気温が氷点下に達しそうな真冬であっても、盛岡大附(岩手)はフリーバッティングを行なう。無論、オフシーズンの定番メニューであるフィジカル強化にも余念がない。
それほど、冬場におけるこのチームの土台づくりは徹底されている。
【ホームランを生むための肉体づくり】
フリーバッティングが行なわれているケージの後方、グラウンドの位置でいうバックネットエリアに、ベンチプレスなどのウエイト器具が設えてある。ボールを打ち込む40~50分の間、順番待ちする選手たちがウエイトトレーニングに励むためだ。
「筋トレの時間をつくることが難しいので効率がいいんです。バッティングをしている間に、ベンチプレスだけでも200回はできますから」
監督の関口清治が定めるメニューには、明確なノルマが存在する。
ベンチプレスの重量であれば「身長--100+30キロ」。180センチなら110キロが最低ラインに設定されているのだという。
関口が解説する。
「そのくらいじゃないと『ホームランはあり得ないよ』『レギュラーにはなれないよ』と、選手にハッパをかけているんです。線が細かったり、筋量が少なかったりする選手にいくら技術的な部分で頑張らせても、ホームランを打つとなると限界があると思います。そういう部分でも、冬の時期はとにかく振る力と筋力を付けさせます。変化球を打つ練習とかの技術的な要素を吸収させるのは、実戦が始まる春からでも遅くはないと思うので」
盛岡大附と言えば、2012年夏の岩手大会準決勝で、当時の高校生最速となる160キロをマークした花巻東の大谷翔平(現・ドジャース)から5点を奪うなど強打のイメージが強い。
このあたりから攻撃的なチームを構築していく盛岡大附は、17年に春夏連続で甲子園ベスト8に進出。
「盛岡大附=強打」
定着していた看板。それが、揺らぎかけた時期があった。「飛ばない」とされる新基準バットが24年から導入されたためである。
【飛ばないバットが突きつけた現実】
バットの最大直径が67ミリから64ミリ、打球が当たる箇所の肉厚が約3ミリから約4ミリとなったことで、打球の初速は3.5%ほど、反発係数も5~9%減少。最大飛距離も5メートルは短くなると試算されていた。
この数ミリ、数メートルは、監督や選手にとっては死活問題となるほど大きな差なのだと、関口は現場の肌感覚を話していた。
「直径が3ミリ小さくなっただけでも、今までならキレのあるピッチャーのボールをファウルチップできていたのが空振りになる。打球も初動が鈍くなるので、内野の間を抜けていたゴロが捕られるようになるでしょうし、打球速度も遅くなるので大きなフライでも外野手に追いつかれるケースも多くなるんじゃないですかね。その分、内野安打やポテンヒットが増えるんだろうな、という印象です」
導入直後に製造された新基準バットのほとんどが、現場からすれば未知の領域だった。
「選手たちが鉄の棒を使ってるんじゃないかっていうくらい、振りづらそうに見えました」
心境を吐露してから、"飛ばないバット"への適応への苦心をこのように語っていた。
「前までは多少、体勢を崩されたとしても、バットの反発力を生かしながら力ずくでスタンドまでもっていけていましたけど、これからはバットの芯に当てる技術や正確性が求められてきますよね」
そう述べたうえで関口は、新基準バットが導入されてから「しばらく、野球が変わるかもしれません」と予言していた。といっても、それは高校野球の現場を知る者ならば、誰でも想像がつくことでもあった。
バントや走塁などの小技を駆使した、守備型の傾向が強まるということだ。
関口の見解を思い出す。
「だから、機動力を多く使ってきたり、ピッチャーの特性を生かしたり。内野と外野のポジショニングを細かく指示するようなチームも増えてくるんじゃないかと」
実際に甲子園だけで言えば、早稲田実や横浜などが外野手のひとりを内野に移動させる「内野5人シフト」を敢行。25年のセンバツで初出場ながらベスト4と、旋風を巻き起こした浦和実のエース・石戸颯汰は、変則フォームでバッターの打ち気を逸らし、力のない打球の量産を実現させた。
【盛岡大附が掲げる強打の矜持】
このように"飛ばないバット"によって野球が変革を遂げるなか、盛岡大附も「右にならえ」だったのかと言えばそうではない。
そう、彼らは強打にこだわるのだ。関口がつくり上げてきた矜持を打ち出していた。
「ウチには『打つ野球』を目指して入ってきてくれた子が多いので、バットが変わるから『機動力を前面に出していくぞ』と、監督の自分が言うわけにはいきませんよね。今は吸収力のある選手が多いんで、数年後には必ず対応してくれるはずなんです。だからこそ、うちは今のスタイルを貫くべきだし、本当の意味で打てるチームをつくることができれば一気に抜けていくような手応えもあります」
新基準バットが導入されてからの2年間、盛岡大附は順応に努めてきた。
例年ならば、秋季大会が終わってからは木製や竹バットに切り替えていた。さらには「バットを振りきる動作を体にしみ込ませる」と、グリップが太く重量1300グラムもある丸太のようなバットを用いてのバッティング練習にも励んできた。それが、本格的に雪が積もる時期に入るまでは新基準バットでボールを打ち込むようになったのだという。
「重いバットとか、今まで使っていたものでも打っているんですけど、とにかく新しいバットに慣れさせることが一番かな、と」
バットに慣れさせ、そして使いこなす。そのために関口は、技術的アプローチもしっかりと施してきた。
高校野球の指導者たちが「木製バットに近くなった」と口を揃えていたが、関口も同意見だった。だからこそ、ボールの中心よりやや下にバットを入れ、ヘッドを走らせるように振り切る。その再現性が求められるのではないかと、関口は分析していたのである。
「ボールの真芯を捉えてしまうと真っすぐ飛んでしまうので、打球が上がらないんですね。しっかりボールにスピンをかけて、バットを抜くように振らないとクリーンヒットやホームランは出にくくなるんじゃないかと」
昨年の夏。甲子園出場こそ逃したものの、決勝までの5試合のうち高田との準々決勝で9安打だった以外は全試合で2ケタ安打を記録したように、盛岡大附の強打は水を得てきている。雌伏の取り組みが間違いではなかったことを、少しずつ証明できているわけだ。
【マッスル軍団、再び】
不変の矜持から2年が経った。
関口は「飛ばせる能力のある子はふつうにホームランが打てるようになりました」と手応えを口にしつつ、副次的な要因にも触れる。
「導入された直後というのは旧バットから切り替わったこともあったので、選手たちからすれば技術面より『飛ばない』っていう先入観というか、精神的にもちょっと重かったのかなと思っています。今の選手は高校に入ってから新基準のバットを使っているので、気持ちの部分での負担はないと思います。
それと、各メーカーさんも頑張って改良してくれているおかげで、今ではだいぶバランスよくバットが振れるようになっていると思います。だから、今年の選抜ではけっこうホームランが出るんじゃないですかね」
春になれば、強打を志した新入生たちが盛岡大附のユニフォームに袖を通し、先輩たちとともにバットを振り、筋肉を隆起させる。
関口が未来を描くように話す。
「シニアとかボーイズの中学硬式の団体は、今でも飛ぶバットを使っているんですけど、それを高校と同じ基準に変えてくれたら、もっと使いこなせるでしょうね。そういう選手が入ってきてくれれば、ウチも流れに乗れると思うんです。そういう意味では、今年はいいきっかけをつくる1年にしたいですね」
マッスル軍団、再び。
新章は、すでに始まっている。










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