この記事をまとめると
■タイヤの路面接地状態を最適化する際に「アライメント調整」という作業をすることがある■作業時に調整されるのが「トー」「キャンバー」「キャスター」だ
■「キャンバー」が持つ機能やつける意味、専門用語を解説する
キャンバー角にはそもそも何の意味があるのか
より優れたタイヤの路面接地状態を保つため、サスペンションに関して「アライメント」という言葉がある。正確には、ホイール(意味としてはタイヤと考えてもよい)アライメントと言い、トー、キャンバー、キャスターのことを指している。
このうちキャンバーは、車両を前後方向から見たときのタイヤの傾き角度を指すもので、下方が広がる状態をネガティブ(マイナス)キャンバー、上方が広がる状態をポジティブ(プラス)キャンバーと呼んでいる。
タイヤと路面の接地状態は、タイヤトレッドの全面と路面がピタリと接地している状態が理想的なのだが、クルマは直進運動だけではなく旋回運動もあり、旋回中にはサスペンションが伸縮し、さらに旋回Gも加わるたため、タイヤと路面の接地を常に最適な状態で保っておくことは事実上不可能である。
現在、量産車のキャンバー(角)は、一般的にネガティブキャンバーで設定され、厳密な意味では、直進時はわずかにトレッド面の外側が浮く状態となっている。もっとも、タイヤは圧力によって変形するゴムの筐体であるため、実際にはトレッド面全体で接地し、トレッド面の接地圧力がイン側とアウト側で異なる状態、と言うべきかもしれない。

では、キャンバー角をネガティブ方向で設定する意味だが、旋回時に車両外側のサスペンションが縮んだ状態で(サスペンションストロークによる角変化を想定したうえで)、タイヤトレッド面がフラットに路面と接地できるよう、直進時はあらかじめタイヤトレッド面の外側が浮く設定(ネガティブキャンバー)としたものである。
キャンバー角の設定は、量産車の場合は可変にする必要もなく、メーカー所定値で固定値とされているが、レーシングカーの場合はコース状況(コーナーレイアウト)によって、もっとも速く走れる(速いタイムを記録できる)状態で任意にセットする。ただ、数値(角度)的には「分」単位の設定で、「度」単位で大きく変化させることはない。

旧車のポジティブキャンバーは当時の事情からなるものだった
街なかでたまに見かける、車高を極端に下げ大きくネガティブキャンバーをつけた「鬼キャン」の状態は、運動性能面での設定ではなく、視覚的な威圧効果を得るため、大きく車高を下げるときにタイヤとフェンダー内の干渉を避けるため、がその目的と言ってよい。

一方、これとは逆に、ヒストリックカーで見られるポジティブキャンバーの設定がある。正面からクルマを見た場合、4輪が上方に開くかたちで取り付けられる方式だが、ポジティブキャンバーで設定することの意味は何だろうか、これを考えてみよう。

まず、直進安定性の確保が挙げられる。これは、アライメントの設定で考えるとわかりやすいが、当時、ほぼすべてのタイヤは直進安定性のあまりよくないバイアス構造(対ラジアル比較)だった。そしてトレッド面はフラットな形状でなく、わずかに丸みを帯びて湾曲する形状のタイヤだ。
また、パワーステアリングが普及していない時代で、操舵力を軽減する目的でポジティブキャンバーの設定がなされていたことも考えられる。もちろん、ポジティブキャンバーだけの設定ではなく、ステアリング機構のスクラブ半径値(キングピンオフセット量、スピンドルオフセット量)との関わり合いもあり、これらを最適値で組み合わせたステアリングまわり、サスペンションまわりの設計が行われていた、と見てよいだろう。

タイヤをどういった状態で接地させるかというホイールアライメントは、わずかな設定値の違いが、意外に大きくハンドリング性能に大きく影響するため、メーカー指定値に合わせた調整は必要不可欠だ。足もとの管理、メンテナンスは重々怠りなく、ということだ。