キャンプで見つけた金の卵③~ソフトバンク・大竹風雅

 今や、プロ野球キャンプの現場は「テーマパーク」だ。とりわけ、ソフトバンクの宮崎キャンプは、華やかさとファンの賑わいが飛び抜けている。

 生目の杜運動公園の広い駐車場から多くの出店のテントが並び、それがメイン球場のアイビースタジアムへの動線となっている。第二野球場も、陸上グラウンドも、ブルペンも、間近に選手たちのパフォーマンスを実感できる胸躍る「アトラクション」だ。

 アトラクションもさることながら、地元の美味が立ち並ぶ出店の数々には、目移りがして困ること、困ること。さんざん迷って、この日は冷たい風が吹き抜けるので、「宮崎辛麺」で体内を温めることにする。

 唐辛子とニンニクの効いた甘辛醤油味のスープに、細めの中華麺......。さらに、ラー油をたらしてすすり込むと、むせ返るような強烈な刺激がクセになる。額から吹き出す汗が、冷たい風に心地よい。

 その横では、子ども連れのお母さんが、宮崎名物の肉巻きおにぎりを頬張っている。人の食べているものは、どうしてこんなにおいしそうなのか。まあ、いい。ここはワナにハマってしまおう。だって、年に一度の「テーマパーク」に来たのだから。

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【ブルペンに鳴り響く爆発音】

 ソフトバンクの宮崎キャンプ。

 キャンプも中盤にさしかかると、ブルペンの投球練習も一軍クラスの投手が次々とマウンドに上がり、調整のピッチが上がっていく。
 
 おもに一軍クラスの投手が陣取る「奥のブルペン」には、おなじみの顔が入れ替わり、立ち替わりやって来る。今季14年目のベテラン・東浜巨からスタートして、松本晴、大津亮介、杉山一樹、尾形崇斗とつづき、右のエース・上沢直之がトリを飾る。

 ホームベースの手前からさらに加速するような「伸び」もさることながら、捕手が構えるミットをまったく動かすことなく突き刺さる上沢の制球力の高さは、まさに「円熟」という表現が当てはまる。

 そう感心していると、次の瞬間、ものすごい捕球音に驚いた。「ズバン」とか「ドスン」とか、そんなもんじゃない。「ドガン!」である。捕球音というより、むしろ"爆発音"。それが、ストレートの時に何球も続くじゃないか。

 その音、よくわかる。キャッチャーからすれば、絶対に"痛い音"だ。

 私もブルペンキャッチャーの端くれだ。

これまで受けてきた数々の剛腕を思い返すと、山口俊(柳ヶ浦→横浜1位)、山下舜平大(福岡大大濠→オリックス1位)......。そして、前出の杉山一樹(駿河総合→三菱重工広島→ソフトバンク2位)も、そのひとりだ。

 捕球した時の感触は、まるで「石」。硬球とは明らかに異なり、もっと硬くゴツゴツしたものを間違って受けてしまったかのような、違和感を伴うすごい破壊力。きっとブルペンですごい音を轟かせていた彼も、ミットをはめる手のひらの骨が粉砕されそうなボールのはずだ。

【打者の手元で急降下するフォークは魔球】

 大竹風雅。東北福祉大から2021年ドラフト5位で入団した今季5年目の右腕。現在は育成選手だが、年次で言えば中堅クラスの投手だ。
 
 真っすぐの捕球音の次は、フォークに驚いた。テイクバックでヒジを折りたたんだまま、コンパクトにトップの位置をつくる「ショートアーム」と呼ばれる投球フォームから、ボールを思いきり引っかけそうな腕の振りから繰り出されるフォークは、打者の手元で急に真下へと折れ曲がるかのような、まさに「魔球」だ。

