この記事をまとめると
■レシプロエンジンの基本スペックが「ボア×ストローク比」■ビッグボアにすると吸排気バルブを大きくできるのがメリット
■きれいな燃焼や熱損失の少なさがロングストロークの魅力
ストロークが異なると同じ回転数でもピストンの速度が異なる!
エンジンブロックに掘られたシリンダー内を、クランクシャフトにつなげられたピストンが往復することで力を生み出しているのがレシプロエンジンの基本設計となっている。その、シリンダー内径サイズをボアといい、ピストンの往復距離をストロークという。カタログなどでは、それぞれmm(ミリメートル)で表記されていることがほとんどだ。
ボアとストロークの数値を単独で見ても、エンジンの性格を判断することは難しいのだが、ボアとストロークの比率を見れば、それがどんな狙いで作られたエンジンなのか想像できるクルマ好きは多いことだろう。
ボアよりもストロークの数字が小さいショートストロークは高回転型でスポーツエンジン、逆にボアのほうが小さいロングストロークだと燃費重視のエコエンジンといった風に判断しているのではないだろうか。その中間といえるのがボアとストロークの値が同じタイプで、こうしたボア・ストローク比を持つエンジンはスクエアタイプなどと呼ばれ、バランス型のエンジンというイメージになる。
なぜショートストロークは高回転型と呼ばれるのか、そしてロングストロークは実用タイプのイメージが強いのか。あらためて、メカニズムの面から整理してみようと思う。
まずはショートストロークの特徴から。ストロークよりボアが大きい最大のメリットは燃焼室のサイズが大きくなることで、吸排気バルブを大きくできることにある。1サイクルで吸い込める空気(混合気)の量はバルブのサイズに影響される。吸気量は最大パワーに大きく影響する要素なので、同じ排気量でパワーを求めるスポーツエンジンへ仕上げるには可能な限りビッグボアにすることはメリットがある。
また、ショートストロークであるということはピストンの往復距離が短く、同じ回転数であれば往復スピードが低くなるということだ。
パワーというのは簡単にいうとトルク×エンジン回転数によって決まってくるが、エンジン回転数を高めていくと当然ながらピストンスピードも速くなる。難しい話は置いておくが、量産エンジンのコストや耐久性などを考えるとピストンスピードの上限は25m/secといわれている。
吸気量が多く、回転数も稼ぎやすいのであればショートストローク型エンジンに欠点はないように思えるが、そんなことはない。
万能にみえるショートストロークエンジンのデメリットとは?
多くのガソリンエンジンでは、1本のスパークプラグで混合気を着火するがビッグボアになると炎が端まで届きづらく、しっかり燃え広がらないというネガが出てくる。端のほうまで燃焼するのを待つことになると結果的にエンジン回転数を上げることができなくなる。極端なビッグボアエンジンでパワーを稼ぐことは、かえって難しくなるのだ。
ロングストロークの特徴は、まさにショートストロークの逆だ。ボアが小さくなるため「きれいな燃焼」をさせやすい。バルブが小さめで、同じエンジン回転数ではピストンスピードも速くなってしまうが、そもそも高回転まで使わない燃費重視のエンジンを想定しているのであれば、そこはデメリットにならない。
そのため、経済性や環境性能へのニーズが高まっている昨今では、新型エンジンはロングストローク化させることがトレンドとなっている。
身近なところでいえば、軽自動車のエンジンは軒並みそうした方向で進化しているといえる。
たとえばホンダN-BOXのエンジンを振り返ると、初代モデルに搭載された「S07A」型はボア64.0mm×ストローク68.2mmだったが、現行モデルに積まれる「S07B」型はボア60.0mm×ストローク77.6mmと超ロングストローク型だ。
スズキも同様で、ひと世代前に開発された「R06A」型はほぼS07Aと同じボア64.0mm×ストローク68.2mmだったのに対し、最新世代の「R06D」型はボア61.5mm×ストローク73.8mmになっていたりするのだ。

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