さまざまな方式のサスペンションが生み出されている!

クルマの走行性能を論じるとき、足まわり(サスペンション)の話を抜きには語れない。しかし、一般の多くの方はサスペンションに対して硬いか柔らかいか程度の事しか理解していないだろう。サスペンションの構成部品についてもショックアブソーバー(ダンパー)とスプリングくらいしか知らない人がほとんどだ。

少し詳しい人ならスタビライザーやサスペンションブッシュについて知識があるかもしれない。実際にはサスペンションはそれよりもはるかに複雑で難しい仕組みで構成されている。



硬いか柔らかいかは単純にスプリングやダンパーの硬さを示しているが、スプリングそのものの硬さ(バネレート)だけを取り上げても意味がないことは以前にもリポートした。

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サスペンションとひとことで言い表しても、その型式や機構はじつにさまざまだ。現在もっとも一般的な型式になっているといえるのが、ストラット式サスペンションだろう。おもにフロントサスペンションとして採用されている場合が多い。ストラット式の特徴はスプリングとダンパーを一体とし、そこに車輪を取り付けるハブと車軸となるスピンドルやブレーキシステムも組み合わせている。正式名称は開発者にちなんでマクファーソン・ストラットと呼ばれているが、レーシングカーで名を馳せたロータスの創始者であるコーリン・チャップマン氏が由来のチャップマン・ストラットという型式もある。



ストラット式は構成部品点数が少なくスペースも大きく取らないので量産車の低コスト化に寄与し、フロントにエンジンを横置きするFF車の発展とともにメジャーな方式となった。ほかにもレーシングカーなど高性能車に多く採用されるダブルウイッシュボーン方式やマルチリンク方式、トーションビーム方式、リジッドアクスル方式など、さまざまなサスペンションが生み出されているのだ。

硬い柔らかいだけじゃない! クルマ好きなら知っておくべきサスペンションの話をレーシングドライバーが解説



安全性や快適性を求めるならサスペンションの仕組みを知るべし!

これらサスペンションを語るときに重要となるのがサスペンション・ジオメトリー(幾何学)だ。そのサスペンションに装着されたタイヤ/ホイールがどのような経路で上下動し、前輪は転舵されるのか。

その特徴を理解して設計しないと操縦安定性が確立できない。
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トーインやキャンバー角、キャスター角などアライメントという言葉で表されるタイヤ/ホイールの位置決めは、静止した1Gの自重位置で決められる静的なイニシャル値が車種ごとに与えられる。ジオメトリーは静的なアライメント位置からサスペンショが上下動(ストローク)したときにどのような軌跡を描くのかを決めていくので、その最適値の設定は非常に難しい。ストラット型式でみるとサスペンションが縮み側(上方)にストロークしたときにキャンバー変化が起こるが、その度合いはストラット下部を支え車体側と繋いでいるロワアームの長さと角度によって変化する。

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また上下ストローク時には車体からの距離も変化するのでトレッド(左右タイヤ接地中心間距離)も変化することになり、キャンバー角やトレッド幅が変化することはタイヤのグリップ変化を引き起こしハンドリングに大きく影響を及ぼすというわけだ。



ダブルウイッシュボーン式となるとさらに話は複雑化し、ロワアームの角度と長さだけでなく上方を支えるアッパーアームの長さや角度との組み合わせでキャンバー変化やトレッド変化が起こり設計の自由度も高まる反面、設計者のセンスが問われることになる。ダブルウイッシュボーン式だから操縦性がいいと一概には言えないのである。



しかもフロントサスペンションとリヤサスペンションはシャシーで連結されることでお互いに作用しあうことになる。前後のロールセンター(車体がロールするときの中心軸)を結ぶ線が車体のロール軸となり旋回時の車体姿勢に大きく関与している。対角ロールを発生させアンダーステアとなったり、逆にオーバーステアにすることも設計的に行えるわけだ。



リヤサスペンションをみれば近年トーションビーム式がFF車用リヤサスペンションとして台頭している。鋼鉄製のU字型ビームを車体下に取り付け両端に車輪を取り付ける。

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部品点数はストラットよりさらに少なく、生産性も高いので安価なモデルに広く採用されている。一見単純な仕組みに見えるトーションビーム式だが、実はそれを極めるにもノウハウが必要だ。フランスのコンパクトカーとして知られるルノーやプジョーなどはトーションビームの捻れ特性を上手くコントロールし、しなやかな乗り味と高い操縦性を両立している。トーションビームは捩じれることでスタビライザーの役目を持たせることでより高い機能を発揮できるようになるわけだが、鋼材の捻れを管理し生産するのは難しく簡単なことではない。

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トーションビーム式はタイヤが上下にストロークしてもキャンバー変化やトー変化は少ないが、左右輪が緩衝し合い、またホイールベース変化(前後タイヤ中心位置間距離)を引き起こす。また鋼鉄のビームは重くバネ下位置でのレイアウトになるので運動性にも影響を及ぼす。

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そうした特性を熟知し最適な位置でレイアウトしなければならず、見た目は単純でも奥が深いのだ。



このようにサスペンションについてはさまざまな知見が求められる。今後ガソリン車が減少し電気自動車が増えていってもサスペンションは必要だ。設計する側も乗りこなし操る側もサスペンションについてより正しく理解し熟知することが安全に楽しく快適で、かつ限界特性を極め、速さを追求する上でもより重要度が増しているといえる。

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