回収しきれなかったタイヤカスが川や海に流れる

海に散るマイクロプラスチックの影響が、問題化している。これを魚が食べ、その魚を捕食する人間の健康に影響が及ぶ懸念も語られる。



マイクロプラスチックは、海に投棄されたプラスチック製品が、紫外線や波によって微粒子化したものをいう。

そしてタイヤカスも、マイクロプラスチックの問題と関わっている。ある調査によれば、マイクロプラスチックの28%がタイヤであるという。4分の1以上を占め、その影響は無視しえない。



タイヤは、天然ゴムのほかに合成ゴムが使われている。合成ゴムは、容器や包装、あるいはペットボトルなどのプラスチックと同様に石油を原料とした化学製品であるため、マイクロプラスチックに関わる。



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クルマが走行することでタイヤが摩耗していくことは誰でも知っている。なぜ摩耗するかというと、タイヤのグリップは、接地面のゴムの粘着性とともに、ゴムが千切れることでも生じているからだ。たとえば消しゴムをこすると、抵抗を感じ、鉛筆で書いた文字が消えていく。その抵抗が、タイヤではグリップ力の一部となっている。



タイヤの接地面が摩耗して千切れたゴムのカスは、道路清掃車によって回収される。しかし、常時清掃が行われているわけではないので、路面に残ったゴムのカスが雨によって側溝へ流れ、川を経て海に放出される。そして、紫外線や波の影響を受けながら次第にマイクロプラスチック化していくのである。



クルマからタイヤをなくすことはすぐにできないまでも、マイクロプラスチック化するゴムのカスを減らす努力はしなければならない。



「環境」と「安全」のジレンマ! クルマのタイヤが削れた「カス」の行方とは



これまでも、天然素材のトウモロコシやオレンジの搾り滓などをタイヤに利用した例がある。いずれも燃費を向上させるため編み出された技術だ。しかしタイヤすべてを天然素材でつくる例は極めてまれだ。



それでも、ダンロップが2013年にエナセーブ100という、石油以外の自然素材を100%使ったタイヤを市販した。わずか1サイズで、その後、拡販された様子はないが、自然由来の材料でタイヤをつくれば、マイクロプラスチックの問題を解決できる。



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しっかりとグリップする天然素材のタイヤの開発が待たれる

天然ゴムや、天然素材だけでタイヤをつくる難しさは、高いグリップや耐久性の保持にある。それでもダンロップが一度は到達した技術であるから、すべてのタイヤメーカーは改めて100%天然素材によるタイヤづくりに挑戦する意味はある。



ただし、100%天然素材でつくったタイヤでグリップが落ちれば、安全への懸念の声が出るかもしれない。だが、運転支援の電子制御装置が普及しはじめており、完全自動運転へ向けた技術開発が行われていることを含め、危険に対する車両側の早期発見などへの期待と、100%天然素材のタイヤのグリップとの調和をはかるといった、次世代の安全なクルマづくりに総力を結集することが求められるだろう。



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同時に、超高速走行への高性能化といった考え方も、見直される時期にあるといえる。たとえば速度無制限区間のあるアウトバーンはドイツにしかない高速道路網だ。

ほかの欧州諸国では時速130kmに制限されている。米国では州ごとに最高速度の規定に差があるが、それでも欧州並みである。世界がそうした状況にあるなかで、あらゆるクルマの性能がドイツを指標とすることの異常さを認識すべきだ。



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もう一つ、やたらな扁平タイヤ志向も、見直されていかざるを得ないだろう。SUVなどに超扁平タイヤを装着する傾向も考え直されるべきではないか。扁平化し、接地面積の増えたタイヤからのゴムの滓は多くならざるを得ないはずだ。個人の趣味として扁平タイヤを選ぶならともかく、自動車メーカー自ら扁平化を推し進める現状は不自然というしかない。かつて、メルセデス・ベンツは扁平率60%がもっとも総合性能が高いといっていた。



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格好いいクルマの造形を創造するカーデザイナーも、扁平タイヤを前提としたスケッチからの脱皮が求められそうだ。



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環境や安全への課題を含め、クルマの在り方をこれまでの延長ではなく、目標設定をし直すことが、クルマとそれを走らせるタイヤを存続する要になっていくだろう。

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