この記事をまとめると
■日産エルグランドはすでに約14年間フルモデルチェンジせずに販売が続けられている■エルグランドは高額車なため少台数であっても販売されると売り上げがプラスになる
■いまエルグランドを終売にすると顧客を繋ぎ止めておくことができなくなる
14年間フルモデルチェンジされていないエルグランド
各メーカーのホームページに掲載される「カーラインアップ」を見ると「あのクルマ、まだ売っていたの?」と意外に思うことがある。そのひとつが日産エルグランドだ。Lサイズミニバンだが、現行型の発売は2010年に遡り、約14年間にわたってフルモデルチェンジされていない。
そのために売れ行きも下がり、2024年1~4月の1カ月平均登録台数は約130台だ。同じ日産が扱うミドルサイズミニバンのセレナ、あるいはライバル車のトヨタ・アルファードに比べると約2%に留まる。
発売から長期間が経過しても、ほかの車種とは違う強いセールスポイントがあったり、綿密な改良を受けていれば堅調な販売を保つことも可能だ。たとえば三菱デリカD:5は、2007年の発売だからエルグランドよりも古く17年を経過する。それでも2024年1~4月の1カ月平均登録台数は約1600台だ。三菱の販売店舗数は全国に約550か所で、日産の3分の1以下と少ないことも考えると、デリカD:5は設計が古い割に堅調に売れている。
その理由は、デリカD:5には、ほかのミニバンでは得られない強い魅力があるからだ。SUV並みの悪路走破力、SUVに匹敵する存在感の強いボディスタイル、ミニバンでは少数派になるクリーンディーゼルターボエンジン、全長が4800mm以下のミニバンではもっとも広い3列目シートなどがそれに該当する。

しかもデリカD:5は、2019年にフロントマスクなどの外観、ディーゼルエンジンの動力性能、走行安定性、乗り心地、安全装備、運転支援機能などを刷新するフルモデルチェンジ並みの改良を実施した。これらの相乗効果により、デリカD:5はいまでも堅調な売れ行きを保っている。
ユーザーを逃さないためにもエルグランドを廃止できない
その点で、エルグランドにはデリカD:5ほどユーザーから注目される強い個性がない。加えて目立った改良も受けていない。

そして、商用車や悪路向けのSUVを除くと、デリカD:5のような大幅な改良を実施しない限り、ひとつのモデルを作り続けられる限界は約10年だ。
たとえば現行エルグランドを発売した2010年に購入したユーザーが、5年後の2015年に改良型に乗り替えたとする。しかし2020年以降に、さらにもう一度同じエルグランドに乗ってもらうのは難しい。

このような事情もあり、2010年に登場した最終型ヴィッツは、2020年に現行ヤリスへフルモデルチェンジされた。2011年に登場した初代アクアも、2021年に現行型の2代目アクアに切り替わった。
それならなぜエルグランドは発売から10年以上を経過しても販売を続けているのか。その理由は、まずエルグランドの価格帯が400万~600万円に達しており、いまの日産では貴重な高価格車になっているからだ。エルグランドが1カ月平均で約130台でも販売されると、メーカーや販売会社にとってはプラスになる。

販売会社では「エルグランドは新型にフルモデルチェンジして欲しいが、廃止されるのは一番困る」という。
また、エルグランドのユーザーがたとえばセカンドカーとして日産ノートを併用している場合、エルグランドがアルファードに乗り替えられると、トヨタのセールススタッフが熱心なら、ノートまでヤリスに切り替わる心配がある。ユーザーを逃さないためにも、エルグランドは廃止できない。

そして直近のジャパンモビリティショーには、日産がLサイズミニバンを思わせるハイパーツアラーを出展した。近年では海外でもLサイズミニバンが販売されるようになり、日産がエルグランドの後継車種を企画しているとも受け取られる。そうなるとユーザーを繋ぎ止める意味でも、ますますエルグランドは廃止できないわけだ。