この記事をまとめると
■ルノー・エスパスの10周年を記念したクルマとして企画された■ウィリアムズ・ルノーF1の3.5リッター800馬力V10をミッドシップ搭載
■2台が製作され、そのうち1台はマトラ博物館に展示されている
欧州初のミニバンは世界初のF1エンジン搭載ミニバンになった
少し前に、ルノーが作ったミニバンクーペという独創的なクルマ、アヴァンタイムを紹介したけれど、ルノーはもっとすごいクルマをミニバンで作ったことがある。その名もエスパスF1。アヴァンタイムのベースでもあったエスパスに、F1エンジンを積んでしまったオバケミニバンだ。
企画の発端は、ヨーロッパ初のミニバンとして1984年にデビューしたエスパスの誕生10周年。以前アヴァンタイムのコラムで書いたように、エスパスはルノーの開発ではなく、航空宇宙分野を本業とするかたわらスポーツカーやレーシングカーを作り、1969年のF1チャンピオンになったことになるマトラが手がけた。

しかも当時ルノーはウィリアムズとのコンビで1992年からタイトルを獲得し続けていた。そこでF1で頂点を極めた3メイクスのコラボを思いついたようだ。
そのエンジンは、1992年のF1チャンピオンに輝いたウィリアムズ・ルノー FW14BのRS4型3.5リッターV10で、800馬力近い最高出力をマーク。これをF1と同じようにミッドシップマウントしていた。

エスパスは3列シート7人乗りだが、エスパスF1は3列目は撤去し、2列目はエンジンを挟むようにフロントと同じバケットシートを並べた。たぶん史上もっともうるさいシートであったことだろう。
さすがにシャシーはエスパスそのものではなく、リヤサスペンションもFW14Bから移植。でもフロント側はエスパスのそれを強化して使うという、フランスらしい合理主義も発揮していた。
デビューの場は1994年のパリ・モーターショー。その後アラン・プロストなどによりサーキットでデモランを行なったが、さすがに市販はされず、2台が製作されるだけだった。

実際に見たエスパスF1の遊び心に感心しきり
そんな希少なクルマを、僕は見たことがある。エスパスF1は1台をルノーが所有し、もう1台はかつてエスパスやアヴァンタイムを生産していたロモランタン・ラントネという町にあるミュゼ・マトラ、つまりマトラ博物館に展示してある。2005年にそこに行ったことがあるのだ。

外観はキャビンや前後フード、ドアミラーはエスパスそのものだが、ウエストから下はフェンダーはワイドになっていて、おまけに超ローダウン。フロントドアには巨大なルーバー、リアにはこれまた巨大なウイングを備えている。でもゴテゴテ感はなくスマートに仕立てているところはさすがフランスだ。

リヤゲートが開いていたので覗いてみると、3.5リッターV10はむき出しというわけではなかったが、カーボンファイバー製ロールケージに囲まれた穴から、エンジンやサスペンションを見ることができた。
日本人やドイツ人だったらおそらく、こんなに背の高いボディではF1のパフォーマンスに耐えられないと思って、一般的なスーパースポーツの形に行き着くのだろう。現実にそういうクルマも開発中だというし。でも個人的にはそういう考え方、真面目すぎてつまらない。

所詮は遊び。それなら徹底的に遊んだほうが楽しいでしょう。