名将が語る「令和の高校野球」~花咲徳栄・岩井隆監督

 3月19日に開幕した第98回選抜高校野球大会。指名打者制が導入され、7イニング制が検討されるなど、高校野球界は過渡期を迎えている。

そんななか、長きにわたり指導者として実績を残してきた3人の名将に「令和の高校野球」について語ってもらった。続いてご登場いただいたのは、多くのプロ野球選手を輩出し、2017年には埼玉県勢として初の夏の甲子園優勝を果たした花咲徳栄・岩井隆監督。

【高校野球】花咲徳栄・岩井隆監督が求める自立 「スマホから情...の画像はこちら >>

【情報過多だからこそ求められる自立】

 31歳だった2001年から監督を務め、今年で25年。2017年には埼玉県勢として初の夏の甲子園優勝を果たした花咲徳栄(埼玉)・岩井隆監督。これまでに若月健矢(オリックス)、西川愛也(西武)、清水達也(中日)、石塚裕惺(巨人)ら、NPBで活躍する選手を輩出してきた。

 これまで四半世紀にわたる指導のなかで大切にしてきたのは、指導者・選手が共に学ぶ姿勢だ。かつて高校野球に見られた、問答無用ともいえる厳しい指導については、「この年代の子どもたちを早く社会に送り出さなければならない、という焦りがあったのだと思います。勤勉な人材を急いで育てようとしていたのでしょう」と語る。

 そのうえで、「時代とともに、子どもたちを理論的に納得させる指導が求められるようになってきました」と、その変化を分析する。

 そして現在については、「納得するだけでなく、自分で調べる時代になりました。人と違うものや新しいものに興味を持つようになった一方で、情報過多に振り回されている面もあります」と語る。

 ただ、それを否定的に捉えているわけではない。「こちらが知らないことを学んでいる選手もいます」と話し、選手たちから学ぶことも少なくないという。

 たとえば食事の場面を見ても、以前のようにただ白米ばかりを食べるのではなく、栄養バランスを考えた食事をとっている。また、補食について自ら提案する姿も見られる。

 さらに、「ウエイトをやるぞ」と声をかけても、すぐにトレーニングルームに集まらない。なぜかと思っていると、プロテインを準備してから来ていたのだ。

 そうした部員たちの姿は、どこか微笑ましくもある。1学年30人ほどの部員に対し、指導者は3人と決して多くはない。だからこそ、重視されるキーワードは「自立」だ。

「指導者が黙っていても動けるように、自分で考えて行動できる集団にしなければいけない。指示を出した際には、それがしっかりと浸透し、意思統一が図れるチームにならないといけません」

 スマートフォンの使用についても寛容だ。夜の点呼後に渡し、朝食前に回収する。「夜更かししてスマホを見てしまうことはないのですか?」と尋ねると、岩井監督は首を横に振った。

「スマホをいじること自体は、いいと思っています。

情報を得ることは決して悪いことではないですからね。だから、急に打ち方が変わったり、新しい練習を始めたりすることも、全然問題ないと思っています。ただ、それが"今やるべきことなのか""その選手に本当に必要なのか"という問題はあります。だからこそ、指導者は生徒たちの持っている情報量以上に、『納得させられるもの』を持っていなければ、話を聞いてもらえません」

【甲子園ほど美しい場所はない】

 近年は、指導法だけでなく競技そのものの在り方も変わろうとしている。7イニング制については、強豪校の監督を中心に反対意見が根強いが、岩井監督は「いずれ導入されることになると思います」と受け止めている。

「暑さ対策といっても、熱中症がなくなるわけではありませんし、今後さらに気温が上がった時に、その場で議論していては遅い。本音を言えば、私も9イニングでやりたい。ただ、『生徒の健康を守る』とか『野球は9イニングだ』といった単純な話だけでは、判断できない時代になってきています」

 解決策としてはドーム球場の活用なども挙げられるが、「やはり舞台は甲子園なんです」と、その案には否定的だ。以前のインタビューでも「甲子園ほど美しい場所はない」と語っていた。

「あのスタンドの大きさや広さ、前にせり出したベンチ、360度見渡せる開放感、そしてアルプススタンドという応援席。フェンスが低く、観客と一体になっているような感覚もあって......。ほかの球場とはまったく違います」

 変えてはならないというものは、「学校のなかの野球部」という認識もそうだ。

監督の野球部でもなければ、部員たちが特別な存在になってもいけない。甲子園も、野球部だけが行くのではなく、あくまで「学校」として出場するものだという考えだ。

 野球部とは関係のない生徒にとっても、「甲子園に行った」という記憶が、何年経っても大切な思い出として残ること。そして、自分がいる場所に愛着を持てること。そうした愛校心が育まれ、「野球部があれだけ頑張っているのだから、自分も頑張ろう」と思えるような原動力になることが大切だと説く。

 そして、そのすべては「甲子園があるからこそ。甲子園でプレーするからこそなんです」と、岩井監督は力を込める。

 7イニング制の導入によって選手の出場機会が減ることも懸念されるが、その点については、今大会から導入される指名打者制によってカバーできると話す。

「指名打者の選手が塁に出たら代走を送って、また打順が回ってきたら代打を起用することもできます。代打といっても、長打を狙うだけでなく、バントやつなぎ役としての役割もあります。そう考えると、出場機会はそれほど減らないのではないかという思いはありますね」

 変化を柔軟に受け止め、学び続ける日々は今も続いている。今年のチームは、プロ注目の黒川凌大と佐伯真聡のバッテリーを擁し、「本気で負けないチームをつくろうと思いました」と語る、確かな手応えを感じている。

 変わり続ける時代のなかで、新たな歴史を築く準備は着実に進んでいる。

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