モーターのように高回転まで吹き上がるフィーリングに驚いた

じつをいうと、ボクが運転免許を取得して最初に購入したクルマが「マツダ・ファミリア・ロータリークーペ」だ。1968年、当時ファミリーカーの代表格だったファミリアに先進のハイパワーロータリーエンジンを搭載し登場した。1970年に従兄が新車購入したものを、5年後に安価に引き取らせてもらったのだ。



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このクルマの何がカッコいいかといえば、そのインパネデザインにあった。飛行機のコクピットをヒントにデザインされたというインパネは、T字型ダッシュボードに大小5連のメータを配置し、ダッシュボード下には4速マミュアルトランスミッション(MT)の短いシフトレバーが配置されていた。



何がそんなに魅力的なのか? ロータリーエンジン復活が期待される理由と可能性



大型の速度計は200km/hスケールで高性能を表していたものだ。その隣に配置されるエンジン回転計はフルスケール8000回転で、6500回転からイエローゾーン表示となっていた。3本スポークのウッドステアリングで座っているだけでもワクワクさせられるコクピットだった。



搭載されていたのは10A型と呼ばれるロータリーユニットの名機で、491ccの排気量を持つローターハウジングを2連結した2ローターエンジンとなっていた。



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その高性能ぶりは今でも鮮明に覚えている。まさにモーターのように静かで無振動に回転しつつも、アクセルを踏み込むとストレスなく一気に6000回転オーバーまで吹き上がり、その先も勢いで回っていってしまいそうになる。最高出力は100馬力だったが、815kgしかない軽量な車体で最高速度はメーカー公表値で180km/hとされていた。



回転フィールはまさにモーターが回っているようで、2輪で経験していた4サイクルのレシプロエンジンより、遊びで楽しんでいたスロットカーのモーターそのもののような回転フィールに魅了されたものだ。



レース仕様は国内のみならず海外でも存在感を示した

ロータリーエンジンは排気量が小さいが、1回転で2度の爆発燃焼を起こす。そのため2回転で1度の爆発で回転する4サイクルのレシプロエンジンより2サイクルのエンジンに近い出力特性となり、レースで使う場合はロータリー係数をかけられる。



レース登場初期はその係数は爆発回数からそのまま2とされていた。

つまり491ccなら1000cc。2ローターなら2000ccと同等とされていたのだ。しかしレシプロエンジンの進化に伴い、ロータリーの燃焼効率はレシプロに比べて劣ることが明らかとなってきて、自動車税課税区分においても係数1.5まで引き下げられることとなる。国際レースに出場する時はその都度係数を競技していた時代もあった。



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ロータリーエンジンはその回転特性の好フィールとは裏腹に燃費の悪さが問題でもあった。ボクが乗っていたファミリアロータリークーペでも、都内一般路使用でリッター5km台。3リッター以上のレシプロ車並みで辟易とさせられたものだ。結局その燃費の悪さに嫌気がさし、手放したのだ。



10A型はローターハウジングの横に開けられた吸気ポートから空気を取り入れるサイドポート方式で、実用性と耐久性の面から選ばれていた。だが、レースではローターハウジングから直接吸気を取り入れるペリフェラルポートが採用されていた。ペリフェラルポートとすることで吸排気効率が向上しパワーアップが図れることから、以降生産車はサイドポート、レース仕様はペリフェラルポートと使い分けるようになった。



モータースポーツシーンでのロータリーの活躍はファミリアロータリークーペの時代からすでに国際レベルで、ベルギーのスパ24時間耐久レースに出場し、優勝こそ逃したものの長い時間トップを独走したというニュースに胸が踊ったものだ。



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国内でも富士グランドチャンピオンシリーズ(GC:通称グラチャン)に本格的レーシングマシンに搭載して出場するなどロータリーの可能性を常に示し、フランスのル・マン24時間レースでは常に存在感を示していて1991年には遂に総合優勝を成し遂げている。



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この時のマシンに搭載されていたロータリーエンジンはR26B型と呼ばれ、654ccのローターを4連装し2600ccとしたペリフェラルポートの4ローターエンジンだった。市販ではユーノスコスモに3ローターが搭載されたことがあるが、4ローターはこのレース専用のみとなった。



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4ローターエンジンは16気筒並みの爆発サイクルと甲高い排気音が特徴で、その音色は12気筒のF1エンジンを凌ぐほど美しくサーキットに響いていた。僕がル・マンにポルシェで出場したときもマツダの4ローターは走っていて、その音量の大きさに追い抜く時は耳を塞ぎたくなるほど。深夜も早朝も轟音を響かせ、睡眠を妨げられたのを記憶している。



汎用性の高さから水素ロータリーなどさまざまな可能性を模索

さて、近年そんなロータリーエンジンの復活を望む声が高まっているという。じつはロータリーエンジンは燃料の自由度が高い。アルコール燃料や液体水素燃料でも簡単に回せる。ボクが卒業した武蔵工業大学(現東京都市大学)は水素エンジンの開発研究で有名で、ボクの在籍時にも故・古浜庄一学部長(後に学長)が、液体水素ロータリーエンジン車を試作し走行テストもしていたほどだ。



その基礎技術を受けて、マツダも一時液体水素ロータリーエンジン搭載車を開発したが、液体燃料の小型化がクリアできず今は凍結されているという。



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一方、世のなかはハイブリッドやEVが主流となりつつある。

モーターのようにエンジン中心に出力軸となるエキセントリックシャフトを持つロータリーエンジンは、モーターをドッキングするのに都合がいい。また直噴のロータリーを提案することもできる。



小さい排気量で、大きなパワーとスムースな回転が引き出せる。現代の技術をミックスさせると、新しい概念のパワーユニットに進化する可能性がある。



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マツダだけでなく、ほとんどすべての自動車メーカーが一度は取り組んだロータリーエンジン。次世代ロータリーが登場するとすればどんな新技術で出てくるのか。大いに興味をそそられるのだ。

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