよかったからですよ(笑)」

――そういえば、瀬古さんが監督でした(笑)。

「まあ、私が監督だった時代は、選手たちに『(キツい練習を)やれよ』と言い含めるだけで済みましたけど、今はそういう指導の時代じゃない。花田監督も大変ですよ。本当によくがんばっていると思います。だから、勝たせてあげたいんですけど......。"天敵"の青学大は手強いですが、新入生が今年の鈴木君みたいに1年から戦力になってくれれば、早稲田も面白くなりそうです。

山に工藤君もいますからね」

――その工藤選手は来年の箱根について、平地での出走をにおわせる発言もしています。

「あれだけ悔し泣きしたんだから、個人的には山でやり返してほしいです。ただ、鈴木君も5区で走れそうな感じがしますよね。彼が5区を走ったら、今年の黒田君以上にみんな驚くでしょう(笑)。そうやって、あれこれ策をめぐらしつつ、来年こそ花田監督には男になってもらいたいです」

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瀬古利彦(せこ・としひこ)/1956年生まれ、三重県桑名市出身。四日市工業高校から本格的に陸上を始め、インターハイでは800m、1500mで2年連続二冠を達成。早稲田大学へ進み、箱根駅伝では4年連続「花の2区」を走り、3、4年時には区間新記録を更新。トラック、駅伝のみならず、大学時代からマラソンで活躍し、エスビー食品時代を含めて、福岡国際、ボストン、ロンドン、シカゴなど国内外の大会での戦績は15戦10勝。無類の強さを誇った。オリンピックには1984年ロサンゼルス大会(14位)、1988年ソウル大会(9位)と二度出場。引退後は指導者の道に進み、2016年から2024年まで日本陸上競技連盟の強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダー(マラソンリーダー)を務め、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)を設立し、成功に導いた。現在はDeNAスポーツグループのフェロー。

自己ベスト記録は2時間08分27秒(1986年シカゴ)

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