この記事をまとめると
■フィアット500と並んでルパン三世の愛車としてお馴染みのメルセデス・ベンツSSK■1928年に数十台が生産された生粋のスポーツカーでその開発にはフェルディナンド・ポルシェ氏もかかわっていた
■ルパン三世のキャラ変により、愛車もSSKからフィアット500に変更になった
戦前のメルセデス・ベンツを代表するスポーツカー
ルパン三世の愛車といえば、たいていの人がフィアット500をイメージするかもしれません。とりわけ、金曜ロードショーで「カリオストロの城」をご覧になったあとなら、なおさらのこと。
一方で、テレビ番組のファーストシーズンに馴染みのある人なら、メルセデス・ベンツSSKこそルパン三世の愛車だとこだわりがち。
フィアットはご承知のとおり、EVの新型車がリリースされるほどの人気車ですが、SSKについてはさほどメジャーではなさそうです。金曜ロードショーでの放送で思い出したわけではありませんが、ちょっと振り返ってみましょう。
メルセデス・ベンツSSKは、1928年にごく少数(27台とも40台未満ともいわれています)が生産された生粋のスポーツカー。

ご先祖様は、これまた戦前メルセデスの怪物と呼ばれたKシリーズで、オープンシャシーに6リッターとか7リッターなんて大排気量の直列6気筒エンジンを積んだゴージャスリムジン。メルセデスとダイムラーが合併する前に、パウル・ダイムラーが設計したとされていますが、この後継モデルがSシリーズとなり、派生モデルのSSやSSK、あるいはSSKレンヴァーゲン(レーシングカー)へと発展したのでした。
このとき、ダイムラーの基礎設計をリファインし、よりレーシーなキャラクターへと進化させたのが誰あろう、ポルシェAG設立前のフェルディナンド・ポルシェその人だったのです。とくに、SSK(およびレンヴァーゲン)はフェルディナンドがダイムラー・メルセデス在籍時の最後の作品だそうで、メルセデスにとっても、またポルシェにとっても博物館クラスのお宝モデル。

クルマ大好きデザイナーのジョルジョ・アルマーニが所有しているのは有名ですが、彼のSSKはレア中のレアで、トロッシ伯爵の特注ボディというまぎれもなく世界にただ1台というサンプルです。
お茶目にキャラ変したルパン三世にSSKは似合わなかった
SSKはSシリーズをショートホイールベース化(3430mm→2950mm)して、コーナリング性能を追求するとともに、戦艦なみのシャシーを軽量化(総重量1700kg)することで、よりレーシーな走りを実現しています。搭載されたエンジンは7.1リッターの直列6気筒SOHCで、これにクラッチ付きスーパーチャージャーを装備。過給のセッティングによって200ないし300馬力を発生し、最大トルクは680Nmに及んだとされています。

その結果、最高速は190km/hとこれまた当時としては度肝を抜かれるようなパフォーマンスだったに違いありません。ちなみに、クラッチ付きスーパーチャージャーとはATのキックダウンに似たもので、アクセルペダルを床まで踏み込むことでクラッチがつながって過給が始まる仕組み。これならルパン三世も、たびたび床までペダルを踏み込んだことでしょう。

と、思いきやファーストシーズンの設定によると、エンジンはフェラーリの水平対向12気筒に換装されているとのこと。たしかにルパン三世は第1話でフェラーリ312BらしきF1を颯爽と乗りこなしていますが、まさかこのボクサー12エンジンを使いまわしているとは驚きです。もっとも、SSKオリジンの200~300馬力に対して、フェラーリは500馬力ですから、逃走マシンとしてはこれくらいパワーがあったほうがよかったかと。

このあたりの設定は、ファーストシーズンの初期に演出を担った大隅正秋氏の見識によるものと思われ、筆者が勘ぐると「ははぁ、ジェームズ・ボンドが戦前のベントレーのエンジン換装していたのがヒントか?」てな具合。ちなみに、SSKがフィアットに変更されたのは視聴率の低迷を受けて、大隅氏から代って演出を担った宮崎 駿氏のアイディア。宮崎氏によるとSSKは「ナチの親玉じゃあるまいし」とかなんとかで、ニヒルで殺しも厭わなかったルパン三世が、手品で少女を励ましちゃうキャラにまで変貌を遂げています。
ルパン三世はテレビで放映されるたびに軒並み高視聴率をゲットしていますが、あらためて金曜ロードショーでの視聴率も気になるところ。1999年の金曜ロードショーで「カリオストロの城」が放送された際は23.4%という数字で、劇場版ルパン三世の最高記録をたたき出しています。このうち、SSKを応援しているクルマ好きが何パーセントいるのか、これまた気になるのは筆者だけではないでしょう。