この記事をまとめると
■卸売り価格高騰で新車や物品販売による新車ディーラーの利益は期待できない■点検や整備は大切な稼ぎ頭となる
■それでも「誰でも大歓迎」とならない理由を解説する
新車販売で利益が上がらないから「車検入庫」は大歓迎のハズだが……
世の中ではよく、「ディーラーに車検を出すと高いよねぇ」といった話を聞く。車検とは、当該車両が保安基準に適合しているかどうかを定期的に“検査”することであり、純粋に検査のために必要な費用は、軽自動車や5ナンバー車、3ナンバー車などで異なるものの、2000円あれば足りるものとなっている。ただし、検査を受けるにあたっては、自動車重量税の納付と自賠責保険の加入が必要となる。
つまり、車検とは検査であり保安基準に適合しているかどうかをチェックするだけなので、当該車のコンディションが万全なのかを保証するものではないのである。
そこで“ディーラーの車検は高い”に話を戻すと、ディーラーで一般に行われているのは“ディーラー車検”などとも呼ばれるもので、検査の代行を頼むだけでなく、法定点検整備もセットになっているので、“ディーラー車検は高い”ということになるのである。
そのため、検査とは関係のないエンジンオイルなどの油脂類の交換やワイパーブレードの交換などがメニューに入っていたりもするので、ディーラー車検は高いということになるが、厳密には“車検”と“ディーラー車検”は別物と考えてもらったほうがいいだろう。

なお、ディーラー車検と同じようなメニューを“松竹梅”のように複数用意する車検代行を専業とする業者やガソリンスタンドもあるし、ユーザーが運輸支局へ直接車両を持ち込み車検を受ける“ユーザー車検”を代行する業者など、ディーラー以外でもさまざまな車検についてサービスを提供する業者が存在する。
そもそも新車を販売しても得られる利益は少なかったのだが、ここへきて部材費や燃料など物価の高騰などがあり、単純にメーカー希望小売価格の値上げを行った車両以外でも、メーカーからディーラーへの卸価格はほぼ全車で値上がりを見せているようなので、さらに新車からの利益は期待できない。タイヤなどの物販による利益も物価高騰でそれほど期待できなくなっている。
そのなか、料金内で“作業工賃”が多く含まれるディーラー車検や定期点検整備は新車ディーラーでの稼ぎ頭となっている。それならば来るもの拒まずなのではと考えがちだが、そうはいかないようなのである。

日系メーカー系正規ディーラーの多くは、指定工場(あるいは民間車検場などとも呼ばれる)となっており、検査対象車両を運輸支局に持ち込まず、自社の検査ラインにて検査を行うことができる。ただし、不正車検を行うと指定取り消し処分などが行われるので、なんでもかんでも入庫するということもできないのである。
社員に「純正パーツ」のドレスアップを禁止するディーラも
そのため、違法改造車の持ち込みはもってのほかだが、合法的な改造であっても原則は断ることも多いと聞く。極端な例ではなんらかの社外品がついているだけとか、タイヤのインチアップを行っているだけでも断られるケースもあるようだ。

これは所管する運輸支局が新車ディーラーに対して、違法改造車の整備などに厳しい目を向けていることが大きい。過去には事前通告なしに店舗にやってきて、わずかにフェンダーからタイヤがはみ出しているのを現認して摘発されたこともあると聞いている。そのため、いまではディーラーによっては、社員が乗るクルマについて、純正パーツでのドレスアップすら紛らわしいとして禁止するところもあると聞いたことがある。

少し前には“スピード車検(短時間で作業が終了する)”についての不正発覚がメディアを賑わしたこともあるし、よりあらゆる面でナーバスな対応が続いているようでもある。
たとえばディーラーに車検に出すからと言って、内外装をピカピカにする必要はない。悪意を持ってボディを汚すようなことでもなければ、汚れているからと言って文句は出ないだろう。洗車機や高速ジェットノズルホースなどをたいてい持っているので、気になるのなら作業前に簡単に洗い流したりもするだろう。
話を聞くとエンジンに蜘蛛の巣が張っているという、冗談のような状態のクルマもいまどきは少なくないようである。気にするのは、やはり合法であっても改造の有無といったことになるだろう。

少子高齢化に歯止めがきかないなか、新車販売の低迷というだけでなく、各店舗で販売しアフターサービスを請け負っている既納ユーザーのなかで、高齢となり運転免許の自主返納を行うなどして、終車(クルマの所有自体をやめる)してしまう人が目立ってくるようになり、定期点検や車検の入庫台数減少という問題も深刻化してきている。そのため、そもそもは点検入庫の勧誘では表立って積極的ではなかった、フリー(いままで関係のなかった)でしかも他銘柄(他メーカー)車を積極的に入庫してもらうべく、店頭にのぼり旗(他メーカー車も大歓迎などと)を掲げるディーラーも出てきている。
“車検入庫大歓迎”なのだが、それでも手放しで受け入れるということでもないのが、いまのディーラー車検の現状なのである。