 落差もあるし、捕手はきっと地面に刺さるような落下スピードを感じているはず。その激しい動きは、一軍でも勝負球になる。

 大竹は福島で生まれ育ち、高校時代(光南)は無名の投手だった。

「誰も知らないっていうか......セカンドのレギュラーでしたから、その頃」

 ある球団関係者が教えてくれた。

「エースにけっこういいピッチャーがいたんです。一方で、大竹はセカンドでいいフィールディングをしていて、とくに深い位置からの送球とか、併殺プレーなんかは、バズーカみたいなボールを放っていました。腕のたたみ込みがすごく効いたフォームで投げていて、『ピッチャーにしたら伸びるだろうなぁ......』ってね」

 東北福祉大に進み、本格的に投手として練習を積むようになると、メキメキと頭角を現すようになる。

 当時の東北福祉大には、大竹の同期に椋木蓮(オリックス1位)がいて、プロも下級生の頃から注目していた。

「椋木も逸材に間違いないですけど、投げるボールだけだったら、もっとすごいのがいるんですよ。知らないでしょ?」

 当時、助監督だった村瀬公三さんがそう言って教えてくれたのが、大竹だった。村瀬さんは、こう続けた。

「少し投げるとヒジが痛み、また投げると痛む......そんな繰り返しでした。そこで3年の時にヒジのクリーニング手術を受けて。そのため、リーグ戦での登板は下級生の頃の二度だけ。だから、ほとんど誰にも知られていないんです」

【ほんとは隠し玉にしておきたかった】

 手術の効果が出て、4年春(2021年)のリーグ戦前にはアベレージで140キロ後半をマーク。

素質の片鱗を発揮し始めた。

「ほんとは"隠し玉"にしておきたかったんですけどね......」

 ソフトバンクのスカウトが、当時を振り返る。

「春のオープン戦で150キロ近いボールを投げているのを見ていた球団もありましたからね。こりゃあ、支配下じゃないと獲れないなと思って」

 その春の実戦では、社会人野球の雄・トヨタ自動車や日本製紙石巻を150キロ超の快速球で圧倒。どん詰まりのポップフライの山を築いたという。結局、2021年のドラフトで、ソフトバンクは5位で指名した。

「5位とはいえ、貴重な支配下枠を使うんですからね。でも、あのストレートとフォークを見ちゃったらね。ほかには獲られたくなかったですね」

 だが入団直後の2022年1月の新人合同自主トレで右ヒジの不調を訴え、4月にトミー・ジョン手術を受けた。オフには戦力外となり、育成契約となった。23年に復帰し、宮崎でのフェニックスリーグや台湾でのウインターリーグで登板するなど、実戦を重ねてきた。

 だが、2024年3月に肩甲下筋の肉離れで再び離脱。

それでも7月に復帰すると、二軍戦で初勝利。昨年も二軍戦で10試合に登板し、8月からはくふうハヤテベンチャーズ静岡に派遣され、5試合に投げた。

 アマチュア時代のいい時の大竹を知る球団関係者は、こう期待をこめる。

「まだ短いイニングですが、かなり状態はよくなっていると聞いています。学生時代も含めてヒジや脇腹の故障に悩まされ、思うようにいかない時期が続いたはずですが、深く落ち込むこともなく、やけになることもない。感情の起伏が少なく、いつも淡々とコツコツ野球に取り組める選手です。それだけに、日の目を見る時が来てほしいですね。大竹の状態がいい時は、リリースの瞬間に『ブチュッ!』とボールが弾けるような音が聞こえるんですよ」

 私も宮城県生まれだからわかる気がするのだが、大竹は典型的な「東北人」だろう。選手名鑑を見たら、温和な笑顔の大竹がいる。ただその表情の奥には、穏やかだけど根気強さが滲んでいた。

 まずは、背中の重たい3桁の背番号を再び2桁に戻すところからリスタートしたい。人生、多少時間がかかっても、地道に辛抱強く努力を重ねた者が、最後は一番頼りにされる。

そんな普遍の真理は、プロ野球の世界でも何人もの「遅咲き」の先輩たちが証明してくれている。

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