この記事をまとめると
■ポルシェ911の中古車価格が軒並み高騰している■2004年頃以降、空冷911は現行型がモデルチェンジするたびに注目が集まった
■「スーパーカー並みに高い」状況なのは911の中古車価格が欧米並みになったに過ぎない
強気な値付けが続くクラシック911
我が家の近くに昔から肉まんを売っている路面店があります。寒くなってくると、思い出したように買ってくるのですが、一個500円弱となかなかのもの。大人の膝頭くらいの大きさで、中身もまあまあ美味しいのですが、思い返すと昔は500円どころか300円でお釣りがきたような気がします。
空冷の911を中古車検索してみると、1000万円を下まわるタマはほぼ見かけません。コンディションやボディカラーに注文をつけたりすれば乗り出し2000万円におよぶのが現状です。これを編集部では「スーパーカー並みに高い」と表現していますが、たしかに空冷911の値付けは強気なもの。
例えば、1990年当時に10年落ちくらいの911SCは、注文をつけなければ200万円そこそこ。筆者は友人と企んで「現金払いで2台あわせて300万円でどう?」とクルマ屋に打診したこともありますが、まんざらでもなさそうでした。ちょうど964へとモデルチェンジしたことで、930、とくにNAモデルの中古車はだいぶ値落ちしていたのです。この時点で「930? もうクラシックカーじゃん」という市場のマインドが形成されていたのでしょう。
ところが、964から993にモデルチェンジした際は、スタイリングの劇変に911オーナーの嫌気がさしたのでしょう。930から964のときとは違い、中古964の値段はさほど下がらなかった、いやむしろターボなどは新車価格と同じくらい強気の値付けをしていたかと。
で、993が末期を迎えた1997~98年ごろに至っては、993よりも高い中古964がぞろぞろいました。

ターボ(ルック含む)カブリオレはそれこそ1000万円台後半、修復歴のないRS(見つけるのは大変でした)で800万円から、てな感じ。

ともかく、市場は「993は新しい分いいけど、964のスタイルも捨てがたい」くらいのマインドで、急騰するような兆しはなかったように思います。
しかし、水冷の996がデビューしたことでにわかに市場はザワつきました。「この先、空冷911に乗れなくなる?」「911に乗るならいまだ!」と波紋が広がったこと、記憶に新しいところではないでしょうか。やはり、ここらへんが大きなターニングポイントで、930や964はもちろん、968や944といった4気筒モデル、あるいは末期に悲惨なほどの不人気車となった928すらも値上がりしはじめたのです。

もっとも、グズグズの930が300万円から400万円に、928の新古バリもので400万円が500万円くらいの値動きで、現在のような目玉が飛び出るような雰囲気ではなかった気がします。
これまでの日本のポルシェ911は安すぎた
なぜかといえば、ポルシェお決まりの「最新のポルシェが最高のポルシェ」なるマーケ戦略が功を奏していたからにほかなりません。水冷911の評判がフワフワしているうちに、ヴァイザッハはGT3というRSに代わる硬派モデルをリリースするなどして、空冷のユーザーを上手に誘導したりね。

ですが、996から997へとバトンタッチした頃、つまり2004~2005年になると、空冷911の値上がりスピードが増してきました。これには964から993へのドラスティックなモデルチェンジに似て「911の肥大化」や新車価格の高騰、あるいはポルシェユーザーが多様化したことといった理由が挙げられそうです。
最後の多様化というのは、カイエンやケイマンといった911以外を買い求めるユーザーが増えたこと、それによって旧来の911ユーザーがポルシェというブランドに対する距離を置き始めたということ。極端なことをいえば「女子どもはともかく、男は黙って空冷911」みたいなニュアンスでしょうか。

当然、2005年以降は空冷どころか996の役付き(GT3やクラブスポーツ)まで中古車の人気が急上昇してくるのですが、ここで注目したいのが964カレラ2とてデビューから15年を経ているわけで、すでに立派なクラシックスポーツとなっていること。先代の930に至っては何をかいわんやで、店頭に並べて売り物にしようとすれば相当なメンテナンスコスト、部品代がかかるわけです。

つまり、911の中古車価格はタマが古くなればなるほど高くなるのは当たり前なのです。
それでも、ロータスやアルファロメオ、TVRなんて同年代のスポーツカーに比べて値上がり率が高いというのは、911の強力なブランド力といわざるを得ません。むしろ、かつての日本はちょい古911が安かったことで世界中のバイヤーが狙っていたほど。
たとえば、国内にあったグループ4のホモロゲモデル、934が30年ほど前に800万円でスイスに売られ、そのバイヤーは3000万円で転売したとか、964RSのワンメイクレース用トリムが装着された並行車も20年ほど前に700万円で買い取られ、ヨーロッパのオークションで1600万円の落札価格となるなど、転売ヤーにとって日本はいいカモだったといえるでしょう。「スーパーカー並みに高い」という状況になったのは、日本の市場価格が欧米並みになったに過ぎないわけです。

古くなっても空冷911は、市場のマインドや点検整備、あるいは911というイニシャルでもって今後も値上がりを続けていくに違いありません。美味しい肉まんが年を追うごとに値上がりしていくのと同様、欲しいという顧客がいる限り売り手が値上げしていくのはもっともな理屈といえるのではないでしょうか。