2019年はライバルのホンダ・フリードを引き離した
自販連(日本自動車販売協会連合会)の統計による、2019暦年締め(2019年1月~12月)での通称名別(車名別)登録車年間販売ランキングを見ると、トヨタ・シエンタが3位にランクインしている。ちなみに2018暦年締めで5位、2017暦年締めでは7位だった。
そしてシエンタで忘れてはいけないのが、宿敵ホンダ・フリードの存在だ。
この結果については、さまざまな背景を挙げることができるのだが、そのひとつとして「シエンタタクシーが貢献している」という指摘もある。
現在トヨタでは、タクシー専用車として“JPNタクシー”がラインアップされている。1.5リッターベースのLPガスハイブリッドユニットを搭載し、後席スライドドアを採用。さらに車いすでの利用にも配慮されたタクシーなのだが、車両価格が上級仕様で350万円となり、かつてのクラウンコンフォートよりも100万円ほど高額だ。都市部の大手タクシー会社では積極的に車両導入が進んでいるが、東京隣接県では、東京より明らかにJPNタクシーの普及スピードが遅い印象を受ける。

ある事情通は「いまだに、未登録で未使用のクラウンコンフォートをストックしているタクシー事業者もいると聞いています」とのこと。JPNタクシーにある意味“抵抗感”を示す動きも一部事業者には見られるのだが、その理由としては、価格の部分が大きい。MPVスタイルの割にはセダンタイプのコンフォートと積載性能に大差がないことや、車いす利用時に後席スライドドアから乗り込む“ロンドンスタイル”といわれるものが日本の事情にそぐわないこと、スロープ設置の煩雑さ(発売後改良されているが……)などもあるようだ。

2列シート仕様が登場したこともありシエンタタクシーが増加
そんななか、街なかでは“シエンタタクシー”を見かける機会が多くなってきている。シエンタはもちろんガソリンエンジンを搭載しているが、専門業者でLPガスも燃料として使える改造が可能。ガソリンエンジン車ベースならば、ガソリンとLPガスでの“バイフューエル”仕様となる。またハイブリッド仕様をLPガスも使えるように改造すれば、“トリプルハイブリッド”仕様となり、航続距離は1500kmぐらいまで伸びるとのことである。しかも、改造費を含めてもJPNタクシーより安く導入することも可能というのが、タクシー事業者の間では最大のメリットと受け止められているようだ。
スロープ設定が煩雑といったこともあるが、JPNタクシーはユニバーサルデザインタクシーとして認定されているので、シエンタタクシーと同列で考えることに違和感を覚えるひともいるかもしれない。しかし、大手事業者でもなければ、導入時の負担増は大きい。ただしコンフォート系と比べてハイブリッド仕様なので、燃費性能は格段に向上している。導入後の燃料費負担は飛躍的に軽減されることになるので、個々の事業者がこのあたりをどう考えるかで、JPNタクシーの評価がわかれているのも事実のようである。
さまざまな理由から、“アンチJPNタクシー派”のようなタクシー事業者もおり、じわじわとシエンタタクシーが増えてきている。東京のある大手タクシー事業者ではシエンタタクシーを100台も導入したといった話がある。モデル途中で2列シート仕様が追加設定されたのも、シエンタタクシーが導入される要因になっているようだ。

シエンタタクシーが増えていることで、当然ながら利用者の間でも乗り合わせる機会も多くなる。そうなると「こんなクルマもあったんだ」と新たにシエンタというクルマを知るひとが増え、それが新車販売台数を押し上げているのではないかというのである。実際問題は別としても、タクシーとして使われていると乗客からすれば“耐久性もありそう”と思うのは自然の流れ。しかも、日々運転している乗務員からは、まさにリアルな“インプレッション”を聞くこともできる。

かつては、タクシー車両をトラックシャシーベースではない純国際乗用車として出そうと、初代クラウンがデビューした。その後もJPNタクシー登場まで60年にわたってタクシー仕様車のラインアップを続けてきた。タクシーとして酷使されることで耐久性や快適性があがり、誰でもタクシーとして利用するので知名度も抜群。いまの日本車のなかでは群を抜くステイタスを築き上げたといってもいいだろう。
アメリカでプリウスが人気モデルとなったのも、「タクシーとして使っているのだから、耐久性もあるのだろう」という側面もあると現地で聞いたことがある。逆にタクシーで使われているから嫌だという消費者心理もあるようだが、存在を広く知ってもらうという面では、日々街なかを走るタクシーとしての使用は一定の効果はあるようだ。
フリードと販売台数で大差をつけることに成功したシエンタ。やはりタクシーとしての活躍が少なからず影響していたのかもしれない。