時計に例えるのはあくまでも目安だ

クルマを運転する際に最初に注意すべきポイントはドライビングポジションが正しく取れているかということ。そして良く議論されるのがステアリング(ハンドル)の持ち方(位置)だ。一般的にはハンドルの円周を時計に見立て10時10分とか、9時15分の位置に左右の手を起き保持するのが善しとされる。

その理由は正しく取ったドライビングポジションを崩さない姿勢を保ちやすいからだ。



ということは正しいドライビングポジションとはどうあるべきか、というところから考える必要がある。



クルマに乗り込み運転席に座る。この「座る」位置がまず重要で、臀部をシート奥深い位置にはめ込むように座る。腰とシートの間に隙間を作らないようにするためで、正しい位置に尻を置けると身体全体とシート表面の接触面積が最大となりシートのホールド性が発揮できる。



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自動車というのは走っていると上下左右に必ず振られ動く。その度に身体が動いてしまっては正確な操作が行いにくい。「ハンドルを切り損ねた」という表現が交通事故の際に用いられることが多いが、それも正しいドライビングポジションが保持できていなかったことによる場合が多い。



背中をシートバックに密着させ、両肩が離れないように背筋を伸ばす。そうしてペダルにしっかり足が届き、ハンドル全周に両手が肘を伸び切らずに届くようにシート位置を調整するのだ。



シート位置が決まり、いよいよハンドルを持つわけだが、握る位置はじつはあまり重要ではない。少なくとも右手はハンドル円周の右半分のどこかに、左手は左側円周上のどこかにあれば良いわけで10時10分から4時40分の範囲に置かれていればいい。

その上で左右対象に位置させることがハンドル操作をもっとも効率良く行える。



10時10分か9時15分か? 押すか引くか? レーシングドライバーが語る本当のクルマのハンドルの切り方とは



自動車のハンドルは装着される位置や高さ、角度などがさまざまで、10時10分とか決めてしまうと保持できないようなクルマを操るときに難儀する。たとえば英国の旧車「ミニ」。ハンドルの装着角度が大きく10時10分で握ろうとすると両肘が伸び切ってしまう。



近年のクルマはテレスコピックやチルト機構などハンドル位置の調整装置が備わっている場合が多く、自分のドライビングポジションに合う位置にハンドルを動かせるが、それができないモデルや旧車の多くなどはハンドルの位置に合わせてドライビングポジションやハンドル保持位置を合わせなければならない。



曲がりたい方向に引くほうがスムースに走れる

そしてじつは握る位置よりも重要なのがハンドル操作の方法なのだ。多くの人は自分流の操作方法が身についていると思う。多くのドライバーは教習所で教わった操作方法がベースにあって、そこから自分の操作しやすい方法に発展していったはずだ。俗に言われる「内掛けハンドル」や「ストレートアーム」は推奨できないが、それが習慣になってしまっているドライバーも多勢いるだろう。トラックドライバーのように大径ハンドルを操作する場合は内掛けハンドルを多用するので、それを乗用車でも行ってしまう。普段馴染んだ操作を急に変えるのは難しい。



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免許を取得してこれからマイカーを持とうというビギナーだったら、最初から正しい操作を心得としておけば身に付くのも早い。



そこで推奨したいのは「プル(引く)」方式の送り操作だ。右に曲がろうとする場合、教習所では左手を「プッシュ(押す)」操舵から始めると教えているだろう。それに対し「プル」は右手を引き下げるのが最初のアクションになる。このプッシュかプルか、という議論はプロドライバーの間でも長年語られており、教習所を含め世のなかの大多数はプッシュ式を勧めている。



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私のようにプル式を習慣化しているのはレーシングドライバーに多い。それはハイスピードドライビングでは絶対にミスが許されず、精緻な操作が求められているからだ。「ハンドルを切り損ねた」ら生死に直結するため絶対にしてはならない。



ハンドルを切り込めばクルマは旋回し始め横G(重力)が発生する。ハイスピードになるほどGフォースが高まり、ハンドルを操作する両手にもGがかかり正確な操作が難しくなる。プッシュ式はGがかかるのに抗する方向に手を押し上げていかなければならないので余計に力が必要になる。レーシングカーで言えばただでさえ重いステアリング操作力に加え、大きなGフォースにも耐えなければならないのだから腕にかかる負担が大きい。



プル方式であればハンドルを切り下げると切り増す方向にGが掛かっていく。

腕力を使わなくてもグリップをしっかり握っていれば自然に転舵でき、余った力で正確に微操作を行える。また現代のクルマはほとんどがパワーステアリングを装備しており、一般道を安全な速度で走っていればハンドル操作に苦労を感じることもないだろう。だが旧車でパワーステアリングが装備されていないクルマであれば、プッシュ式ではすぐに疲れてしまうとわかる。



普段はプッシュ式でゆっくり走り、サーキット走行やスポーツ走行、パワーアシストのないクルマを走らせるときはプル式に、と柔軟に切り替えられればいいが、多くの人は急に操作方式を変えられない。まずはプル式をマスターし身につけておくことが緊急時にも助けとなる。



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プル式を操舵の基本として考えるならば、ハンドルの持ち位置は引き代を大きくとれる10時10分が理に適ってくる。この持ち位置を身につけていれば乗用車からレーシングカーまで何でも乗りこなせるようになれる。ぜひ参考にしてもらいたい。



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