神村学園・小田大介監督インタビュー(後編)

 鹿児島で勝つ厳しさを痛感したのが2022年だった。この年の春、九州大会を制していた神村学園は、夏の県大会でも優勝候補の筆頭に挙げられていた。

だが初戦の相手は、その夏ノーシードの鹿児島実だった。小田大介監督(43歳)が振り返る。

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【監督としての未熟さを痛感】

「夏の県大会の怖さは何度も経験してきましたが、監督としての姿勢というか、あの夏は自分自身が変わらなければならないと思わせてくれた夏でした。これまでは初戦を前に、ああだこうだと言ってチームに喝を入れると、生徒たちから『おおー!』と大きな声が返ってきていたんです。でも、あの夏に関しては何も返ってこなくて......。

 生徒たちにとっては、(喝を入れることが)力みにつながってしまったんですよね。彼らの表情を見た時に、指導者として、もう少しいい状態に導いてあげなければいけなかったと感じました。ああいう雰囲気をつくることで、『打たなければいけない』という重圧を背負わせ、ガチガチにさせてしまったのではないかと思うんです」

 試合は息詰まる投手戦となり1対1のまま延長戦に入ったが、11回表に鹿児島実に1点を勝ち越され、そのままゲームセット。本領発揮できないまま、あっけなく夏が終わった。

 その後について聞こうとすると、小田監督は「じつは......」と切り出した。

「試合後、理事長室に行って辞意を申し出たんです。これまで長澤(宏行)先生、山本(常夫)先生から引き継いできたチームですし、これまで甲子園に出場できなかった学年を一度も出したことがなかったんです。それなのに、自分がそういう学年をつくってしまったので、責任を感じて......」

 ところが、小田の申し出を理事長は退けた。

「学校は(小田)先生を信じて監督をまかせている。それなのに、あなたひとりの理由でそのような判断をするのは違うと。あなたを信じて、今の1年生、2年生は『次こそは頑張ろう』としているのに、その子たちを見捨てる気かと。そんなことを考えるくらいなら、なぜ負けたのか、次はどうすれば勝てるのかを考えなさい、とお叱りを受けました」

 その言葉に、小田は我に返った。自分の責任だというのは独りよがりな考えに過ぎず、この敗戦はひとつの分岐点であり、自分自身を変えるためのいいきっかけだと捉えるようになった。

「それ以降は、試合前の言葉や表情を意識するようにしています。あの学年が唯一、3年間で甲子園に出場できなかった学年だと思うと、申し訳ない気持ちはありましたし、自分の監督としての未熟さも痛感しました。でも......あの1回戦負けがなければ、その後の結果(23年、24年の甲子園ベスト4)はなかったと思っています」

【敗戦を乗り越えた先にあった逆転劇】

 勝って学べるに越したことはないが、敗戦から得られるものもある。苦い経験は、小田大介という指導者の思考をさらに深めた。だが、ここから順調にサクセスストーリーを描けたわけではない。結果的に甲子園ベスト4まで勝ち進んだ23年夏も、その始まりは決して順風満帆ではなかった。

「川内高校との初戦。8回まで0対1でリードされていて......。

前年のことが頭をよぎりました(苦笑)。2年連続で県大会初戦敗退なのかと。でも、嫌なイメージにとらわれるより、今こそ昨年の経験を生かすべきだと思いました。あの時の理事長先生たちの言葉もあったので、何とか残りのイニングでいいパフォーマンスを発揮しよう、という気持ちになりました」

 9回表の攻撃で、神村学園は一死一、三塁のチャンスをつくった。「以前なら打てのサインを出していた」と小田監督は振り返るが、代打を送り、初球スクイズで同点に追いついた。

「あのチームは、1点にこだわる采配をキャプテンの今岡(歩夢)とずっと話し合ってきました。監督である以上、言葉や采配で示さなければいけないと思ったんです」

 そこから一気に3点を挙げて逆転勝ちし、甲子園出場へとつながった。

 以降、神村学園は毎年、春か夏のいずれかで甲子園に出場している。現チームも、前評判は決して高くなかったが、昨秋の九州大会でベスト4入りを果たした。

「現チームも、昨夏の甲子園を経験している選手はいますが、能力が高いわけではありません。今年の神村学園は厳しいだろうと見る人のほうが多かったのではないでしょうか」

 それでも九州大会まで勝ち進めるチームをつくれるのは、やはり監督の手腕が大きい。

「最近は生徒の自主性や主体性が問われますが、自主性とは、誰かに言われたことに対して、自分で考え、行動に移すことだと思います。

一方で主体性とは、誰にも言われず、自ら考え、自ら行動できることです。できることなら主体性を持てるようになるのが理想ですが、今の子どもたちを見ていると、自分が楽しいことややりたいことを優先してしまいがちです。それだけでは、自分のなりたい姿にはたどり着けないと感じています。

 たとえば、打力が足りないと思うなら、『バッティングが好きだから打つ』だけでは足りません。何が足りないのかを考え、そのためにトレーニングなど具体的な行動に落とし込んで取り組むことが、自主性や主体性を育てていくのだと思います。スポーツのなかで、選手と監督が同じユニホームを着るのは野球だけですよね。だからこそ、監督は選手の思いを共有しなければならないし、選手は監督の熱量を上回るほどのモチベーションで取り組まなければならない。それがかみ合った時に、強いチームが生まれるのだと思います」

【ガッツポーズを封印するつもりが...】

 そして小田監督といえば、甲子園のベンチで見せる派手なガッツポーズが印象的だ。最近では、そのガッツポーズが動画サイトに投稿されていることを周囲から耳にしたという。普段はほとんどSNSを見ない指揮官だが、そこまで話題になっているのであれば控えたほうがいいのではないかと考え、選手たちにそう伝えたところ、意外な反応が返ってきたという。

「即答で『やめないでください』って言われたんです(苦笑)。監督がああやってガッツポーズをしたり、喜びを分かち合いながら一緒に戦う姿を見せてくれることで、自分たちは勇気づけられるし、プレーもしやすい、と。

だから続けてもらえませんかと言われたので、『そうか、じゃあ頑張るわ』って(笑)。普段から苦楽を共にしてきた選手たちが、あの甲子園という舞台で活躍する姿を見ると、どうしてもうれしくなってしまうんです。もともと涙もろくて、つい泣いてしまうので、もうダメですね」

 令和の時代にあって、どこか昭和の香りを漂わせる稀有な存在でもある小田監督。この春の選抜では、昨春の覇者で今回も優勝候補に挙がる横浜との対戦が決まったが、小田監督は取材時、どこかウキウキとした表情でこう語っていた。

「ウチが日本一を目指すなら、日本一のチームと対戦して何かを学びたい。甲子園という舞台で、これほどすばらしい学校と試合ができるのは、楽しみでしょうがないんです」

 転んでも起き上がる。そして前進の勢いは止まらない。熱血監督が生み出す"チーム神村学園"の一体感が、この春も大きな嵐を巻き起こす。小田監督の横顔を見ていると、そんな予感がしてならない。

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