MLBのサムライたち~大谷翔平につながる道
連載26:岩隈久志
届かぬ世界と思われていたメジャーリーグに飛び込み、既成概念を打ち破ってきたサムライたち。果敢なチャレンジの軌跡は今もなお、脈々と受け継がれている。
MLBの歴史に確かな足跡を残した日本人メジャーリーガーを綴る今連載。第26回は、シアトル・マリナーズの先発として輝きを見せた岩隈久志を紹介する。
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【過小評価に映る契約内容と先発として残した高い実績】
メジャーリーガーとしての岩隈久志は、常に過小評価されたという印象ばかりが残っている。6年間で通算136試合に先発して(登板は150試合)63勝39敗、防御率3.42。成績自体は非常に立派だったが、とにかく契約面ではなかなか報われなかった。
2010年オフ、ポスティング制度でオークランド・アスレチックスに落札されたものの、入団交渉が難航し、その年の渡米は叶わず。翌年には年俸150万ドル(約2億2500万円)+出来高という条件でシアトル・マリナーズ入り。日本では通算107勝69敗、防御率3.25というすばらしい実績を積み上げた投手としては、不当に思えるほどに安価だった。
しかし、実際に渡米以降の活躍ぶりには目を見張るものがあった。2012年、まずはリリーフで起用され、シーズン後半にはローテーション入りして安定した投球を披露。するとメジャー2年目の2013年、早くもブレイクの時を迎える。
この年は開幕から先発ローテーション入りすると、前半戦は8勝4敗、防御率3.02でオールスターにも初選出。球宴以降はさらにピッチング内容が向上し、シーズン最後の3戦では23イニング連続無失点、最終的には14勝6敗、防御率2.66という見事な成績でシーズンを終えた。
「マリナーズが時間をかけてクマ(岩隈)を起用したことによって、彼は適切な身体を作り、アジャストメントを進めることができた。彼自身がベテラン投手であることも手伝って、その期間中にメジャーリーグの野球をよく理解できたのだと思う。まずブルペンで起用したことも、結果的に役立った。その過程のなかでメジャーのマウンド、ボール、スケジュールといった日本球界との違いに慣れることができたのだから、メンタル、フィジカルの両面で大きかったのだと思う」
岩隈の活躍の理由についてシアトルの大ベテランラジオ・レポーター、シャノン・ドレイヤー氏がそう説明していたのが思い出される。
2014年も15勝。2015年はケガもあって9勝止まりだったものの、8月12日のボルチモア・オリオールズ戦では野茂英雄に続く日本人史上2人目のノーヒットノーランを達成する。さらに2016年も16勝と岩隈は安定した働きを継続した。ここまでを振り返れば、この右腕が過小評価されていたという言葉の意味が理解してもらえるはずだ。
【成功の要因となったふたつの武器】
これほどの成功を可能にした要因として、「上質なコマンド(制球力)」と「ハイレベルのスプリット」というふたつの武器を持っていたことを挙げておきたい。当時、マリナーズと同地区のヒューストン・アストロズで正捕手を務め、冷静な分析に定評があったジェイソン・カストロは岩隈のよさをこのように述べていた。
「もともと質のいい球を持っているというだけでなく、すべて丁寧にコントロールしてくる。
また、メジャー通算158本塁打のクリス・カーターは岩隈の決め球となった球種、スプリットを絶賛していた。
「速球、スプリット、スライダーをすべて上手にコントロールしてくる丁寧なピッチャー。なかでもスプリットの制球が本当に見事で、ほとんどミスを犯さないことがとても印象的だった」
これらの証言を振り返るまでもなく、30歳を超えた年齢でメジャー入りを果たした岩隈にはメジャーで通用するだけの武器が整っていたのだろう。精神的にも成熟していたため、アジャストメントに必要以上に苦しむことはなかった。
それでも冒頭で述べたとおり、アメリカ球界で成功した選手が掴む大型契約にはどうしても縁がなかった。2015年には3年4500万ドル(約67億5000万円)でロサンゼルス・ドジャースへの移籍が決まりかけたことがあったが、身体検査の結果がゆえに結局は破談になった。フィジカルの不安がついて回ったがために、2012年オフにマリナーズと結び直した2年1400万ドルが最高と金銭的な意味では不運ではあった。
ただ、そんな逆境のなかでも特筆すべき実績を残し続けた点で、このプロフェッショナルな右腕はやはり稀有な存在である。同時期にメジャーのマウンドに立ったダルビッシュと比べても目立たなかったが、サイ・ヤング賞得票を得るだけのシーズンを過ごした日本人投手の少なさを考慮しても、岩隈はもっと評価されても不思議はない投手であるように思えてくるのである。
【Profile】いわくま・ひさし/1981年4月12日生まれ、東京都出身。
●NPB所属歴(14年):大阪近鉄(2000~04)―東北楽天(2005~11)―読売(2019~20)
●MLBプレー歴(6年):シアトル・マリナーズ(2012~17) *ア=アメリカン・リーグ
●MLB通算成績:63勝39敗2セーブ(150試合)/防御率3.42/投球回883.2/奪三振714
●主なMLBタイトル&偉業歴:ノーヒットノーラン1回(2015年)
●日本代表歴:2004年アテネ五輪(3位)、2009年WBC(優勝)










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