大谷翔平×中村悠平バッテリーが明かすWBC2023決勝秘話(後編)

 WBC決勝の、日本がアメリカを1点リードした最終回。この回をゼロに抑えれば世界一を勝ち取るという土壇場で、マウンドへ上がったピッチャーがキャッチャーを試す──。

【WBC】3年ぶりの再会へ 大谷翔平に試された捕手・中村悠平...の画像はこちら >>

【大谷翔平との再会の第一声は?】

 大谷翔平に"試された"中村悠平はこう言った。

「初球、真っすぐに首を振ってスイーパーを選択したのは翔平じゃないですか。ということは『今日、一番、自信ある球はスイーパーだよ』って、僕はそういうふうに捉えたんです。でも実際、翔平の言葉を伝え聞いて、あー、僕を試してたんだなって(笑)。それはおもしろかったし、うれしかった。『そうか、オレ、試されてたんだ』って......」

 中村が言った"翔平の言葉"とはこれだ。

「いや、今、思えば中村さんに失礼だったと思うんですけど、あの時のスイーパーは、僕の一番いい球だったんです。日本には90マイルで大きく曲がるスイーパーを投げるピッチャーがいないと聞いていたので、単純に、中村さんが捕れるかなというのを確認したくて......(笑)」

 初球、ストレートのサインに首を振って、スライダー(スイーパー)のサインに頷く。その理由を中村は「もっとも自信のある球はストレートではなくスイーパーなんだ」と解釈していたら、大谷は「中村さん、僕のスイーパー捕れるかなと確認したかった」からだと言った。そして大谷はこう続ける。

「そこはさすが中村さん、初球のスイーパーをすばらしいキャッチングで捕ってくれました。あれで大丈夫だと確信できたので、その後は安心してスイーパーを投げることができました」

 プロの、しかも日本代表に選ばれているキャッチャーに対して、「捕れるかな」と言われてしまった中村。だからこそ今回、大谷に再会した瞬間の中村は「スイーパー、捕れますよ!」と言ってやろうと心に決めているのだ。

再び、その"ココロ"を中村に問う。

「だって翔平って案外、気を遣うタイプだから、今回の初めて会うメンバーに対してどんな感じなのかもわからないし、周りからの目線も気になると思うんですよ。このチームがどんな雰囲気なのか、わからないまま合流すると思うんで、そういうタイミングで僕がニッコリ笑って『スイーパー、捕れますよ(笑)』と和やかな感じで語りかければ、翔平もチームに入ってきやすいじゃないですか」

【前回よりも距離感はつかみやすい】

 中村は3年前も今年も、WBCの日本代表においては2大会連続で野手最年長となる。大谷は今のところ、ピッチャーではなくバッターとして参加することになっており、今回はそもそもキャッチャーとして大谷の球を受ける必要はない。

 ただ、試合で投げなくてもメジャーの開幕へ向けて、ピッチャーとしての準備をしないわけにはいかないだろう。となれば、ブルペンで中村が大谷の球を受ける可能性だってあるはずだ。むしろ大谷との接点は、前回よりも今回のほうが多くなるかもしれない。

「うん、だからむしろ距離感はつかみやすいと思います。それこそ『スイーパー、捕れますよ』から始まって、『え、投げないんだ』という冗談みたいなネタまで言えちゃうかなとも思いますし(笑)。前回のWBCで初めて一緒に野球をして、初めてバッテリーを組んで、その流れのまま、今大会も引き続きいけそうな気がしているんです。もちろん翔平が素直に受け止めてくれれば、の話ではありますが(苦笑)。

 そこらへんの距離感は前回を経験しているからこそ、うまくつかめるんじゃないかなと勝手に思っています。翔平がチームの空気を一変させる力を持っていることは前回、一緒に戦った仲間なら誰もが感じたことですし、チームをすごくいい方向へ持っていってくれます。

たとえばベンチにいるときもいろんな選手に声をかけて、チームを和やかな雰囲気にしてくれていましたからね」

【スタメンマスクをつかみ取りたい】

 今回、キャッチャーは1990年生まれの中村、1993年生まれの坂本誠志郎、1995年生まれの若月健矢の3人。井端弘和監督は若月、坂本、中村の3人の起用法について、東京ドームの1次ラウンドでは先発ピッチャーごとに担当制を敷く意向だと報じられている。

 3月6日の台湾戦は山本由伸、3月7日の韓国戦は菊池雄星、3月8日のオーストラリア戦は菅野智之と、3人のメジャーリーガーが先発するのではないかと言われている。

 おそらくは、オリックス時代の山本とともに2021年から3年連続で最優秀バッテリー賞を受賞している若月は、今大会も山本とバッテリーを組むのではないか。阪神を史上最速のリーグ優勝に導いた坂本誠志郎はピッチャーの持ち味を引き出すことに定評があり、菊池雄星と組むことが有力視されている。中村は、巨人時代に何度も対戦した経験のある菅野と組む、いうことだろうか。中村はこう言った。

「菅野さんとは長い間、対戦もしてきましたし、オールスターで捕った経験もありますから、どんなピッチャーなのか、わかっているつもりではいます......ただ、僕のなかではスタメンは与えられるより、つかみ取るというイメージでいるので、そこにはこだわりたいと思っています。

 精神的支柱とか、いてくれるだけでありがたいと言っていただけるのはすごい褒め言葉だと思うんですけど、でも日本代表に来た以上は主戦のキャッチャーとしてスタメンで出たい。このチームには坂本と若月というすばらしい後輩のキャッチャーがいますが、僕はコイツらに勝ちたいと本気で思っています」

 昨年、中村はキャンプ中にケガをして出遅れ、プロ17年目にして出場は74試合にとどまった。ヤクルトでは古賀優大に、日本代表では坂本や若月に、スタメンを譲る気はない。

「そこにはね、やっぱりアスリートの魂があるんですよ。

もちろん根っこの部分では日本代表ってみんなで協力しながら一戦一戦、戦って頂点まで行くべきなんです。それでも僕はスタメンマスクを奪って、つかみ取りたい。前回も甲斐(拓也)がいて、バッティングがいい大城(卓三)がいて、でも『負けないぞ』と思って大会に臨んで、最後、準決勝、決勝とスタメンマスクをかぶらせてもらいました。

 今の僕は順番で言ったら3番目だと思うんです。僕は(井端監督がメンバーを発表したとき、キャッチャーの)3番目にコールされましたから、勝手にそう思っているんです。そうだとするとスタメンはないし、行くとしてもキャッチャーに代打とか代走が出たあとの試合途中からなのかなと思ったり......でも、逆に言えばそこが結果を出せるタイミングですし、もう一回、はい上がって、最後はまたスタメンマスクを取れるよう、アピールしていきたいと思っています」

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