この記事をまとめると
■フルモデルチェンジする際に「キープコンセプト」と呼ばれる手法をとることがある■新旧モデルのエクステリアの雰囲気の変わり具合で「キープコンセプト」かどうか決まる
■「キープコンセプト」のほかに「コンセプトチェンジ」というテコ入れの方法も存在する
キープコンセプトってそもそもなに?
「今回のフルモデルチェンジはキープコンセプト」などと表現することがある。「キープコンセプト」に明確な定義はないが、車両開発の基本的な考え方やデザインが従来型を踏襲しているという意味だ。車両開発の考え方を新型になって大きく変える時は「コンセプトチェンジ」などと表現される。
キープコンセプトとコンセプトチェンジの違いは、外観を見ればわかりやすい。外観のデザインは、車両のコンセプトを表現しているからだ。フルモデルチェンジを行った場合、新旧モデルの外観を比較して、似通っていればキープコンセプト、大幅に違っていればコンセプトチェンジになる。
最近のフルモデルチェンジでいえば、ホンダ N-BOX、トヨタ・アルファード&ヴェルファイア、スバル・インプレッサなどは、いずれもキープコンセプトだ。新旧モデルを見比べると、ボディサイズや内外装のデザイン、車両の性格やターゲットユーザーなどを先代型から踏襲している。
とくにキープコンセプトが多いのは欧州車だ。近年のアウディA4、メルセデスベンツEクラスなどのフルモデルチェンジを見ると、新旧の違いがわかりにくいほど似通っている。

それでも新型は、ボディ剛性、走行安定性と乗り心地のバランス、衝突被害軽減ブレーキ/運転支援機能/通信機能などの先進技術を進化させた。とくに先進技術は、現在のクルマではもっとも進化の著しいカテゴリーで、マイナーチェンジでは対応できないことも多い。そこで技術中心のフルモデルチェンジを実施するため、デザインはあまり変わらずキープコンセプトになる。

キープコンセプトとコンセプトチェンジの中間もある
その一方でトヨタ・ランドクルーザー250は、前身となるランドクルーザープラドに比べると、ボディサイズやホイールベース(前輪と後輪の間隔)をランドクルーザー300と同等に拡大して外観も刷新させた。従来型のプラドは、シャシーや駆動システムを悪路向けSUVとして設計しながら内外装は都会的な乗用車感覚で仕上げたが、250は抜本的に悪路指向を強めた。

トヨタ・プリウスも外観を大きく変えた。従来型に比べると、全高を40mm下げて外観を5ドアクーペ風に変更している。パワーユニットも先代型は直列4気筒1.8リッターエンジンをベースにしていたが、現行型は2リッターが主力だ。走行安定性も大幅に向上して、コンセプトチェンジになる。

ちなみに現行プリウスがコンセプトから大幅に変わった背景には、市場環境の変化がある。従来のプリウスは、ハイブリッド専用車として燃費と実用性を重視したが、今はトヨタの幅広い車種にハイブリッドが設定されて燃費を気にする需要が下がった。先代型になる4代目プリウスの2022年における登録台数は、3代目の2010年と比較すると、わずか10分の1と少ない。そこでプリウスの存続を賭けて、5代目の現行型はコンセプトチェンジを行った。現行型では燃費と実用性ではなく、運転の楽しさというモーター駆動が生み出す付加価値の表現に力を入れている。まさにコンセプトの大幅変更だ。

そして、キープコンセプトとコンセプトチェンジの中間的なフルモデルチェンジもある。
たとえば新型ホンダ・フリードだ。ハイブリッドシステムは刷新したが、プラットフォームはホイールベースの数値を含めて先代型と共通で、車内の広さにも大差はない。しかし標準タイプのエアーはフロントマスクをシンプルに仕上げ、車両の雰囲気は大きく変わった。

三菱 デリカミニは、eKクロススペースのマイナーチェンジ版だが、フロントマスクを大幅に変更した。4WDは足まわりのセッティングやタイヤも変えて、マイナーチェンジなのにコンセプトチェンジに近い効果を発揮している。

以上のようにフルモデルチェンジの内容と目的は多種多様だ。このなかでキープコンセプトは、従来型の売れ行きが海外市場も含めると順調で、大きく変える必要がない、あるいは大きく変えると人気を下げる心配が伴う場合に行われる。
そして今は車両の開発も熟成され、キープコンセプトやコンセプトチェンジとの中間的なフルモデルチェンジが増えた。車両の性格を大幅に変える純粋なコンセプトチェンジは、その車種の売れ行きが大きく下がるなど、抜本的な刷新が求められる場合に限られている。