この記事をまとめると
■クルマの選び方が数十年前とガラリと変わってきている■前は「クルマ選び=男性(旦那)」だったが、最近は「女性(奥さん)」という図が多い
■意外にも男性より女性のほうが車種の変更を嫌がるケースが多いとのことだ
クルマの選び方が数十年前からガラリと変わっている
“10年ひと昔”と考えると、ふた昔前の新車販売現場では家族で来店したお客と商談するときは、「お母さんや子どもへ売り込め」とされていた。
ふた昔前とはいえ、すでにお父さんの家庭における存在感は寂しいかぎりであった。そんなお父さんの数少ない心のよりどころがマイカー。
世代が古いほど男性の多くはクルマ好きであり、複数の購入希望車種があったとしてもすでに新車に乗りたいオーラがビシバシ出ているので、セールススタッフはあえてお父さんへのアピールを強める必要はないとされていた。むしろ財布の紐を握っているお母さんをメインに、商談ではアピールするようにとされていた。
一般的な女性はクルマへの強い思い入れやこだわりがないケースがほとんど。そして、単純に購入候補車のなかで支払総額の安いクルマに決める傾向も目立つので、支払い条件の交渉ではお母さんとのシビアなやりとりだけになりがちなので、そのなかで強く製品の優秀性や乗ることのメリット(再販価値など)をアピールする必要があった。
あるメーカーで新規投入されたスライドドアを採用した背の高いミニバンがデビューし、それを気に入ったお父さんとその家族が来店したそうだ。しかし、その店舗敷地内には、すでにデビューしてしばらく経った、スライドドアを採用した新型車よりは背の低いミニバンが特価車として展示してあると、お母さんが「これでいいじゃない」ということになり、お父さんの夢は瞬間で崩れ去ったという話を聞いたことがある。ディーラーとしては、車種が変わったものの自社で購入してもらったので構わないのだが、女性の多くはこの話のようにシビアな目で新車購入を検討しているのである。

乳幼児を連れた家族がきたときには、「女の子ですか? 可愛いですね」と声をかけるようにと、その昔は言われていたそうだ。ジェンダー問題が顕在化している現代では「かわいいお子さんですね」となるだろうが、当時は先輩セールススタッフの経験に基づいてのようだが、たとえ男の子でも女の子と言われるとうれしく思う両親が多いというのが理由とされていたようで、子どもへのアピールも大切とされていた。
どんなに両親が満足していても、子どもが「このクルマじゃ嫌だ(理由がよくわからないケースもあるが)」となると商談がご破算になることも多かったようだ。子どもの心をつかむのは難しいことだが、とりあえず子どもの動きもよく観察しながら商談し、どこまで受注可能なのかを見極めろということなのかもしれない。

これがひと昔(10年ほど)前ぐらいになると状況が変わってきたとのこと。
現役のセールススタッフは、当時を振り返った。「それまではお父さん=クルマ好きはほぼマストだったのですが、商談中もつまらなそうにするなどクルマへの興味を示さないお父さんが目立ってきました。代わってお母さんが車種選びから積極的な姿勢を見せるようになりましたね。ミニバンに限らず家族のクルマとして複数所有ではなく単独所有する場合、日常的にパート先への通勤や買い物、子どもの習い事への送迎などでお母さんが活発にクルマを運転する、つまり主たる運転者がお母さんになったことも大きいようです。電車などお父さんが公共交通機関を利用して通勤していれば、お父さんはせいぜい週末のみクルマに触れることにもなりますから、お母さんの意見がというより、完全にお母さん主導で商談が進むようになるケースが多くなりました」とのこと。

クルマを選ぶのは旦那ではなく奥さん
そして、令和のいまでは、男女共同参画社会の実現として、お父さんもお母さんもフルタイムワーカーというケース(とくにともにクルマ通勤ではない都市部)が多くなってくるなか、「カーシェアリングを使えば、クルマはいらないか」ということも目立ち、「マイカーパッシング(マイカーいらない)」も目立ってきているように感じている。
もちろん、都市部と、クルマが日常生活での移動手段のメインとなっている地方部では温度差があるともされているが、その感覚の差も以前ほどは縮まっているようにも見える。

固定観念として、「女性はサイズが小さく、可愛いスタイルが大好き」というのも、「昭和のころの話でしょ」と言われかねない時代になっているかもしれない。
アルファードクラスのフルサイズミニバンを持ち、子どもが3人いる家族で、子どもたちが中学生や高校生になり、小学生のころほど家族旅行なども出かけなくなったころに新車への乗り換え時期がきたとのこと。「家族全員で出かける機会も少なくなったのでミニバンでもダウンサイズしよう」との話も出たようだが、お母さんが「ダウンサイズは嫌だ」ということになり、フルサイズミニバンへの乗り換えとなったとの話を聞いたことがある。

男性に比べ女性のほうが車種変更を嫌う傾向が目立つという話も聞いたことがある。
少なくとも日本よりジェンダーフリーが進んでいるアメリカでは、かつて「セクレタリー(秘書)カー」ともいわれる、自立した女性が乗るモデルとして、セリカなどサイズが小さめなクーペがよく売れた。それがいまではクロスオーバーSUVへと移り変わっている。日本でもそこそこヒットしたが、初代日産ジュークは世界的にも自立した女性ユーザーをメインとしたモデルであったので、海外では日本と比較して爆発的に売れたのである。

日本ではまだまだ「女性=可愛いクルマ(サイズも含めて)」という固定観念が強いが、諸外国では男性顔負けのエッジの利いたモデルを好んで乗る女性も多いと聞いている。中国で若い女性に「何を運転したいか」と聞いたら、「BMWのSUVに乗りたい」と答えてくれた。腰高なポジションで視界も高く、そして運転していてナメられないというのが理由と語ってくれた。

日本でも男女共同参画社会の実現がさらに進んでいけば、ハイパフォーマンスモデルや押しの強いフルサイズSUVを運転する女性を今以上に当たり前のように街なかで見かけることになるかもしれない。
若い世代ほど男女問わず運転免許を取得している人の減少傾向が目立っている。クルマを持つことが“コスパに合わない”という理由もあるようだが、少なくとも“男子=クルマ好き”というのは昭和のころの昔話といっていいほど、都市部を中心に当てはまらなくなりつつあるのは間違いないようだ。