「負けた瞬間、『なんでなんだ』『なんでこんな結果になったんだ』という思いが浮かびました」

 涙はなかった。横浜高の池田聖摩(しょうま)は自問自答するように、敗戦を噛み締めていた。

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【神村学園のエースの前に沈黙】

 3月20日、第98回選抜高校野球大会(センバツ)の横浜対神村学園。1回戦屈指の好カードは、龍頭汰樹(りゅうとう・たいき)の快投で神村学園が2対0で勝利した。横浜の1番・遊撃手で出場した池田は、4打数0安打に終わった。

 横浜はドラフト1位候補のエース右腕・織田翔希が脚光を浴びているが、もうひとりドラフト候補がいる。それが池田である。

 50メートル走5秒9、遠投120メートルという抜群の身体能力。投手としても最速152キロを計測する強肩を生かした遊撃守備。織田ほどの知名度はないものの、その存在はスカウト陣も注視している。中学時代には陸上でも活躍し、ジャベリックスロー、走り幅跳び、三段跳びの3種目で熊本県王者に輝いている。

 今春のセンバツは、池田の評価をさらに高めるチャンスだった。現時点で2026年のドラフト戦線は遊撃手の人材が乏しい状況だ。池田が大舞台でインパクトを残せたら、一躍ドラフト戦線の最前線へと躍り出る可能性もあった。

 しかし、池田は龍頭の前に、本来の打撃をさせてもらえなかった。

そもそも甘いコースの失投は1球もこなかった。

「甘いボールが全然なくて、苦しいバッティングになってしまいました。1番打者としての仕事がまったくできなかったことが負けにつながったと思います」

 横浜の村田浩明監督は試合前、龍頭についてこう語っている。

「チームで一番いい投手ですし、準備しています。九州大会を見る限り、四球が少なくて、打者を見ながら丁寧に投げている印象でした」

 しかし、有望選手が揃う横浜打線は6安打に封じられた。龍頭は身長170センチ、体重67キロと平凡な体格のスリークォーター右腕。ストレートの球速は常時130キロ台で、コースを正確に突く制球力とスライダーを武器にする。

【試合で結果を出せなければ意味がない】

 そして、もうひとつ。横浜打線を苦しめたのは、ストレートの軌道から小さく落ちるフォークだった。池田は言う。

「落差は大きいほうじゃないんですけど、ちょっとした変化が効いていると感じました」

 ここまでチームとして抑え込まれる経験はなかったのでは。そう尋ねると、池田は力なくうなずいた。

「(センバツのため)大阪に入ってから、練習試合はほぼコールドのような形で勝ってきましたから。

投手陣が2点以内に抑えて、守備からリズムをつくって、打線が打って勝ってきました。今日は投手陣が2点に抑えたのに、自分たち野手陣が敗因でした。情けないです」

 手応えは十分にあった。冬場には筋力トレーニングに励み、体重は73キロから78キロまで増えている。もともと長打を量産するタイプではないが、池田は自身のスイングに一段と力強さが増していることを実感していた。

「除脂肪体重も増えて、ふつうのスイングでも打球が飛ぶようになりました。センバツ前の練習試合では、逆方向にも長打が出て。強く、速い打球を打てるようになりました」

 ウエイトトレーニングの成果は、走塁面にもポジティブに作用している。池田は「今までより足が速くなっている感覚があります」と語った。

 この冬は投手としての練習を封印し、持ち前の遊撃守備も徹底的に磨いた。とくに主眼を置いたのは、スローイングの精度向上だった。

「しっかりと相手の胸に投げることにこだわって練習してきました。

自分は体の左側が流れてしまうクセがあるので、左手のグラブで目標を指して投げることを意識しています。だいぶ精度が上がってきました」

 だが、神村学園戦では、遊撃への打球は最終回にゴロが1本飛んできただけだった。池田は絶えず「ショートに飛んでこい」と願いながら、打球を待っていたという。

 しかし、どんなに万全の準備をしても、アスリートは結果がすべてだ。池田は「試合で出せなければ意味がないです。悔しいです」と絞り出した。

【高卒でプロに行きたい】

 池田が発した「なんでなんだ」「なんでこんな結果になったんだ」という魂の叫び。それは冬場の努力が報われなかった、やるせない思いがあふれたのだろうか。そう尋ねると、池田は神妙な表情でこう答えた。

「この冬だけではなく、小さい時に野球を始めてからやってきたことに間違いはないし、悔いはありません。熊本では祖父母やいろんな人に応援してもらって、ここまで成長してきたつもりです。でも、なんでこういう結果が生まれてしまうのか、ということを考えてしまいました」

 人生をかけている男の覚悟が滲んでいた。

少し気が早いと思いつつ、池田に現段階での希望進路を聞いてみた。池田は「高卒でプロに行きたいです」と即答した。

「でも、チームの勝利が最優先です。チームが勝つために自分ができることをすれば、自然と結果はついてくると思うので」

 残された大舞台は、夏の甲子園しかない。夏までに、どんな自分になっていたいか。そう尋ねると、池田は少し考えてからこう答えた。

「うまい選手ではなく、強い選手になります。夏にしっかりと勝ち進んで、もう一度、強い横浜高校を見せられるように頑張ります」

 屈辱からはい上がるために。夏に向けた横浜の戦いは始まっている。

 宣言どおりに「強い池田聖摩」が誕生すれば、きっとその頃には2026年ドラフト戦線ナンバーワンショートが誰なのかも、自ずとはっきりしているはずだ。

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